表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/60

第41話 最初の店は、ライバル(?)店

「よし! 一番、強そうな、灼熱砂漠のサラマンダーから、片付けようぜ!」

「いや、効率を考えれば、三つのミッションの移動距離と、食材の保存性を総合的に評価し、最適なルートを算出する必要がある。まず、私が三次元マッピングデータを……」

「お祭りだ! 順番なんて、どうでもいいよ!」


 部室では、早くも、次の冒険の順番を巡って、カオスな議論が始まっていた。

 その、三者三様の主張を、ひまりの、鈴が鳴るような、静かな一言が、制した。


「皆様。まず、私たちの、大切なお友達に、ご挨拶に伺うのが、筋というものではないでしょうか」

「「「あ」」」

 三人の声が、綺麗にハモった。

 私たちの、大切なお友達。万年氷の洞窟で、芸術に目覚めた、あの、不器用なイエティさんのことだ。


「イエティさんに、マーケットのお話をすれば、きっと、喜んで、かき氷のための氷を、分けてくださいますわ。まずは、一番、心温まるミッションから、始めましょう」


 ひまりの、あまりにも、優しくて、まっとうな提案に、誰も、異論を唱える者はいなかった。

 こうして、私たちの、廃部回避をかけた、地獄の食材調達ツアーの、最初の目的地は、万年氷の洞窟に、決定した。


 翌日。

 私たちは、再び、美浜神社の裏山を、登っていた。

 一度、来た道だ。足取りも、心なしか軽い。


(まあ、イエティさんに会いに行くだけなら……。この前の、夜の学校よりは、ずっと、ずっと、マシよね……)


 私の心は、ここ最近では、珍しいくらいに、穏やかだった。

 やがて、見慣れた、洞窟の入り口が見えてくる。入り口を飾る、美しい霜の結晶も、そのままだ。

 だが、その、入り口の脇に、以前はなかった、一枚の、木の板が立てかけられていることに、私たちは、気がついた。

 板には、クレヨンで描いたような、拙い、しかし、味のある絵と、文字が書かれている。


 夏帆が、その文字を、ゆっくりと、読み上げた。


「『イエティの、ひんやり、おかしやさん。みんな、どうぞ』……?」

「……え?」


 私たちは、顔を見合わせる。

 そして、恐る恐る、洞窟の中を、覗き込んだ。


 そこには、信じがたい光景が、広がっていた。

 洞窟の中は、以前よりも、さらに、芸術的な空間へと、変貌を遂げていたのだ。

 巨大な氷のパフェ。タワーのようにそびえ立つ、氷のウェディングケーキ。キラキラと輝く、氷のフルーツタルト。

 様々な、氷のスイーツ彫刻が、洞窟の至る所に、展示されている。


 そして、その中央で。

 私たちの友人である、イエティが、紙で作った、歪なコック帽を被り、小さな氷スライムに、ペロペロキャンディーの形をした氷を、「ほらよ」とでも言うように、手渡していた。

 スライムは、嬉しそうに、それを受け取って、ぷるぷると震えている。


「まあ、素晴らしい……!」

 ひまりが、感極まったように、声を上げた。

「自分の作品で、誰かを喜ばせたいという、芸術家の魂が、完全に、開花したのですね!」


 その、あまりにも、ハートフルで、そして、平和な光景。

 私は、ただ、呆然と、立ち尽くしていた。


(お、お店……!? いつの間に、開店してたの……!?)


(ていうか、それってつまり、私たち、これから、同じマーケットに出店するかもしれない、同業者ライバルに、材料の仕入れをお願いしに行くってこと……!?)


 あまりにも、シュールな状況に、私の脳の、キャパシティーは、完全に、ショート寸前だった。

 イエティは、私たちの存在に気づくと、人の良さそうな笑顔で、「ガウ!(いらっしゃい!)」と、手を振った。

 その笑顔が、今は、ひどく、眩しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ