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第16話 眠れるモグラと灼熱の果実

 ひまりの『美食家の勘』という、あまりにも不確かなものを道標に、私たちは、ただただ広がる砂漠を歩き続けていた。

 太陽(のような照明)は真上にあり、自分の影だけが頼りだ。もう、どれくらい歩いただろうか。


「本当にこっちで合ってるの……? ただ砂しかないじゃない……」

「大丈夫だって、円! ひまりの勘と澪のデータが合体したんだから、最強だよ!」


 夏帆は元気に言うが、その額にも玉の汗が光っている。

 私が、そろそろ本気で引き返そうかと考え始めた、その時だった。

 澪が、ぴたりと足を止めた。


「……見ろ」


 澪が指差す先。なだらかな砂丘の麓に、ぽっかりと黒い穴が空いていた。サンドモグラの足跡は、その穴へと一直線に続いている。


「この地形……地熱の噴出口が、長年の熱で周囲の砂を溶かし、形成された天然のガラス洞窟。いわゆる『フルグライト』の巨大なものだ。内部は相当な高温が維持されていると推測される」

「うおお! まるで秘密基地じゃん!」


 夏帆が目を輝かせて、穴へと駆け寄っていく。私も恐る恐る後を追った。

 洞窟の入り口に立つと、中はサウナのような、むっとした熱気と湿気に満ちていた。壁は、澪の言う通り、黒く輝くガラスでできている。


 そして、私たちは見た。

 洞窟の中央に、一本だけ、不思議なヤシの木がそびえ立っていたのだ。

 幹は燃えるように赤く、まるで溶岩が冷え固まったかのよう。そのてっぺんには、ココナッツらしきオレンジ色の果実が、三つ、四つ、心臓のように、ぽう、ぽう、と明滅している。


「……あった。常夏ココナッツ……」


 誰かが、ごくりと息を呑む。

 だが、私たちの視線は、すぐにそのヤシの木の根元へと引き寄せられた。

 そこに、丸くなって、すやすやと寝息を立てている生き物がいた。

 体長は、軽自動車ほどもあるだろうか。巨大なシャベルのような爪を持つ、巨大なモグラ。……サンドモグラだ。


「……ボスだ」

 夏帆が、興奮を押し殺した声で呟く。


「まあ……なんて情熱的な色合いの果実でしょう。火傷をしてしまいそうですけれど、素晴らしいですわ」

 ひまりは、巨大モグラには目もくれず、ココナッツにだけ、うっとりとした視線を送っている。


「サンドモグラは聴覚が極めて鋭い。データによれば、僅かな物音でも目を覚ます。音を立てずに、目標を回収する必要があるな」


 澪が冷静に、しかし小さな声で状況を分析する。

 静かに、慎重に、あのココナッツを盗ってこなければならない。

 それは分かった。分かったが、しかし。


 三人の視線が、なぜか、一斉に、私に集まった。


「……な、なによ」

「円はさ、四人の中で一番、存在感が薄いじゃん? だから、こういうの、得意でしょ?」

「ひどい!?」

「合理的だ。小日向さんは我々の中で最も軽量。足音も最小限に抑えられる」

「そういう問題!?」

「円ちゃんなら、きっとできますわ。あなたには、いざという時の度胸がありますもの」

「ないわよ! 全然ない!」


 なんで私が、あんな巨大なモグラが寝ている横を、ソロでステルスミッションしなきゃいけないのよ!


「絶対嫌よ! 私が一番、こういうのでパニックになって、大声を出すタイプだって知ってるでしょ!」


 私の悲痛な抗議は、三人の「大丈夫!」「君ならできる!」「期待していますわ!」という、無責任な励ましの声によって、むなしくかき消されていくのだった。

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