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第14話 灼熱にはお茶を、問題には新しい問題を

 七里ヶ浜ダンジョン第三階層。

 私たちの目の前には、信じがたい光景が広がっていた。

 右へと続く通路は、壁一面に霜が張り付き、ひんやりとした青白い光に包まれている。『←極寒氷雪フロア』という、やけにポップな書体の看板。

 そして、私たちが進むべき左の通路。そこからは、陽炎が立ち上り、むわっとした熱風が吹き付けてくる。『灼熱砂漠フロア→』という、燃えるようなデザインの看板。


「うおお! 本当に分かれてる! ハイテクだねー!」

「どういうテクノロジーなのよ……。もう何も考えたくない……」


 夏帆の歓声に、私はもはやツッコむ気力も湧かない。

 覚悟を決めて左の通路へ足を踏み入れると、そこは、まさに砂漠だった。どこまでも続く砂丘、点在する奇妙な形のサボテン、そして天井には、太陽と見紛うばかりの巨大な発光体が、じりじりと熱を放っている。


「うっ……あ、暑い……」


 一歩進むごとに、汗が玉のように噴き出してくる。

 そんな私を尻目に、澪は例の『パーソナル冷感システムMARK-Ⅳ』を、自信満々に頭に装着した。


「これさえあれば、問題ない」


 ウィィィン、と大きな音を立てて、ヘルメットのファンが回り始める。すると、澪の顔に向かって、ぶおっ、と熱風が吹き付けた。吸気口から入り込んだ砂が、顔中にばらまかれている。


「……ふむ。吸気フィルターに、根本的な設計上の欠陥があったようだ」


 平然と分析しながら、ヘルメットを脱ぐ澪。その顔は砂まみれだ。やっぱり、ただの役立たずだったじゃない。

 私が熱と絶望でくらくらし始めた、その時だった。


「円ちゃん、これをどうぞ」


 ひまりが、美しいガラスの水筒を差し出してきた。中には、透き通った琥珀色のお茶と、ミントの葉が浮かんでいる。


「夏野菜と南国のスパイスを数種類配合した、特製の『熱覚まし茶』ですの。体の内側から、熱を制するのですわ」


 疑う気力もなく、私はそのお茶を一口飲んだ。

 すっとした清涼感と、後から追いかけてくるスパイシーな香りが、体中の熱を洗い流していく。……美味しい。めちゃくちゃ美味しい。


「おお! ひまり、あたしにも!」

「ええ、もちろん。澪ちゃんもどうぞ」

「……感謝する。成分分析のため、一口いただく」


 ひまりのおかげで、私たちはなんとか灼熱地獄の入り口で全滅する事態を免れた。

 すっかり元気を取り戻した夏帆が、砂丘の上から遠くを指差す。


「よし! あそこに見える、一番でっかいオアシスまで行ってみようよ! なんかありそうじゃん!」


 夏帆の指差す先には、確かにヤシの木のようなものが生えた、大きなオアシスが見える。

 しかし、私たちが一歩踏み出そうとした瞬間、澪が「待て」と制止した。彼女は、地面の砂をじっと見つめている。


「この足跡……。データによれば、大型の齧歯類、『サンドモグラ』のものだ。彼らは地中の水脈を求めて移動する。そして、その巣の近くには、しばしば希少な植物が群生している傾向が確認されている」


 澪が指し示したのは、オアシスとは全く逆方向へと続く、小さな動物の足跡だった。


 一方は、見た目に分かりやすいオアシス。

 もう一方は、データだけが頼りの、何もない砂漠。


(せっかく涼しくなって、一息つけると思ったのに……)


 どうしてこの人たちは、こうも次から次へと、新しい問題を持ってきてしまうのだろうか。

 灼熱の太陽(のような照明)の下、私のため息は、乾いた砂に吸い込まれて消えていった。

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