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#5 足跡を覗く。

エスト村はそれほど規模の大きくない農村だ。家畜や田畑を育て、それで生計を立てている。故に村人の数も少なく、俺たちはすぐに注目の的になった。村を走り回る子供や作業に勤しむ村人たち、それらのほぼ全てから目を向けられた。怪しむような、珍しいもののようなそんな目だ。

いくらカトデラルという大きな街が近くにあるとは言え、わざわざ山を越えこの村を訪れるものは少ないのだろう。辺りを見回すとクワを土に打ち付け汗を流す人々、牛…だろうか、六足の巨大な動物を笛で誘導する女性、木の棒を振り回し野を駆ける少年、牧歌的で昔ながらの暮らしがそこにはあった。小さいながらも暮らしを営む彼らはカトデラルとはまた違った感動を俺に与えた。感動し、心を震わせている俺の尻になにかがぶつかった。叩かれたような、そんな衝撃だ。慌てて後ろを振り返ると木の棒を持った少年と嬉しそうな顔でこちらを見つめる少女がいた。しかし俺の顔を見るや否や慌てた顔で頭を下げた。


「ごめんなさい!知り合いだと勘違いして…!」

「ちぇー、レボルじゃねーのかよ」

「気にするな、私は似てるらしいからな」


慌てて頭を下げる少女と手を頭の後ろに当て不服そうに土を蹴る少年。レボル、彼は昔ここにきたことがあるのだろうか。聞き覚えのある名前が聞こえたからかクラウドが物凄い勢いで俺と子供の間に入る。


「レボルの知り合いか?」

「は、はい!昔依頼でこの村に来てくれて、私たちを助けてくれたんです!」

「兄ちゃんはレボルの友達か!?なぁなぁ、レボルは今なにしてんだ?もしかしてもう金等級になっちゃって王都に行ったとか?」


目を輝かせる彼を見てクラウドは一瞬苦虫を噛み潰したような顔をしたがすぐにいつものヘラヘラした様子に戻った。


「あいつは…あいつは今遠くにいる」

「遠く?」

「それってすごいところか!?すげぇ強かったもんなぁ…」

「すごいところかは分からないが、とにかく遠いところだ」

「そうなんだ、やっぱり冒険者って忙しいんだね」

「また会いてーよなぁー」


彼らと話すクラウドの背中がすごく悲しそうで目を逸らしたらすぐにでも消えてしまいそうな感覚がした。大丈夫か、とクラウドに耳打ちするが彼は首を縦に振り話題を変える。


「俺たちは群魔狼っていう悪い狼の討伐を依頼された冒険者だ。村長にそのことについて話を聞きにきたんだよ、今どこにいるか分かるか?」

「村長なら今の時間は向こうの畑にいると思います!良ければ案内しましょうか?」

「ほらほら、早くしないと置いてくぜー。えぇーっと」

「俺はクラウド、こっちのがマグナだ」

「俺はケイト、このチビがリンな!よろしくなー!」

「チビじゃないもん!」


彼らに案内され、村の脇道を歩く。少し足を滑らせれば畑に落ちてしまいそうな狭い通路だ。向かっている最中にローブを少し引っ張られる。振り向くとリンが少し不安そうに「あ、あの…」と上目遣いで尋ねる。


「なんだ」

「私はまだ小さいですけど、冒険者になれますか?」

「分からない。リンにできることで冒険に役立つことがあるのであれば、なれるのだろう」

「うーん、かくれんぼが得意です…けど…」

「なら斥候(スカウト)が向いているかもな。仲間の安全を確保する勇敢な役職だ」

「勇敢…!なら私はそのすかうと?っていうのになります!」

「あぁ、頑張れ。冒険者は誰にでもなれる、だが命の危険もあるから気をつけた方がいいってクラウドが言っていた」


先ほどの不安そうな顔は晴れやかになり上機嫌でステップを踏むリン、俺みたいなのがアドバイスしてしまったがこれで彼女の人生に悪影響を与えてしまっていないだろうか。不安だ。

少しして他の家と比べて大きな家の前に着く。家の両脇には大きな畑が二つあり、その片方の柵に老人が座って顔を拭いていた。こちらに気付くと一瞬驚いた顔をしたがすぐにその表情もなくなり、こちらに向かってくる。


「ケイトにリンじゃないか、どうしたんだい?それにこちらの方達は?」

「この人たち悪い狼を退治しに来た冒険者だってさ」

「だから案内してあげたの」

「群魔狼の討伐依頼を受けたクラウドだ。できればやつらについての情報が知りたい」

「そうですか、なら立ち話はなんだし家に入ってくださいな。お前達は親の手伝いに行きなさい、これから大人の話をしてくるからね」

「ちぇー、ほらリンいこうぜ」

「う、うん。それじゃあね!」


忙しない子供達が去っていき、一瞬静寂が訪れる。老人に家まで案内され、クラウドが椅子に座る。俺に交渉の能力や人と話す能力は皆無だ、クラウドに任せて俺は壁に寄りかかって話を聞く姿勢に入った。


「子供達がすまないね」

「大丈夫だ、それにあれくらいの年は遊びたい盛りだろうしな」

「それにそちらの…えぇーっと」

「マグナだ、よろしく頼む」

「マグナさんね、よろしく。そのマグナさんが知り合いに似ていたのでつい驚いてしまった」

「気にするな、さっきもケイトとリンに勘違いされた」

「それと本題だがね、先週くらいから群魔狼がよく見えるようになった」

「数は?どのくらいの時間に見えたんだ?」

「その時は十匹くらいだったが…時間は夕方から夜にかけてよく見られたね。まだ人的被害は出てないが柵が一部破損して近いうちに襲われるかもしれないね…」

「分かった、それなら変にどこか出向くよりもこの村に留まって迎撃した方が早そうだな。よーしマグナ、腕の見せ所だぜ。あいつらは夜目が効くから気をつけろよ」

「任せろ、無事達成したらまたクラウドの奢りでいいんだよな?」

「今度は二人で飲みに行こう、親睦会ってことでどうだ?」

「いいところって期待していいんだな?」

「飯は最高に美味い、生意気な店主が玉にキズだが」

「夜までは好きに村にいてくだされ、なにか必要なものはありますかな?」

「必要になったら都度頼んでもいいか?」

「分かりました、では私は農作業がありますのでここで失礼します」

「あぁ、邪魔したな」


村長の家を出て村の外周を見て回る。実際に一部柵が壊れ、雑な木の板で補われている。噛まれた跡や爪で引っ掻かれた跡が見受けられる。


群魔狼(あいつら)は速いがジャンプ力などは高くない。柵がとにかく邪魔なんだろうな」

「跳ばないなら上からは警戒しなくていいんだな」

「そうだ、だが上と下以外全てを警戒しなくちゃいけない。できるか?」

「やってみせるさ、背中は預けてもいいんだろ?」

「世界一頼もしい背中だろ?存分に寄りかかれ」


村の外周の探索を終え、外で野営の準備をする。村から一部薪を貰い、俺の魔法で火をつける。保存食の一つや二つもおいおい買わないといけないな。パチパチと弾ける火花と赤く燃ゆる焚き火を俺とクラウドで囲んで来たるべき時を待っていた。


「なぁクラウド、昼間のアレ大丈夫か?」

「アレってなんだ?」

「レボルの件だ、辛そうにしてたから心配だ。なにかあるなら私に吐き出してくれ」

「ん?あぁ、なんでもない。大丈夫だ」

「本当か?私はいつでも待っているからな。溜め込みすぎるなよ」

「大丈夫だって、レボルの件はもう乗り越えなくちゃいけないんだ。それに今はマグナがいるしな」


乗り越えなくちゃいけない…それはつまりまだ乗り越えれてないってことだ。まぁ当然か、履歴しか見てないがおそらく仲が良かったのだろう。村の子供達の感じからするに人も良かったに違いない。俺に何かできることはないのか…できれば彼の助けになりたい。

考え事をしていると遠くで遠吠えが聞こえた。前世でたまに聞いていた犬の遠吠えではない。涎を滴らせ、これから貪る獲物に告げる獣の咆哮だ。


「マグナ」

「分かっている」


慌てて立ち上がり、武器を手に取る。俺が見えるのは焚き火のわずか先、それと守るべき村のわずかな光のみだ。壊れた柵は全て南側、つまりブルザレム森林の方から足跡が伸びていた。おそらく来るとしたらそこからだ。


「『火球』、いけるか?狙いはあそこ、当てなくてもいい。とにかく見える範囲と距離を測りたい」

「任せろ」


クラウドが指差す方、森の方に『火球』を二つ放つ。緩やかに暗闇を侵食する小さい太陽は獲物へ牙を剥き出しにする獣の足取りを明らかにする。途中で二つの『火球』は群魔狼に当たったのか、大きな火だるまとなって次第に動かなくなった。だがそれが光源となり、今まさに襲わんとする支配者の姿を光の元に剥き出しにする。


「数は手前に四、奥に四。焼死体、二」

「まずは手前からか?」

「あぁ、村に一匹も通すな。俺が気を引く。とにかく斬れ」

「分かった」


クラウドが背中の剣を抜き、盾を正面に向けて走る。想像よりもずっと速いクラウドの足はあっという間に群魔狼との距離を縮め、二匹の首を切り落とす。脳の支配から逃れた泣き別れの胴体がその速度を緩やかに遅め、やがて地面に倒れ伏した。続く二体の狼の爪を左手の小盾で防ぐ。俺はクラウドの横を通り過ぎて空中に『四足』を使って跳ね飛び、剣の刀身が焚き火の炎を反射して半月のように光を伸ばしながら狼の首を二つ同時に斬り飛ばす。力なくぐったり倒れる屍をよそに、刀身にこびりついた血と油を肘の内側で拭き取る。


「次、後続四。左二匹の処理、できるか?」

「余裕だ」


俺とクラウドは二手に分かれ、対峙する。群魔狼は正面から見るととても大きい。脚が異常に発達しており無駄な肉は削ぎ落とされている。ただ走り捕らえるための形状、爪はそこまで大きくないが牙がとにかく大きい。開けた口からは牙が剥き出しになっており、牙の間からは唾液が滴っている。目は光り、捕食者の風格がある。

少し体が震えたが構わず走る、狙いは定めず牽制で『火球』を放つ。一瞬疲労と倦怠感が俺を襲うが片方の動きが止まった今が好機だ。口元から胴体まで思い切り長剣を突き刺す。肉を貫く感触と牙が指に食い込む痛みが走るが構わず蹴り飛ばし、次に来る群魔狼に目を向ける。じりじりと距離を詰め、一気に加速した速度と質量と殺意の塊をすんでのところで横に転がり回避して太ももから短剣を取り出して腹に突き刺す。そこから後ろ足の方まで一瞬で斬り込む。臓物と血が顔にかかるが構わず短剣を引き抜き逆手で首元に突き刺す。なんとか二体倒し、その場に座り込む。荒い息を整え、クラウドの方へ視線を向けるともう既に二匹倒しており剣を鞘へ納めたところだった。

俺の方を向き、暗闇に背を向けた途端、背後から光の線が一瞬見える。まだもう一匹いたんだ…慌てて魔法を使おうとしたがその瞬間群魔狼の体が二つに裂ける。鞘は剣に収まっているはずだった、だが気付いたときにはもう狼は死んでいて何事もなかったかのようにこちらに向かってきた。


「大丈夫か?怪我してないか?」


そう言って手を差し伸べるクラウドの顔には汗ひとつかいておらず、息も切れていなかった。差し出された手を握り、立ち上がる。


「よく最後もう一匹いたのに気付いたな、すまない」

「お前が謝ることじゃねーよ、それにもう一匹いたのには気付いてた。敢えて背を向けて誘ったのさ」

「クラウドは…すごいな…」

「んなことねぇーよ、死ぬ気で訓練と実戦を繰り返しただけだ。武器回収したら剥ぎ取って帰るぞ」


そう言ってクラウドは群魔狼の皮を丁寧に剥ぎ始める。俺は突き刺した長剣と短剣を回収してローブで血油を拭き取って鞘へ納め、右足を斬り落として回った。最後に残った死体を一箇所に集め、火をつけて燃やした。クラウド曰く魔物の死体を残しておくと疫病の蔓延や死体漁りの他の魔物を寄せ付ける原因になるらしい。パチパチと燃え盛る炎を横目に、衛兵に討伐成功の旨を伝え、雲ひとつない綺麗な星空の元俺とクラウドは街へ戻った。

幸い帰路は魔物に襲われず、傷一つなく街へ戻ることができた。カトデラルの綺麗な街明かりを見た時、帰って来れたと強く実感した。ギルドに群魔狼の皮と右足十一本を納品し、報酬を二人で山分けした。


「さて、無事依頼も成功し金もたんまり手に入った」

「そうだな、ていうことはつまり約束通り奢りだな」

「あぁ、ついてきな。これから行くところはとにかく美味いから頬っぺた落とさないように気をつけろよ」

「あぁ、気をつけよう」

「その前に返り血、落とさないとな」

「あぁそうだった、お互いベタベタだな」

「じゃあさくっと水浴びしてから中央の噴水集合な」

「わかった」


そこからクラウドと分かれ、宿に戻った。料理楽しみだ、それにお金に余裕もできたしこの調子で失敗しないでいきたいな。

宿に向かう途中、少しの悪寒と嫌な視線を感じ慌てて周囲を見渡すも怪しい人影などは見当たらなかった。疲れているのだろうか、なんにせよ早く水浴びして来なければ。今日はいつもより美味しいご飯が食べられるのだから。

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