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#25 神の名前。

魔法、それは魔力を通して世の理を強制的に発現させる技術。これがこの世の常識で基本知識だ。

基本的に魔法とは現実に起こる事象を魔力を使ってなぞるだけに過ぎない、基本の五属性は現実に起こりうる事象だ。では希少属性とはなんなのか、古来より一部の人間がたまたま持って生まれてくる二つの属性。現状では先祖返りというのが主な説として広まっている。はるか昔、人間が二足で立つ前まだ魔力が今より世界に満ち、呼吸をするように全生物が魔法を使っていた頃の名残が残っているのでは?というものだ。

この二つも当然現実に起こる事象を発言させている。傷を癒し、対象を治す力と混乱させ、対象を惑わせる力だ。結局のところ共通しているのは起こり得ないことは魔法では起こらない。つまり俺が現状闇属性の魔法と思っているものはその法則には当てはまらない異常な力ということだ。

一冊の本を読み終わり、少しため息を吐く。俺の力がどんなものか分からなかったということが分かっただけ。収穫がないわけじゃないがそれでも微々たるものしか得られなかった。俺の中にある無数の回路には依然敵の視界を暗くする『暗膜(ブラックアウト)』や動きを遅くする『鈍足(チェーン)』といった闇属性の魔法は存在しない。

この世界で俺しか持っていないかもしれないこの魔法は一体何なのか、益々気になっていた。コーヒーを一口飲み、次の本にも手を伸ばす。ひとまずここにある本を全て読んでから考えよう。

活字を貪り、最後の本の表紙を閉じた。店内にいる客の顔ぶれはガラリと変わり、昼食を食べに来たものたちで溢れていた。これ以上長居するのも迷惑だな、そろそろ出よう。想定より高い会計を済ませ、店を後にする。

道を歩き、あの本に書いてあったことを一つ一つ脳で反芻する。魔法の使い方について書かれた本は大した新しい知識もなかった。中位攻撃魔法しか乗っておらず専門的な魔術については書かれていなかった、やはり魔法と魔術の扱いは全くの別物なのだな。闇属性について書かれていた本の言う通りに魔力を込め、試しに使おうとして手を合わせて魔力を合わせるもやはり俺の中に『暗膜』などの回路は存在せず、不発に終わる。

ひとつだけ気になった文章があった、魔王という存在について書かれた本に載っていたもので、不可思議な力を使うというものだった。それは現存する全ての魔法、魔術と結びつかず、独自の魔法を扱うと。何千年も前に魔王は消息を経ち、代わりに魔王の残滓として魔物だけが残った。絶え間なく溢れ出る魔物について共通して分かっていることはそれだけだった。

門を出て歩く、ファルムンドの周りは魔物が見当たらず代わりに人で溢れている。しばらくして岩肌がむき出しの山の麓に辿り着く、気付けば周りに人はおらず代わりに鳴き声や風の通る音だけが聞こえた。

この魔法を使うための条件は分かっていない、だが共通しているのは怒りの感情が脳を支配した時だけだった。いつも抱えている憤怒の灯火に薪をくべ、意識する。思い出すのはクラウドが死ぬ瞬間、怒りが込み上げ手に力が入る。俺の周囲がざわめき、黒い粒子が溢れる。あの時ほど呑まれてはいない、この力は俺の武器の一つだ。安定して使役しなければならない。



「『罪冠(オーバーロード)』」


自然に口から滑り出たその言葉は本能でわかる、俺の無力故に覚醒したこの力の名前がようやくハッキリと分かった。魔法において重要なのは知覚すること、どうしたらそうなるのかきちんと工程を理解することだ。ゆっくりと溢れ出る黒い粒子を形作り、それはやがて王冠のように俺の頭に収束する。俺の手やローブにも纏わり始め、やがて流動を止める。ズキズキと体が悲鳴を上げ始めるが今はこいつを物にすることが優先だ。痛みを堪え、あの時使っていた魔法を一つ一つ再現する。


「『流渦(リュウカ)』」


黒い粒子が紐のような形を作り岩肌が剥き出しの斜面が抉られ、空間を歪ませる。簡単に削られたそれが空中に浮き、留まった。人差し指を折り曲げ、こちらに来るよう意識すると物凄い速度で向かってくる。右手で殴り、岩を砕く。

つまり対象を拘束して意のままに操る魔法ということだ。これをあの時使えていれば白髪の男は簡単に殺せていたかもしれない。急がば回れだ、玄野。確実に首を刈り取れる方法を取れ、逃がしましたじゃ話にならない。ゆっくりと息を吸いこみ、手を合わせる。あのときは怒りに飲まれて雑に使ったコレは脳を柔軟に思考させれば様々な手札に変化する切り札になり得る。

バチバチとスパークが迸り、黒い粒子とやがて混ざり合うそれは巨大な雷光と化す。


「『奈落雷(ナルカミ)』」


雷光が走り岩肌にぶつかると大きな爆発音が鳴り響く。黒い閃光が迸り、山を抉る。土煙が起こり、俺の髪とローブを揺らす。凄まじい力だ、それに要領も掴めた。つまるところこれは応用の力だ、黒い粒子を纏わせるのが『罪冠』だとしたら属性に纏わせるのがこの力だ。だとするならば、だ。

俺は手をパチンと叩き再び開く。次に纏わせるのは火属性だ、黒い粒子と炎が交わり手の中で極小の黒い炎を形作る。右腕を前に出し、指を鳴らす。


「『火天焔(アグニ)』」


小さな黒炎が巨大化しながらとてつもない熱気を放ち岩肌にぶつかる。やがてそれは岩を溶かし、溶岩に変容させる。ドロドロと溶けだし、周囲の温度を急激に上げる。左に収めていた"鬼灯"が嬉しそうに震えた、(ドラゴン)炎息(ブレス)と感じたのか定かではないがどうにも優れた魔剣というのは意識があるように感じられる。

さて、最後に土属性を変化させよう。もう一度手を合わせ、手の中で黒土を作る。大きく右手を振り下ろし、それを放つ。


「『堕獄土(イザナミ)』」


弾丸のような形に変化した黒土が回転音を大きく出しながら地面にめり込む。一瞬経ったあと地面が大きく爆発する、内側から破裂するように茨の棘を出しながら。貫通力を重きを置き、内側から爆発させるなかなか使える技だ。

他にもあるはずだと思い、回路を探ろうとするもどうやら時間切れのようで『罪冠』が解けてしまう。心臓が素早く脈打ち、呼吸が乱れる。体のあちこちが刺されたように痛く、体温が上がり暑かった。地面に倒れ、空を見上げる。夕焼けに染まったオレンジ色の空が木々の隙間から見えて目を閉じた。

この力は有用だ、汎用性もあるし身体能力も上がっている。だが効果時間は短いし魔力も異常に吸い尽くす。

そろそろ帰らねばならんな、今日一日で得られたものは多かった。ふらふらの足で何とか立ち上がり、門をくぐって街に入った。今日は襲撃などなく、無事に宿まで辿り着くことが出来た。

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