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#21 王都ファルムンド。

シルファとの旅は快適だった、脅威は定期的に現れるものの俺が手古摺るほどのものでもないし彼女の心地いい声を聞きながらする旅というのは俺を安心させた。日数にして約五日、あっという間に王都に辿り着いた。門の前にはあらゆる人達が列を作っており、シルファは荷物や馬車を関所に預けて持ち物検査をしていた。俺は護衛の依頼を完了して彼女と別れた。

驚くくらい呆気なくたどり着いた、カトデラルも属するファルムンド王国の首都、王都ファルムンド。城塞都市という言葉がピッタリと当てはまるような大きな壁が地平線の向こうまで囲われており、中に入ると中央に大きな城が見えるくらいで街の全貌は把握できない。

ひとまず夜になる前に宿を探さないといけないな、寝泊まりができればそれでいい。最低限のベッドがある程度の宿を探して回る。しかし活気が凄まじいな、カトデラルとは比にならない。それにカトデラルでは見当たらなかった貴族のような人たちも散見された。適当に見つけたボロボロの宿屋に目をつけ、扉を開けて入る。くたびれた様子の小さな娘が机に突っ伏してうなだれていた。


「もうお金ないですよぉ…うぅ…」

「もし、泊まってもいいか?」

「え!お客さん!?ちょっとパパー!お客さん来ました!!」


随分と元気な娘だ、俺が客だと分かると意気揚々と裏手に入っていき代わりに体格のいい男が出てくる。


「あんた、お客さんって本当か?」

「ここは宿屋だろ?泊まりに来た」

「見たところ大層な御貴族様って感じですが…本当にうちでいいんですかい?」

「ここが気に入った」


そういうと男は分かりやすく嬉しそうにした。いかにも安そうで、かつ立地がとてもいい。これほど好条件な宿屋もないだろう。


「そうですか…!!ではどれほど泊まっていきますか?」

「ひとまず一ヶ月、食事はつけれるだろうか?」

「可能です、部屋は大きい方がいいですか?」

「いちばん小さいので構わん、先払いしておこう」

「ありがとうございます、これが鍵です。階段上がって一番角の部屋になります」

「助かるよ、食事の時間は何時だろうか?」

「朝と夜です、宿にいる場合は部屋に伝えに行きます」

「分かった、ではな」


鍵を受けとり、部屋に向かう。ふむ、カトデラルより少しだけ豪華だな。だがまぁ値段もそこまで高くないし場所も悪くない。窓から外を見ると大きな通りがすぐに見えた。窓から屋根に飛び乗ることも可能だ。

さて、ひとまずは情報収集だな。腕男(ハンズマン)どもはこの街を拠点に活動しているはずだ。昼間に騒ぎを起こすわけにもいかないし探し回るのは夜になってからでもいいだろう。この辺の地理に詳しくなる必要があるな。背嚢としてベルトに括り付けていた鞄を元のビジネスバッグのサイズに戻し、ネクタイを締める。これくらい泊がついてる方がなめられないだろう。階段を下りると先程の親子が会話をしているのが聞こえた。


「やったねパパ、ようやくうちにもお客さんが来たよ!」

「あぁ、前から何故か客足が遠のいていたがようやくこれで収入が入った。セナにも苦労をかけたな」

「全然そんなことないよ。あのお客さん精一杯おもてなしして頑張って借金返そうね!」

「あぁ、頑張るぞ」


やはりどこにも事情があるのだな、大変そうだ。ああいう父親の姿を俺は見た事がない、元々大して家族愛が深い方ではなかった。だからこそこの異世界の地で人の営みに心打たれてしまう。俺が階段を降りきると親子がこちらに気づく。


「部屋はあれで大丈夫でしょうか」

「気に入っている、少し出る。夕食の時間には戻ろう」

「お待ちしております」

「いってらっしゃい〜!」


セナ、と呼ばれていた少女にいってらっしゃいと言われる。ふむ、何時ぶりだろうか。なんというか、ただいまとここに言うために帰ってきたくなるような感覚にさせてくる。いい宿を引き当てた幸運に感謝し、ひとまず街を見て回る。カトデラルは主に住宅が多く、商店街に店が集中していたがここはどうやらどこも店が立ち並んでいるように見える。外に机や椅子を置いているお洒落な軽食屋なども見えるが特に服屋、宝石屋、装飾屋などファッションの店が多い。

外に面しているショーケースの中に服が飾ってあるところもあってここら辺は現代に近しいな。服やアクセサリーの類をショーケースからじっと眺める。

腕男どもがこの国の内側まで入り込んでいる場合、俺はどのように対処するべきだろうか。国を相手取って勝てるだろうか、厳しいだろうな。ではどうやって復讐を完遂できるか、この国の内側に俺も入り込み要人のみを殺せばいい。となると紳士服は目立つか…?このショーケースの中にあるような豪華な赤いドレスに身を包む必要があるのだろうか。スカートを履くのは少し抵抗があるな。

ショーケースの前で少し考え事をしていると横から何者かに話しかけられる。店員だろうか、買う気もないのに眺めては迷惑だったかもしれない。謝罪をしようとその主の方を見やると店員ではなく護衛の者を二人傍につけた紳士服を身につけた男がいた。風貌から見るに貴族だろう、今貴族に目をつけられるのは動きにくくなるからまずい、なるべく穏便に済ませないとな。


「そこの女、名前はなんという」

「…マグナです」

「そうか、マグナか。そのスーツは最近巷で流行っているものだな。女で着るのは珍しい」

「えぇ、気に入っています」

「武器を持っているところを見るにどこかの貴族のお抱えか?」

「生憎仕える者はいません、私は冒険者ですので」

「そうか、ではこのあと食事でもどうだ?」


ふむ、随分な物言いだ。女を誘う口説き文句にしてはセンスがないな。だが貴族であるならば腕男どもについて何か知っているかもしれない。食事をするだけで情報が手に入るなら願ってもないことだ。ここは誘いに乗ろう。


「私でよろしければ…」

「ではこのあとの夜の鐘がなる頃に"実りの円卓"という店に来てくれ。ドレスコードが必要な店だがまぁお前なら問題ないだろう、給仕にレクトルの連れといえば案内してくれるはずだ」

「分かりました、楽しみにしております」

「俺もだ、ではな」


ふむ、最初の食事は一人でゆっくり楽しみたかったのだがこのチャンスは逃すわけにはいかないだろう。約束の時間までまだまだある。折角だし冒険者ギルドに向かって腕男について聞いてみるか。

冒険者ギルドは遠目から見ても分かるくらい大きく、カトデラルのものとは比べ物にならなかった。どこをとってもカトデラルより上のように感じる。ここに無いのはロッドの店と"永遠の炉心"くらいだ。ギルドの扉を開けて中に入る。カトデラルと違い入ったくらいで冒険者が一様にこちらを見るということはなく、各々が騒がしく楽しんでいた。どうやら一階はラウンジのようになっており机と椅子が立ち並ぶ小休憩スペースと大きな掲示板が四つ、それに受付のカウンターがあった。興味があるのは依頼でもないし休憩スペースにはあまり人はいない。

二階に上るとそこはまるまる大きな食堂のようで、一階よりも活気があった。ひとまず情報収集だ、一番近くにいたテーブルに寄り、腕男について知らないか聞く。


「お取り込み中失礼、この紋章について見覚えはないか?」

「あぁ?なんだそれ?おいお前らこれ見た事あるか?」


鎧を着込み、大きな盾を背中に背負い込む戦士の男が同卓者に尋ねる。俺の見せた紙をじーっと見つめ、皆一様に首を横に振る。


「そうか、失礼したな」

「あぁ、待て待て。その風貌、あんたが北の方で噂になってる"葬儀屋(アンダーテイカー)"か?」

「そうだ」

「おいおいマジかよ!!あんたがあの"葬儀屋"かよ!?」


戦士の男が大きな声を上げ、注目を集める。唐突にテンションを上げたその男に少しビックリしてしまうがこれは都合がいい。もう少しこの人らには騒いで貰う必要があるな。


「いやぁしかし冗談で言ってみたつもりだが本当に"葬儀屋"だとはな、意外とちっこいんだな」

「よく言われるさ、しかしもう王都まで情報が伝わっているとはな」

「例え竜と相対しても仲間を見捨てない冒険者、魔物を必ず仕留める黒い狩人、噂はかねがね聞いてるぜ」

「ふむ、ではそんな情報通な君に少しお願いをしようか」

「お願い?おいおいここはギルドで俺は冒険者だ、依頼ってんなら考えてやるぜ」

「なるほど、では」


机の上に立ち、更に食堂にいる人間の注目を集める。大きく息を吸って、食堂にいる全ての人間に聞こえるように腕男の紋章が描いてある紙を見せて叫ぶ。


「私はこいつらを探している!この紋章に見覚えのある者、もしくはこいつらの居場所を知っている者は是非私に教えてくれ。有用な情報には金貨一枚の報酬を出そう!!稼ぎたいのだろう?冒険者諸君!」


食堂がどよめき、みなが俺の見せる紙に注目する。その紙を机の上に置いて俺は食堂を後にする。一階におりてカウンターに向かう。鞄から紋章が描いてある紙を取り出して受付の前に置く。


「ギルドの壁に空いてるスペースがあるならこの貼り紙を掲示させて頂けないだろうか」

「それは構いませんが、よろしいのですか?」

「どういう意味だ?」

「そちらに描いてある紋章は犯罪組織"盲目な狩人(ブラインド・ハウンド)"のものです。彼らは組織に害するものなら誰であろうと始末する残忍かつ凶暴な組織。つまり本当に掲示してもよろしいのですか、という意味です」

「構わん、私はそいつらに用がある。それにしてもハウンドか…そいつらの事をもう少し教えてくれ」

「はぁ…ですが私はこれ以上分かりません、そもそも彼らについては王都に住むもなら大抵名前は知っております。好んで名前を出す人なんかいませんがね」

「なるほどな、情報感謝する。では張り紙の件頼むぞ」

「かしこまりました」


大収穫でギルドを後にする。ふむ、腕男どもの組織名は割れた。猟犬だかなんだか知らないが、どこにいようとも必ず追い詰めて殺してやろう。竜の逆鱗に触れ、虎の尾を踏んだあいつらの末路は決まっている。

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