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落ちこぼれ王子に転生した魔術師は、二度目の人生でも魔術を極める 〜チートすぎる魔力と前世の知識で、世界最強に至る〜  作者: 鬱沢色素


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9・魔術の化身VS悪魔

 二千年前、ここ──迷宮ダンジョンで封印した悪魔ネリスを前に、俺は不敵な笑みを浮かべる。


「愉しませてくれる……じゃと? 舐めるなっっっ!!」


 ネリスは顔を怒りに染め、攻撃の第二弾を放とうとする。

 火・水・土の三属性の魔術攻撃が、同時に発動した。


「ほお……魔術の三重展開か」



 ──魔術の仕組みについて、ここで簡単におさらいしておこう。



 魔術を発動するためにはまず、魔術回路を組む必要がある。この際、外部の魔導具を使う方法もあるが、ほとんどは魔術師の脳内で組み立てられる。

 展開速度、そして魔術回路の正確さで魔術の質はほとんど決まると言っても過言ではない。


 だが、魔術回路を組むだけでは、魔術は発動しない。

 魔術回路に魔力を通す必要があるのだ。それはさながら、道に水を流し込むような作業である。


 魔術回路と魔力。

 この両輪が回って、初めて魔術は成就する。


 さて──こういった事情があるものだから、普通は魔術というのは一つずつしか展開出来ない。


 二重以上で魔術を編もうとした時、魔術回路に綻びが出来たり、魔力が不十分だったりと一気に難易度が上がるからだ。

 二千年前でも、三重展開が出来た人間はほとんどいなかった。

 俺もネリスと戦った頃は、三重展開が限界だったし、これだけでも彼女が悪魔たる理由が分かるというものだ。


「余裕ぶっこくではない! 死ぬがよい!」


 思考を巡らせていると、とうとうネリスから三つの魔術が放たれる。


 しかし俺は冷静に炎の剣で魔術を迎え撃ち、放たれた攻撃を消した。


「なっ……!」


 またもや、ネリスの表情が驚愕で歪む。


「どうした。その程度か?」

「あ、有り得ぬ……儂の三重展開の魔術を防ぐじゃと!? しかも、こんな子どもなんぞに……」


 しかし表情を一転。

 ネリスはニヤリと笑い、こう口を動かした。


「──なーんてな。崇高なる悪魔である儂が、この程度なわけがなかろうとて」


 ここで気付く。

 全弾斬り落としたと思っていた魔術が、一つだけ残っていたのを。

 炎の矢が俺の()()から襲いかかる。


 同じように斬って……ちっ。間に合わないか。魔術結界も無駄だ。今からじゃ中途半端になる。


「死に晒せ!!」


 叫ぶネリスと同時に、炎の矢が俺に直撃する。


「人間の……しかも子どもにしては、なかなか()()()()()もらった。いい準備運動に──」


 だが、ネリスが言葉に詰まる。




「ん? なんかしたか?」




 首をポキポキと鳴らして、ネリスを見据える。


「お、お主……どうして死んでおらぬ!? 確かに魔術は命中したはずじゃ。もしや幻覚……」

「いーや、ちゃんと俺本体に命中したよ。幻覚魔術を使ってもない。ただ単純に、お前の魔術が()()()()だけだ」


 二千年前の未熟な頃の俺では、ネリスの攻撃をくらえばタダでは済まなかっただろう。


 しかし今の俺は、全盛期の魔力を引き継いでいる。


 出力にはまだ大分問題を抱えているが……この程度の攻撃、そもそも防御姿勢を取らなくても耐えられた。


「次は俺の番だな」


 相手に気持ちのいいように攻撃されるばかりではフラストレーションが溜まるので、今度は俺から仕掛ける。

 俺の周りに同時展開された魔術は、火・水・土・雷の()()だ。


「そ、即時の四重展開じゃと……っ!?」


 わなわなと震えるネリス。


「な、なんでじゃ……こんなことが出来る人間は、二千年前の〈死神〉しか思いつかぬ……」

「〈死神〉か……懐かしい響きだ。そう呼ばれていた頃もあったな」


 彼女が言った〈死神〉というのは、いくつかある前世の俺の異名の一つである。

 物騒な響きなので気に入っていないが……ネリスには名前じゃなく、異名で覚えられていたみたいだな。


「じゃあな、悪魔。あんまり()()()()()もらえなかったが、地上でこれだけの魔術を放つわけにはいかなかったんだ。久しぶりにちょっとだけ本気を出せた」


 そう言って、俺は容赦なくネリスに四属性の魔術を浴びせた──。




 ◆ ◆



(な、なんじゃ、あのガキは!)


 悪魔ネリスはリオの魔術の直撃をくらってなお、生き延びていた。

 戦いの衝撃に紛れ、ネリスは彼から遠ざかる。


(どうして人間が、儂の攻撃をくらって平気そうな顔をし、かつ魔術の四重展開など出来おるっ! 化け物か!?)


 現在、ネリスはリオの前に姿を現した、幼女の姿をしていない。

 体積は十分の一程度にまで縮小され、背中に生やした翼でふよふよと飛んでいる。


 もふもふのボディーに、いたいけな瞳。

 それはさながら、小さい熊のぬいぐるみのようである。


(ヤツは〈死神〉と言っていたが……仮にそれが本当なら、どうして生きておる!? ──いや、ヤツのことじゃ。不老不死の魔術を開発していてもおかしくはないか……?)


 ネリスは逃げながら、二千年前のことを思い出す。


 唯一、ネリスが敗北した人間。


 ()悪魔のような強さだった。魔術を深く理解し、さらに戦いの中で成長していった。


 しかも──戦いの最中、〈死神〉は笑っていた。


 そんな彼の表情にぞっとし、初めてネリスは恐怖という感情を覚えたのであった。


(姿は全く似ても似つかないが……あの時と今では、酷似しておる! このままではまずい! せっかく封印が解かれたというのに、死ぬのは嫌じゃ! あやつから逃げ……)


 と、ネリスが高速で頭を回転させていた時であった。





「見ぃつけた」





 恐怖という感情を直接撫でるかのような声。


 目の前に黒くて巨大な手が出現する。闇魔術で錬成しているのだ。その黒の手は、ネリスをしっかりと握った。


「……全く。いきなり精神体になるんじゃない。小さくて、見つけるのに難儀したではないか。だが、俺からは逃れられない」


 リオが溜め息を吐く姿が見えた。


(ああ……)


 ネリスは確信する。




 ──こやつは本当に〈死神〉じゃ。




 たかが子どもだと侮ったのが間違いじゃった。

 今、儂の前にいるのは人の身にして、魔術の神髄に手を伸ばしかけたとされる男。

 最初から、戦いにならなかったのじゃ。


 ネリスは全てを諦め、がっくしと肩を落とした。

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