6・現代の魔術師の実力
「競わせるじゃと……?」
「はい!」
ディルクは息巻き、国王に詰め寄る。
「稀代の魔術師の卵とも言われる天才のボクが、迷宮ダンジョンに潜れないのは不満に思っていました。落ちこぼれのリオもあれほどの自信があるということは、なにか考えがあるのでしょう。
そこで、ボクとリオが魔術対決をするのです。そうすれば、どちらが上かはっきりします」
「なにを言うのだ。リオは魔力を持たない子どもなのじゃぞ? 魔術対決など、そなたが勝つに決まっているではないか」
「ならば、リオには迷宮ダンジョンの許可は出せませんよね? 迷宮ダンジョンでは魔物との戦いも避けられません。なのに魔術が使えなければ、本当に無駄死にするだけです」
ディルクと国王が言い合っている。
なるほど……あいつはこれを好機を捉え、迷宮ダンジョンに潜る許可をエルこと、そして俺を叩きのめすために進言したのだろう。
だが、俺が転生する前のリオは魔力がなく、魔術が使えなかった。
ゆえにこの対決は実現するはずがなかったが……。
「あ、あのー……」
少し迷ってから、俺は手を挙げて発言する。
「実は、魔力に覚醒したんです。だから魔術も使えますし、ディルクと魔術対決をしても問題ありません」
「「は?」」
お互いに声を揃え、ディルクと国王の顔がこちらに向く。
「魔力に覚醒……? それは本当のことであるか?」
「はい。魔力というのはほとんどが先天的なものですが、稀に年齢を重ねてから覚醒することもあります。きっと俺の魔力は眠っていた状態だったのでしょう。魔力覚醒があったからこそ、迷宮ダンジョンに潜る許可を得ようと考えたのです」
──少し苦しい言い訳か?
しかし全く魔術を使えないことにするには、さすがに限界がある。
だからいずれは魔術を使えることを、告白する必要があった。
俺の計画ではもう少し後だったが、せっかくディルクがいいことを言ってくれているのだ。
この好機に乗じたい。
「くくく……まさかあの落ちこぼれが、魔力に覚醒だなんてね!」
しかし俺の言い訳の真意にも気付かず、ディルクは声のボリュームをさらに大きくする。
「さあ、陛下! これで魔術対決の障害もなくなったはずです! たかが魔力に覚醒したくらいで調子に乗っている弟に、ボクが分からせてあげましょう!」
「……分かった」
国王がようやく首を縦に振る。
……ふう、当初の計画とは違ったが、なんとかなりそうだな。
問題はこれから先も侮られるために、ギリギリ勝てる程度に手加減をする必要があるということだ。
上手くいくだろうか?
……いや、自信がなくてもやる必要がある。
それに自らを『稀代の魔術師』と称したくらいだ。
ディルクもよほどの自信があるのだろう。
現代の魔術師の力、とくと見させてもらおう。
◆ ◆
その後、俺たちは場所を城内の訓練場に移した。
「……ギャラリーが多いな」
普段は騎士が使っているためか、訓練場には多数の騎士──野次馬が既にいた。
「おいおい!? ディルク様とリオ様の、魔術対決だってよ!」
「リオ様は魔力がなかったんじゃないのか? それなのに、いきなりどうして……」
「魔力が覚醒したんだってよ」
「どちらにせよ、ディルク様が勝つに決まっている。ディルク様はオークルチア百年に一度の天才魔術師って呼ばれているんだぞ?」
ギャラリーは好き勝手に、俺たちの勝敗を予想していた。
「怖気付いたか?」
訓練場を眺める俺に、ディルクがバカにするように問いかける。
「ここにいる者は気付くだろう。やはりディルク様は天才。リオは落ちこぼれだ──っと」
「勝負は時の運です。油断していては、ディルク兄も足元をすくわれますよ?」
「はーはっはっは! 冗談だけは上達したようだな!」
ディルクが気持ちよさそうに高笑いを上げる。
「うむ、ディルク、リオよ。魔術対決のルールは簡単じゃ。まずは、あそこに置かれているものを見よ」
そう言って、国王が指し示した先には、人型に形取られたスライムのようなものが置かれていた。
「あれはスライムバッグという魔導具。今からそなたらには、あれに魔術を放ってもらう。スライムバッグには魔術の威力を計測する仕組みがあり、命中すれば0〜999の数値が表示される。数値が上回った者が勝者だ」
うむ……スライムバッグか。なかなか、面白い魔導具があるものだな。
二千年前も魔術の大小を計測する魔導具があったが、色が変わったり音が鳴ったりと、正確な数値を表示するものはなかった。
やはり、この二千年で魔術は進歩したということなのだろう。
「先攻は──」
「ボクだ!」
俺が言葉を続けるより先に、ディルクが一歩前に出た。
「まずは天才のボクが、魔術の神髄を見せてやろう。すごすぎて戦意喪失するんじゃないぞ?」
そう言って、ディルクが手をかざす。
その手を中心として、魔力が高まっていく。
「紅蓮の契約に従い、炎よ槍と成りて敵を穿て! フレイムランス!」
……?
なんだ、今の『紅蓮の契約に〜』という口上は。
いきなり変なことを叫んだかと思うと、ディルクの周りに十本の炎の矢が出現した。
それらは発射され、スライムバッグに向かっていく。そのうちの一本がスライムバッグに命中し、数字が表示された。
『37』
「なっ……!」
「ふう、こんなものか」
ディルクが額の汗を拭うと、周りから歓声が起こった。
「す、すげええええええ!」
「さすがはディルク様だ!」
「齢十二にして、この魔術の威力……命中こそ一本だけだったが、全て命中したらスライムバッグが壊れてたんじゃねえか?」
みんなは各々、ディルクを褒め称える。
「…………」
「どうした? すごすぎて、言葉を失ってしまったのか? くくく……それも仕方がない。なにせボクの年齢で、これほどの魔術を放てる人間はいないのだからな!」
俺がなにも言えなくなっていると、ディルクは勝ちを確信したのか、そう口にした。
だが、事実は逆だ。
──よ、弱すぎる……。
今のは、なんだったんだ?
たかがフレイムランスの発動に時間をかけすぎだ。しかも、それにしては威力が弱すぎる。たった一本しか当たらなかったのも、魔術の制御が出来ていないからだ。
もしかして……魔術を放つ前の台詞、あれは詠唱だったのか?
確かに、魔術回路を正しく組むために、魔術に目覚めたばかりの子どもは詠唱をすることがある。
だが、二千年前に詠唱魔術は『非効率』なものだと見なされ、無詠唱が主流となったはずだが……?
初心者ならともかく、自らを天才を語るディルクが詠唱魔術を使うのはおかしい。
「……い、いや、少しビックリしただけです。次は俺の番ですね」
そう言って、今度は俺がスライムバッグの前に立つ。
……ヤバいな。想像以上にディルクがヘボすぎて、手加減がさらに難しくなってしまった。
ディルクが計測した『37』をギリギリ上回り、かつみんなの目を欺く必要がある。
そういえば、手加減するのは前世から苦手だった。
果たして、上手くいくのだろうか……?
不安になるが、なにもしないままでは国王も満足しない。俺は観念し、いつもより丁寧に魔術回路を組んだ。
「フレイムランス」
ディルクみたいに数は必要ない。
たった一本だけで十分だ。
俺の放ったフレイムランスはスライムバッグに命中し、ディルクの時と同じように数値が表示された。
『40』
……ほっ。
よかった、丁度いい数字になった。
「ボ、ボクが負けただと……っ!?」
今度はディルクが驚愕する番だ。
彼はその場で膝を突き、呆然としていた。
「リ、リオ様が勝った!?」
「だが、ディルク様と違って、一本だけしかフレイムランスを錬成していなかったぞ? この場合はどうなるんだ?」
「陛下の話を聞いていなかったのかよ。陛下は数値が上回った方が勝ちだって言ってただろうが」
「むむぅ……フレイムランスの数こそはディルク様が優ったものの、リオ様が勝ったということか」
「ってか、詠唱していないようだったが……声が小さすぎて、聞き取れなかっただけか?」
ギャラリーの反応も上々。
フレイムランスを複数出したディルクの方がすごいものの、ルール上は俺の勝利ということで意見がまとまっているようだった。
「リオよ……! まさか、ディルクに勝つとは!」
そして国王も目を見開く。
興奮した面持ちで、俺の両肩に手を置いた。
「一ヶ月前に魔力の覚醒に至ったというばかりなのに、よくぞディルクに勝利した! まだまだ発展途上といったところじゃが……ルールはルールじゃ。迷宮ダンジョンに潜る権利を、リオに与えよう!」
「ありがとうございます」
なんにせよ、当初の目的は達成した。
ディルクが大したことなかったのは、気になるが……王子ということもあって、周りはよいしょしているだけなのか?
ともあれ疑問を残しつつ、無事に迷宮ダンジョンに挑めることになったのであった。
◆ ◆
──訓練場に人がいなくなった後。
「退屈しのぎにしては、満足出来たね」
そこに護衛の騎士を連れて、ある男が残されたスライムバッグを見つめていた。
「はい。リオ殿下が勝つとは思っていませんでした。あなたはこの結末を予想していたのですか? ──エルヴィン様」
「まさか」
と、男──エルヴィンは肩をすくめる。
エルヴィンはオークルチアの第二王子。
気まぐれで、物陰からリオとディルクの魔術対決を観戦していたのだ。
「まあでも、フレイムランスの数はディルクが優っていた。リオの魔術もたまたまだろう。もう一度やれば、今度はディルクが勝つはずで──」
そう言葉を続けようとすると、エルヴィンは信じられないものを目にする。
魔術対決に使われたスライムバッグが、突如燃え盛ったからだ。
「殿下!」
すぐさま護衛の騎士が、エルヴィンを守るように立つ。
だが、程なくしてその火も消え、スライムバッグは塵すら残さずに焼失した。
「一体なにが……さっきの魔術の影響か? だが、スライムバッグは頑丈に出来ている。たかが40前後の数字で、こうして燃えてなくなることはないはずだが……」
そこでエルヴィンは気が付く。
「ま、まさか! カンストしていたというのか!?」
一般には知られていないが、このスライムバッグには不具合がある。
それは999を超えた場合、そこで数字が止まるのではなく、もう一度0に戻って計測し直されるのだ。
もっとも、999──カンストする魔力を放てる魔術師など、片手で数えられるほど。
ゆえにほとんどの人が知らない不具合であった。
「耐久値を大きく上回った場合、スライムバッグが少し遅れて焼失や破裂するという報告もある。ディルクはそこまでの魔術を放てないし、残るは……」
エルヴィンはまだ九歳の、いたいけな第八王子の顔を思い浮かべる。
「ふふふっ、面白くなってきたね」
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