5・国王との初対面
翌日。
俺はいつもより身なりを整え、玉座の間に足を運んだ。
「リオ──面を上げよ。息災であったか?」
そう俺に問いかけてくる、初老の男。
彼こそが、第五十四代オークルチア国王である。
二十年前に王座につき、オークルチアの最高責任者として腕を振るっている。
その手並みだが……よくも悪くも無難。
まあ、広大な迷宮ダンジョンがある限り、オークルチアは盤石だ。
変なことに手を染めるよりかは、安定を望んだ方が幾分かマシだとも言えるか。
「はい、おかげさまで」
国王の言葉に、俺は答える。
ちなみに……こうしてリオが国王と顔を合わせることは、半年ぶりらしい。
忙しいかもしれないが、俺は国王の息子だぞ? しかも同じ王城に住んでいる。それなのに『息災か?』と、聞いてくるとは……。
内心呆れるが、それほど俺は侮られているということなのだろう。
まあ、そちらの方が好都合だから、別にいいけどな。だから俺も文句を言わず、国王の言葉を受け止めた。
ゆえに腹が立ったりはしなかったが……。
「ふんっ! 落ちこぼれが、よくもボクたちの前に顔を出したな! 陛下! 時間の無駄です。さっさと切り上げましょう!」
玉座の間に入った時から、国王の隣で敵意を向けてくる男。
彼はディルク。
オークルチアの第五王子である。
まだ十二歳ではあるが、魔術の才能に優れ、第五という低い序列ながらも彼を次期国王にと推す声も多い。
そして、王子の中でも特にリオのことを嫌っており、度々因縁をつけてくる男であった。
……と、リオの記憶には残っている。
「ディルクよ、怒りを鎮めよ」
そんなディルクを、国王が宥める。
「そなたの気持ちも分かるが、リオも王子の一人であることには変わりない。王子の言葉に耳を傾けることは、国王として当然のことだ」
ディルクは「ぐぬぬ……」とまだ納得がいっていなさそうだったが、さすがに国王から直々に言われたことだ。
拳を強く握り締め、一歩後退した。
「それで、リオよ。なんの用だ? まさか、儂の顔を久しぶりに見たかったからという理由だけではあるまい」
「はい。実は陛下にあることの許可を頂きたく、こうして参りました」
本題に入る。
「許可?」
「城内地下の迷宮ダンジョンに潜る許可を得たいのです。俺も九歳になりました。そろそろ、迷宮ダンジョンを調査してもいいと思い──」
「バカなことを言うな!」
国王からの答えが返ってくるよりも早く、怒声を上げたのは隣の第五王子ディルクであった。
「落ちこぼれの貴様が、迷宮ダンジョンに潜るだとおおお!? ボクでさえ、迷宮ダンジョンへ潜ることは許可されていないんだ。貴様なんか行っても、魔物に殺されるだけだ!」
「ディルク兄、俺のことを心配してくれているんですか? 意外とお優しいんですね」
「し、心配などしていない! 貴様なんか、魔物に死ねばいいとすら思っている! ただ、バカげたことを言い出したから、警告してやっているだけだ!」
ごちゃごちゃ言うディルク。
……ははーん、こいつは俺に一足早く、迷宮ダンジョンに行かれるのが嫌なだけってことか。
プライドが高そうな男だからな。俺に先を越されるのは、彼のプライドが許さないのだろう。
「ディルク、リオと話をさせろ」
しかし国王がディルクを制する。
「一体、どのような心変わりだ? 半年前に会ったそなたとでは、瞳に宿る強さも違う。迷宮ダンジョンに潜りたいという性格でもなかったというのに、なにがそなたを変えた?」
「俺も王子としての自覚が生まれただけです。もっとも、俺が行っても大した成果は出せないでしょうが……せめて、ダンジョンの空気だけでも感じたいと」
嘘だ。俺はそんな生優しいことを考えていない。
迷宮ダンジョンに潜るのは、魔物と戦い、自分の力を高めたいというのもあるが──もっと大事な理由がある。
今後のことを考えると、早めにあいつに会っておきたい。
「もちろん、迷宮ダンジョンが危険な場所であることは承知しています。だから俺はこの一ヶ月間、自らを鍛え、迷宮ダンジョンに潜るための力を蓄えていました」
「力を蓄えていた……だと? まさか、メイドと遊んでいることが鍛錬の一環だと言うつもりはないだろうな? 貴様が最近、メイドのヴェロニカと懇意にしていることは知っているぞ」
せせら笑うディルク。
同じ城内である以上、隠し通せるわけもないと思っていたが、俺がヴェロニカに鍛えてもらっていることは既知の事実だったらしい。
しかし俺は九歳だし、ヴェロニカは城内の一メイド。
彼女が氷狼族であることも知らないだろうし、周囲から見たら俺がメイドと遊んでいるようにしか見えないはずだ。
「うむ、リオがヴェロニカとなにかをしていることは、儂も知っていた。しかし騎士相手ならともかく、メイドにトレーニングを付き合ってもらっただけでは、やはり許可は出せない」
「どうしても……ですか? 俺は王位に関係がない第八王子。陛下にとっては、どうでもいい存在のはずです。俺が死のうがどうなろうが、国政は揺るぎません」
「なにを言う。そなたも儂の大事な息子の一人だ」
……白々しいことを。
だったら、リオにまともな教育を受けさせればよかったではないか。
しかしこのままでは押し問答が続くだけだな。
どうしようか……と頭を回転させている時であった。
「そうです! そこまで言うなら、ボクとリオ──どちらが迷宮ダンジョンに潜るのにふさわしいか、競わせてくれませんか?」
ディルクが妙なことを言い出した。
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