4・鍛錬! 鍛錬! 鍛錬!
「はあっ!」
木剣を振るう。
思うように体を動かせなくて、イライラする。
身体強化魔術を使えば、もっと速く振ることが出来るが、それでは本末転倒だからな。
それに、俺が転生したリオの体は軟弱で、高難易度の魔術に耐えられない。
前世を超える魔術師になるためにも、早く体力だけでも戻さなければ……!
「──はい。一旦休憩しましょう。よく頑張りましたね。剣を下ろしてください」
そんな俺に、メイドのヴェロニカが声をかける。
俺は彼女からタオルを受け取り、汗を拭く。
「ふう……俺もまだまだだな。イメージ通りに体が動かない。今まで怠けていたのを、恥じるばかりだ」
「なにをおっしゃいますか。私に師事を受けて、たった三日。ここまで動きが見違えるほどによくなるとは、さすがはリオ様です」
ヴェロニカが表情を柔らかくする。
──二度目の人生でも、魔術を極めるため。
俺は城内で最も強いヴェロニカに、自分を鍛えてくれるように頼んだ。
彼女は城内の一メイドであるが、その正体は戦いを尊ぶ氷狼族の生き残りである。
現にヴェロニカに教えを請うて三日が経とうとしているが、徐々に自分が強くなっていくことを感じる。
「どうして、今まで力を隠していたんですか?」
「俺は目立つのが嫌なんだ。強ければ、他の王族に目を付けられる。俺は気ままに暮らしたい」
俺の転生したリオは、落ちこぼれ王子として秀でた才能がなかった。
その結果、王子だというのに、ろくに教育を受けさせてもらえず、周囲から侮られている。
そんな王子がいきなりやる気を出したのだ。
ヴェロニカだって、違和感を抱くのが普通だ。
だが、彼女も自分が氷狼族であることを隠す身。
そこで俺たちは運命共同体として、お互いに秘密を守ることにしていた。
「リオ様のお考え、同意します。ですが──リオ様の目標はなんなのでしょうか? 王位にご興味がないなら、それほどまでに頑張られる理由がないように思えます」
「そうだな……」
顎に手をやり。
「ひとまずの目標は、迷宮ダンジョンに潜ることだ」
──迷宮ダンジョン。
それこそが、二千年前は田舎村に過ぎなかったオークルチアが、大陸一の大国になった理由だ。
どうやら迷宮ダンジョンは、この城の地下にあるらしい。
魔物がいるダンジョンが、王城の地下にあるのは危険なようにも思えるが──ダンジョンは資源だ。盗掘者が現れて、ダンジョンを荒らさないとも限らない。
それを考えると、迷宮ダンジョンの上に王城を建て、常に目を光らせておくのは合理的である。
「まあ……まずは、国王陛下にダンジョンに潜ることを許可してもらわなければならないけどな。国王に俺の力を認めさせるためにも、俺は強くならなければならない」
もっとも、俺なら国王の許可をもらわずとも、隠れてダンジョンに潜ることも可能だ。
だが……万が一がある。
仮に無許可でダンジョンに潜ったことがバレれば、お叱りを受けるのは予想出来るし、最悪行動を制限されてしまう可能性があった。
時間はたっぷりあるし、体力が戻ってからでもダンジョン探索は遅くない。
「そうでしたか」
ヴェロニカは頷き、
「ならば、リオ様がダンジョンで怪我をされないためにも、私も頑張らなければなりませんね」
彼女自身も木剣を持つ。
「今日のシメに模擬戦をしましょう。せめて私から一本を取れるようにならなければ、ダンジョンに潜るなど夢のまた夢です」
「臨むところだ」
笑い、俺は訓練を再開した。
鍛錬が始まって一週間目。
なんとか、ヴェロニカの動きに付いていけるようになった。
だが、まだ彼女には勝てない。
二週間目。
今日は惜しかった。一本取ったかと思ったが、寸前のところでヴェロニカに躱された。
しかし、着実に近づいていっている。
三週間目。
もうほとんど、イメージ通りに体を動かせるようになった。
まだ最大出力の魔術を放つのには不安が残るが……前世の五十%ほどの力を取り戻したと言っていいだろう。
──そして、あれから一ヶ月が経過したのち。
「リオ様、こちらをお受け取りください」
ヴェロニカがそう言って渡してきたのは、水晶がついているネックレスであった。
「これは?」
「それは所有者のダメージをいくらか肩代わりしてくれる魔導具です。もっとも、一定ダメージを超えた場合、水晶が壊れて使い物にならなくなりますが」
ほお……そんな魔導具が。
二千年前はなかったものだ。
そもそも、『痛みが魔術師を強くする!』という脳筋な思想なせいで、ろくに研究が進まなかったとも言えるが。
俺はヴェロニカから受け取ったネックレスをかけ、再度彼女の目を見る。
「……これを渡してきたということは、とうとう本気を出してくれるというこだな?」
「はい」
木剣を構えるヴェロニカ。
彼女の首にも、俺と同じネックレスがかけられていた。
「リオ様はこの一ヶ月で、途轍もない力を付けました。なので、私も本気にならなければ、あなたから一本を取られてしまうでしょう。とはいえ、リオ様を傷つけさせるわけにもいきません。そのための処置なので……どうかお許しを」
「許すもなにも、望むところだ。俺はずっとお前の本気を見てみたかった」
俺も彼女にならって、剣を構える。
──この一ヶ月間、俺は彼女から一本を取ることが出来なかった。
しかも手加減した彼女相手に、だ。
それを不甲斐なく思っていたが……俺もこの一ヶ月間、漫然と過ごしていたわけではない。
その集大成、とくと見せてやる……っ!
「では、いきますよ──」
ヴェロニカの青かった瞳が、さらに深さを帯びる。
青く光った瞳は、まるで獰猛な獣のようだ。
「はあっ!」
「く……っ!」
その一瞬の後には、既に彼女は俺の間合いに入り込んできた。
彼女の素早い動きに、俺も攻撃を受け止めることで精一杯。
ヴェロニカの猛攻が始まる。
本気を出していなかったというのは、嘘ではなかったようだ。この一ヶ月間が幻だったかのように、彼女は狼のごとく猛攻を続ける。
だが……! 最強の魔術師になるためには、俺はこんなところで負けるわけにはいかない!
「氷狼族奥義──昇竜斬」
ヴェロニカの姿が消えた。
……かと思い視線を下に動かすと、彼女は屈んだ状態で木剣を腰の位置につけ、一撃必殺を狙っていた。
やばい……っ!
俺は咄嗟に、木剣を体の前で構える。
しかしヴェロニカはそれを弾かんとする勢いで、地面を蹴り、跳躍しながら剣を跳ね上げた。
空中でなんとか勢いを殺しつつ、地面に着地するが、手がじんじんと傷んでいる。
「なかなかの剣技だった。さすがに一本取られたと思った」
「ふふふっ、さすがですね。氷狼族奥義を難なく防ぎますか。今のリオ様なら、可能だと信じていました」
そう叫ぶヴェロニカの声には、喜びが含まれているように聞こえた。
「次は俺の番だ。《完全模倣》──」
俺は魔術を使い、ある動きを模倣する。
その相手とは、目の前の強敵【ヴェロニカ】。
「昇竜斬っっっっっ!!」
先ほど肝を冷やした技。
それを今度は、ヴェロニカ自身に叩き込む。
見事、命中。
彼女の首にかけられていたネックレスの水晶が、パリンと音を立てて割れる。
「リオ様……お見事です。私の負けです」
俺たちは空中を舞いながら、言葉を交わす。
「まさか一ヶ月で、一本を取られると思っていませんでした。もう私から教えられることは、ありません」
「なにを言う」
魔術で着地の衝撃を和らげ、横になるヴェロニカを抱えながら、こう告げる。
「まだまだ、お前からは学ぶことがある。だから……これで終わりとは言わないでくれ。これからもよろしく頼む」
「……っ! はい!」
ヴェロニカはそう首を縦に振った。
さあて、準備は整った。
あとは国王に、ダンジョン探索の許可をもらうだけだな。
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