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落ちこぼれ王子に転生した魔術師は、二度目の人生でも魔術を極める 〜チートすぎる魔力と前世の知識で、世界最強に至る〜  作者: 鬱沢色素


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21/22

21・落ちこぼれ王子は嘘が苦手

 その後。


 無事に目を覚ましたレイラに事の一部始終を説明したのち、影狼の爪の連中を拘束した。

 もちろん、連中のリーダーであるラグナスもだ。


 意識がある構成員もいたが、ラグナスがやられたと聞いて、抵抗する気も失せたのだろう。

 特にトラブルもなく、身柄を拘束できた。


 さらにその後は冒険者ギルドや自警団の報告……報酬金の受け取り……その他もろもろ、細々とした後処理。


 全てが終わって落ち着いた頃には、すっかり空も橙色に染まっていた。



「本当に報酬金は山分けでよかったのかしら?」



 街の中央広場。

 城に帰る前に、俺はレイラと別れの挨拶を交わしていた。


「ああ、いいんだ」


 頷く。


 影狼の爪は冒険者ギルドや自警団が、手を焼いていた連中だ。

 ヤツらを壊滅させたことによる報酬金も、当然のごとく多額となった。


 当初、俺はレイラにその全額を譲るつもりだった。

 しかし彼女は「逆にあんたが受け取るべき」と固辞し、一歩も引かない。

 最終的には均等に山分けという形で、話もまとまったはずであったが……。


「でも……」

「俺は付いていっただけだからな。俺一人じゃ、ヤツらのアジトに辿り着きさえ出来なかったかもしれない。だから、レイラにもちゃんと受け取って欲しい」


 彼女としては、ラグナスの戦いにおいて自分はなにもしていない……と腑に落ちない部分もあるみたいだが、渋々頷いてくれた。


「で……もう一度、説明してもらおうかしら。なんで目が覚めたら、ラグナスがやられていたのかしら? 私じゃ手も足も出なかったのよ」

「うむ」


 首を縦に振り、一度した説明を繰り返す。


 ラグナスは俺が倒した。しかし彼は一般的には、なかなか強い魔術師だったらしい。たかが子どもである俺がラグナスを倒したと言っても、違和感が残るだろう。


 そこで俺は『ラグナスの魔力が暴走し、勝手に自滅した』と嘘の内容を、彼女に伝えることにした。


 彼の魔術は規格外。魔力を制御コントロールするにも難儀する。レイラとの戦いでは余裕をぶっこいていたみたいだが、実際のところはいっぱいいっぱいだった。

 そして俺との戦いでとうとう焦って魔力が暴走し、自滅した……と。


「だから、レイラはもっと胸を張るといい。俺がこうして生きていられるのは、お前が必死に戦ってくれたおかげだ」

「なるほど……ね。そう考えると、孤星魔術師シングルスターが妥当だったかもね。昇格試験に寝坊した……って、ラグナスは言ってたけど、それも嘘だったかもしれない。単純に実力不足で、双星魔術師ツインスターになれなかったってわけ」


 顎に手を置いて、レイラは合点した表情を作る。


「……で、()()はどうなの?」

「やっぱりバレるか」


 と、俺はあっさりと白状する。


 ……さすがに無理のある説明だった。

 ラグナスの実力は、対峙したレイラが一番よく分かっているはずだ。

 相手の実力を見誤るほどレイラは弱くないし、ラグナスが勝手に自滅したと言われても到底納得出来ないだろう。


 だけど俺がそう説明したのは、他に上手い嘘が思いつかず……苦肉の策であった。


 まずいな。落ちこぼれの第八王子であることは、まだバレたくない。


 どうしようかと頭を悩ませていると。


「言いたくないなら、別にいいわよ」


 と、レイラは言葉の先を制す。


「あんたは私の恩人だもん。喋りたくないなら、無理に喋る必要はないわ。そこまで私も恩知らずじゃないんだから」

「助かる」


 俺の説明で納得はしていないものの、これ以上深入りしない方がいいと考えたのだろう。

 レイラは首を左右に振って、あっさりと話を打ち切ってくれた。


「その()のことも、あまり聞かない方がいいのよね?」

「そうしてくれると助かる」


 そう言って足元に視線を向けると──白くてもふもふな犬が、俺の足にすりすりと頬を擦り付けていた。


 影狼の爪のアジト内で、ラグナスによって秘密裏によって製造されていたキメラである。

 野生に帰そうとしたが……どうも俺に懐いてしまい、離れてくれない。

 突き放すのも可哀想なので、ここまで連れてきているというわけだ。


「あんたが飼うんだっけ?」

「家族の人に了解を得られれば……だがな。無理だったら、その時はその時で考える」

「そう。あんたがそこまでするなんてね。ほんと……謎が多い子どもだわ」


 とレイラが溜め息を吐く。


「だけど……いつか説明してよね。私は自分の最強を証明したいって、言ったでしょ? だからあんたも、私のいずれ倒すべき人間の一人なんだから」

「おう、いつでもかかってこい」

「とはいっても今の私じゃ、あんたに全然及ばないけどね。まだまだ修行不足だわ。世界の広さを知ったわ」


 と、レイラは自重気味に笑い、肩をすくめた。


「じゃあ……そろそろ、お別れね」


 レイラは表情に寂しさを見せて、そう告げる。


「そうだな」

「あっ、最後にこれだけは聞かせてよ。その『リルク』って名前も、どうせ偽名なんでしょ? 本当の名前は……」

「し、失礼する!」


 これ以上問いただされても面倒なので、俺は踵を返して、風のように走り去っていく。


「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」


 レイラの制止する声が聞こえるが、無視だ。彼女とは関わりすぎた。


「ほんと……なんだったのかしらね。今でも夢を見ている気分だわ。いつかまた、会いたいわね」


 最後に。

 そんなレイラの声も続けて聞こえたが、雑踏の騒々しさに紛れて、よく聞こえなかった。




 ◆ ◆



「ふう……なんとか、振り切れたか」


 振り返っても、レイラが完全に見えなくなったのを確認してから。

 俺は走るのをやめ、一息を吐いた。


「くくく、もう少し別れの時を過ごせばいいではなかったか。あの小娘とお主の間に、()()()が立っておったぞ?」

「フラグ? なんだ、そりゃ」

「恋愛関係に発展しそう……という時に、使われる言葉らしい。なんじゃ、知らぬのか。二千年前にもあった言葉じゃぞ? お主は本当に魔術以外には疎い人間じゃな」


 フードの内側から顔だけを出し、ネリスが俺をからかうように言う。


 フラグ……って、こいつは俺をなんだと思っているのだろうか。


 前世では恋愛をしてもおかしくない年齢だったが、今の俺は九歳の子どもだぞ?

 対する、レイラは十代半ばといったところ。

 恋愛をするには歳の差が離れているし、そもそも彼女との間にフラグなど立っていない。


「なかなか面白い経験じゃったな。儂も暴れたかったぞ」

「お前はしばらく、本来の姿になるな。お前が出てきたら、色々とややこしい」

「厳しいのお。じゃが、しかし──せっかく城の外まで出てきたというのに、収穫は微妙といったところじゃろうか。ラグナスだとかいう小僧では、この世界の魔術文明はまだ分からぬ」


 そうなのだ。

 俺は孤星魔術師シングルスターとしてなかなか優秀らしいラグナスに会えば、なにか分かると思っていた。


 しかし結局のところ、よく分からないまま。

 ラグナスは、()()()()のだ。


 キメラを作る技術はなかなかのものだ。

 この世界の魔導具が、二千年前に比べて発展しているというのも事実だろう。


 だが、肝心の魔術師のレベルが低い。

 これがたまたま、ラグナスが自信過剰な男だっただけで、他にも当て嵌まるのかというと……謎が残った。


 とはいえ。


「なんの収穫もなかったわけじゃないけどな」


 そう言って、俺は胸元からあるものを取り出す。


「それは?」

「ヤツらのアジトの中にあった魔石だ。後始末でごたごたしている時に、一つだけくすねておいた」


 赤く輝く魔石をポンポンと掌の上で弄びながら、俺はそう告げる。


 魔石にも色々種類がある。

 だが、今俺が持っている魔石は、二千年前には存在していなかった種類のものだった。


 こいつを解析すれば、この時代の魔術がなにか分かるかもしれない。

 そう思い持ってきたのだが、我ながら行儀のよろしくないことをしてしまったな。

 少し反省をするが、ラグナスを倒した報酬の一部ということで、なんとか。


「はっ! なかなか手癖の悪い男じゃなあ。魔術師でなくても、盗賊として生きていけるのではないか?」

「うるさい」


 茶化すネリスを、俺はそう一蹴する。


「あとは帰って、こいつを飼っていいか聞くだけだな」


 そう言って、俺は白い子犬──キメラを見る。

 特にリードで繋いだりもしてないが、キメラは「ワンワン!」と元気に鳴いて、俺に付いてくる。

 無理やり捨てても、いつの間にか戻ってきそうだ。


「勝算はあるのか?」

「あの広い城内だぞ? たかが子犬一匹くらい飼うだけなら、文句を言われないはずさ。そもそも俺は存在すらどうでもいいと思われている落ちこぼれ王子なんだし……」


 とはいえ俺一人じゃ、こいつを世話しきれる自信もない。

 メイドであるヴェロニカに相談するべきだろう。


「まあ……ヴェロニカも許してくれるだろう。俺が剣でヴェロニカを負かしてから、彼女も機嫌がいいし……」

「ヴェロニカ?」

「城のメイドだ。そして、俺の剣の指南役でもある」

「な、なんじゃと? 〈死神〉の指南役じゃと? そんなことが出来る人間が、この時代におったというのか。儂も興味がある」


 ネリスもヴェロニカに興味を示しているようだった。

 だから、〈死神〉と呼ぶな──まあいっか。


 俺は気楽に構え、城への帰路を急ぐのであった。




 ──だが、事態は思わぬ方向に転がることになる。


 まさか、あんな恐ろしいことが起こるなんて……。

 この時の俺は、予想だにしていなかったのだ。

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