18・美しくない魔術
「グオオオオオオ!」
俺たちが鉄格子の前に立つと、中のそいつは威嚇するように咆哮を上げた。
地が震え、洞窟の壁や天井の破片がパラパラと崩れ落ちてくる。
「人間はなんとも業の深い生き物じゃ。おい、こやつは──」
「ああ、合成魔獣だ」
俺がそう告げると、ネリスも「うむ」と短く答えた。
合成魔獣──通称キメラ。
魔物や動物を合わせ、新しい生命体となって生まれ変わった存在だ。
キメラを作るためには様々な方法がある。
だが、目の前にいるキメラは魔石や魔導具をふんだんに使って、繋ぎ合わせているようだった。
俺なんて軽く人踏みで殺すことが出来るだろう。それほどの巨大な狼のような姿をしており、正気を失っているのか、その双眸には深い殺意が満ちている。
キメラは俺を見て、さらに興奮する。
牢屋の中で暴れ回り──やがて、鉄格子が壊れた。
「ふんっ」
解放されるなり襲いかかってきたキメラの攻撃を俺は跳躍し、難なく躱わす。
攻撃が避けられたというのに、キメラには僅かな驚きの気配もしない。
両目で俺を捉え、どう料理しようかと考える『捕食者』のそれそのものであった。
「くくく……お主はこれに気付いておったということか。確かに、なかなか上等なキメラじゃ。こんなものがおったら、あのラグナスだとかいう男とも安心して戦えん」
「まあ、そうだな」
「それで……どうするつもりじゃ? 逃げるか?」
「決まっている──こんな面白いものを前にして、逃げるなんてもったいないことはしない。ここで処分する!」
そう声を発すると同時、キメラとの戦いが幕を開けた。
「フレイムランス!」
魔術を放ち命中するが、キメラはビクともしない。
「ほお……なかなかやるな」
俺の魔術をくらって平気でいるとは、大したものだ。
キメラは意を介さず、俺に襲いかかってくる。
「あの部屋にあった本や魔導具も、このキメラを作るために使用されたものじゃったのか?」
「おそらくな」
キメラと戦いつつネリスと会話を交わし、俺は思考する。
──ラグナスが影狼の爪を立ち上げた理由も、キメラを作るために都合がよかったからではないだろうか。
ラグナスは孤星魔術師と言っていた。
それがどれほどの強さか未だに判断がついていないが、優れた魔術師であったことは確かだ。
そうでないと、キメラを作ろうとも思わん。
多大な労力と時間がかかったのだろう。
俺に襲いかかってくるキメラは、ただ暴れている獣にも見えるものの、自分の意思で動いている。
普通キメラを作っても、大体の場合がすぐに死に、仮に生きながらえたとしてもほとんど動けない置き物となる。
ゆえにこのキメラがこうして動き、俺の魔術をくらっても平気でい続けるのが異常なのだ。
「さあ、どうしたものか……ん?」
そこで俺が気が付く。
──コロシテ。
悲痛な嘆きが、キメラから漏れ出る。
──イタイイタイ。クルシイクルシイ。コロシテ、コロシテ、コロシテ、コロシテ……。
「ほほお? まだ元の意思が残っておるのか」
ネリスが感心したように声を零す。
「命を共有した生物とはいえ、そこには新しい意思が生まれるはずじゃからな。そして殺して……とは、ますます面白いことになった」
キメラは俺を殺そうとしてなお、自分の破滅を願っている。
痛いんだろう。苦しいだろう。
もしかしたら、こんな姿になってまで、他者の命を奪いたくないのかもしれない。
俺には、キメラの気持ちを推し量ることしか出来ない。
──だが。
「……いや、これは面白くない」
「ん? 意外なことを言うんじゃな。まさか、命を弄ぶような真似をするな! と説教をするつもりか。お主がやっていることだって、似たようなことじゃろうて」
ネリスの言う通りだ。
無論、俺はキメラを作ったりしたことはない。
前世では考えたこともあったが抵抗があって、どうしても手を付けることが出来なかった。
しかし俺は今まで魔術の神髄を追い求めるがあまり、手を汚したこともある。
やらなければ、やられるような相手だ。
もちろん、後悔はない。
だが、俺がただ生きるために──魔術を極めたいがために──蹴落とした人間は数知れない。
そんな俺と、ラグナスの違いはなんだろうか?
「俺とラグナスには、根本的な違いはない。俺もラグナスも、好奇心で命を冒涜した」
だから──このキメラがラグナスの作ったものとするなら……だが──ヤツに命を説くなんていう真似は、俺には出来ない。
しかし。
「これは美しくない」
俺にだって美学がある。
こんなキメラ……ただ無理やりくっつけているだけの、無造作な塊ではないか。
ツギハギだらけの化け物。
ゆえに、キメラの意思も歪んだ形で残っていた。
俺にはこの化け物を前にして、ヤツのやったことを無条件に肯定出来ない。
「こんなものは魔術の汚点だ。だから……さっさと排除する」
そう言って、手をかざす。
「──光魔術、浄化の裁き」
キメラを囲むようにして、魔法陣が顕現する。
聖なる光がキメラを包み、場には優しい空気すら流れた。
「お前にかける言葉は持っていない。ただ……」
魔術を発動し続けながら、こう告げる。
「来世があるとするなら……今度は、みんなから愛される動物にでもなれ……と、切に願っておくよ」
光はその邪悪で巨大な体に浸透していき……やがて、キメラは動きを止めたのであった。
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