17・見てから余裕でした
後ろから話しかけられ、俺とレイラは咄嗟に振り返る。
すると出口の前で、楽しげな表情を浮かべて立っている男がいた。
「えっ……」
レイラが顔を驚愕に染める。
しかしそれも無理はない。
ここまで男が接近してくるまで、レイラは気が付かなかったのだろう。
実際──隠蔽魔術は使っていないと思うが──男の存在感は希薄で、本当にそこにいるのか、あやふやだった。
「警戒しなくてもいいよ。すぐには殺らないから」
男はそう言って、すぐ近くの椅子に腰をかける。
ここまでされて、まだなおレイラは一歩も動けずにいた。
「初めまして……って、自己紹介をした方がいいかな? 僕はラグナス。この影狼の爪のリーダーさ」
彼──ラグナスが軽薄な笑顔を浮かべて、そう口にする。
ラグナスの口ぶりはまるで落ち着いた午後のティータイムを過ごしているかのようだった。
「あれ? 初めて会った時は、名前を名乗るものだと思っていたけど? 君たちは答えてくれないのかい?」
「だ、誰があんたなんかに──」
「レイラ──君はキレイな顔をしてるのに、躾はなっていないみたいだね。親の顔が見てみたいよ。隣の子どもは……リルクって名乗ってたかな? 子どもなのに、ずいぶんとすごい魔術を使いこなすんだね」
どうやら、俺たちの行動は筒抜けだったらしい。
アジトに入る──いや、それよりも早く、街中で俺たちが一悶着を起こした時から、こいつは行動を把握していたのだろう。
「な、なんで、そこまで分かって、なかなか顔を出さなかったのよ。あんたらの仲間がやられたのよ? あんたが早く出てこなかったら、こんなことにはならなかった」
「僕にとって、影狼の爪なんてどうでもよかったんだよ」
レイラの質問に、ラグナスはつまらなそうに答える。
「都合がよかったから、使っていただけだ。僕にとって、彼らは代えがきく道具でしかない。それなら、君たちの戦力を計るのに使った方が有意義だったろ? 仮に何人殺されようとも、君たちに興味が湧かなかったら、僕は出てくるつもりはなかった」
淡々と答えるラグナス。
こいつ──味方を切り捨てて、俺たちを分析する道具に使いやがったのか。
しかもそこまでして、罪悪感を抱いている様子が全くない。
彼にとって、影狼の爪は道具にしか過ぎないのだ。
「……ごめん、リルク。私が見誤った」
レイラはラグナスから視線を逸らさず、俺に謝る。
「たとえ元宮廷魔導士でも、相手は孤星魔術師。双星魔術師になりかけたらしいけど、それでも私の敵じゃないと思っていたわ」
「おい、なにを考えているんだ?」
「だけど、違う。こいつはそんなに甘っちょろい魔術師じゃない。実力はおそらく──最高峰の三極星魔術師。私たちでは絶対に勝てないわ」
俺の問いかけにも無視して、レイラは服のポケットからネックレスを取り出した。
──それは俺が城下町で見た、短距離の転移魔術を可能とする魔導具と同じ形をしていた。
「あんたを、ここまで付き合わせてごめん。だけど、あんただけはここから逃がす。今からあんたを、これでアジトの出口まで飛ばすわ」
「ちょ、待っ──」
「さようなら。少しの間だったけど、あんたと一緒に戦えて楽しかった。もしも生まれ変わることが出来るなら、また一緒に暴れましょうね」
嫌な予感がして俺が手を伸ばすよりも早く、レイラが持っていた魔導具を弄る。
次の瞬間、ネックレスに取り付けられていた青色の宝石が光り輝く。
あっという間に目の前が真っ白になり、俺は強制的に転移させられてしまったのだ。
◆ ◆
「うーん……」
別の場所まで転移させられて、俺は唸る。
「本当に飛ばされてしまったな。魔術師でなくても、仕組みを起動させれば転移魔術が発動する──夢のような魔導具だ。やはり魔導具に限ったら、二千年前と比べてずいぶんと発展しているようだ」
「呑気にそんなことを言っている場合か?」
周りに人がいないのを確認して、ネリスがフードから顔を出す。
──現在の場所は、影狼の爪のアジト内。
俺たちがほとんど倒してしまったせいもあるが、あれだけいた影狼の爪の構成員もいない。
他の場所とは違って、驚くほど静かだった。
「画期的な魔導具を目にしたんだ。分析したくなるのは、仕方のない話だろ?」
「お主から見ても、優れた魔導具だったんじゃな」
「ああ、完璧に転移魔術が発動していた」
「じゃったら、どうして儂らはまだ洞窟の中におる? あの女は、アジトの出口まで飛ばすと言っておったぞ? これは発動には成功したものの、やはり不完全だったということではないか」
「決まっている。俺が座標を狂わせただけだ」
レイラが使用した魔導具は、あらかじめ転移先の座標を指定し、それによって目的地を決める仕組みとなっていた。
座標の決め方は、魔導具内の魔力によって制御されていた。
一度座標が決められてしまえば魔導具が発動しない限り、中に干渉出来ない。
発動前に座標を狂わせてしまえば、レイラに気付かれるからだ。
ならば魔導具が発動してから、俺の方で座標を調整すればいいだけだ。
そうすればレイラに気付かれず、俺の方で好きなように転移先を変えることが出来る。
「ゆえにアジトの出口ではなく、ここにいるわけだな。全て計算通りだ」
「街中で少し見ておったとはいえ、この時代では未知の魔導具なのに、咄嗟に対応したということなのか……? つくづくお主は規格外の魔術師じゃな」
ネリスは唖然としていた。
「ここまでがお主の計算通りとするなら、どうして儂らはここにいる? あの女を助けにいかなくていいのか。あやつでは、あの男に勝てぬぞ?」
「まあ待て」
ネリスを制して、俺は通路の奥の方へ視線を向ける。
「もちろん、助けにいく。だが……あのラグナスだという男よりも先に、片付けておく必要のものがあったまでだ」
「ほお?」
俺はネリスの疑問に答えず、通路の奥に向かって歩き出した。
……このアジトに入って、影狼の爪の構成員と戦いながら、妙な魔力を感じていた。
危険なものだ。
その内容についても俺は大体把握していたが、すぐに向かうわけにはいかない。
あの時はレイラも一緒だったからだ。
ここからの戦いを彼女に見られれば、俺の本当の実力がバレるかもしれない。
奥へ奥へ進んでいくと、周りはさらに暗くなっていく。
あれだけ静かだったのに、「グルル……」と獣の低い唸り声まで聞こえてきた。
「ふむ……そういうことか。お主がレイラと離れるのも納得じゃな。この先にあるものは、あの女には刺激が強い」
歩を進めていくと、ネリスも気付いたのだろう。合点がつき、面白そうに声を零していた。
やがて──開けた空間に出る。
一番奥には、巨大で頑丈そうな牢屋が。
その中に閉じ込められている存在を見て、俺はニヤリと口角を吊り上げる。
「当たりだ」
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!
よろしくお願いいたします!




