16・アジトに潜入
「リルク! 右よ!」
レイラから指示が飛ぶ。
右から短剣を振り上げて襲いかかってくる男に、炎魔術をぶつけた。
「ひぎぃっ!」
男はカエルが潰れたような声を上げて、吹き飛ばされる。そのまま地面に倒れて、動かなくなった。
「さすがね!」
「この程度、朝飯前だ。じゃないと、本当にレイラの足を引っ張ってしまうことになるしな」
肩をすくめる。
俺たちは続けて、影狼の爪のゴロツキどもを倒していく。
やがて、地面にはおよそ十人の男が倒れ、あっという間に戦闘が終わったのであった。
「ま、こんなもんかしら」
手をパンパンと払いながら、レイラは充実感に満ちた表情で口にする。
「やっぱ魔術師が一人いたら、戦いもスムーズだわ。あんた、めちゃくちゃ強いじゃない」
「どうも」
彼女の賞賛に、軽く頭を下げて答えた。
──影狼の爪のアジト。
正面からアジトに入ると、次から次へと影狼の爪の構成員たちが行く手を阻んできた。
しかし、俺とレイラの敵ではない。
バッタンバッタンと敵を倒し、ここまで無傷のまま進めている。肝を冷やした瞬間もなかった。
「だが、ここまで俺が戦えているのも、レイラのサポートのおかげだ。俺だって、お前に助けられている」
「ふふっ、子どもに……とはいえ、褒められると気分がいいわね。あんた、将来は女ったらしになるんじゃない?」
レイラが笑顔で答える。
「……なにを調子に乗っているんじゃ。そもそもお主が本気を出せば、もっと早くにここまで来られたものの」
「うるさい」
フードの内側からネリスの声が聞こえ、小声で注意した。
……だが、ネリスの言うことにも一理ある。
俺はここまで、全く本気を出していないからだ。
そもそもこんなアジト、外側から魔術で爆発させれば一発なのである。
とはいえ、そうしてはレイラの『最強を証明したい』という目的から外れるし、俺も必要以上に強いと思われるのは避けたい。
脳筋なように見えて、彼女は結構勘が鋭い。
じゃないと、魔術師とはいえ、子どもである俺をここまで連れてこようとしないだろうしな。
「どんどん進んでいくわよ。こんな雑魚ばっか倒しても、しょうがないんだから。私たちの目的はあくまで、影狼の爪の壊滅と、頭であるラグナスの撃破」
「そうだな」
頷き、俺たちは洞窟の奥へ駆け出そうと──
「ん?」
──した瞬間、俺は足を止めた。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない。先に進もう」
「そう? さっきから変ね」
違和感を抱いたんだろうが、大したことがないと判断したためか。レイラはさほど気にせず、今度こそ駆け出した。
そのまましばらく走っていると、扉の前に突き当たる。
「ここはなにかしら?」
レイラが扉を押して中に入ると、そこは小部屋のような空間になっていた。
棚が並べられ、そこには本や魔導具らしきものが置かれている。雑多な印象を受ける他の場所とは違い、ここには理路整然とした空気が漂っているように感じた。
「倉庫……かしら? ねえ、リルク。これ、なんなのか分かる? 魔導具みたいに見えるけど」
レイラが棚から無造作に一つの魔導具を拾い上げて、俺に見せてくる。
それは一本の管で、二つの硝子容器を繋げているような奇怪な形をしていた。
俺は手をかざして、その魔導具(?)を解析する。
「これは……魔力合成機だな」
「魔力合成機? 使い方は名前の通り?」
「ああ。二つの別々の魔力を合わせて、一つの新たな魔術を生み出すための魔導具だ。基本的にはより強力な魔術を発動するために用いられる」
「す、すごいじゃない! こんなものがあったら、自分では使えない上位の魔術も使い放題じゃん!」
「いや、そこまで使い勝手のいいものじゃないぞ」
このような取り組みは、二千年前から存在した。
しかしこの類の魔導具は不発に終わることが多く、仮に発動したとしても途中で暴発してしまうのがオチだった。
もちろん、成功する場合もある。
だが、ほとんどは失敗で、こんな不安定な魔導具を使うくらいなら、自分で上位の魔術を使えるように特訓した方がよっぽど効率的だ。
二千年前の魔導具に比べると、ずいぶんと改良されているようだが……まだ不十分。
失敗作なのだろう。実際、この魔導具もあまり使われた痕跡がなく、埃が被っていた。
「なあんだ」
レイラが肩を落とす。
「そう、上手い話はないってことね」
「魔術というのは一見才能に左右されるものであるが、本質的には地道な鍛錬が必要だ。そんな裏道を、神は許してくれないよ」
そう言いながら、俺は他の魔導具や本を漁っていく。
しかし……気になる。
どうして一介の盗賊団が、こんなものをかき集めているのだろうか。
ここにある魔道具や本は、ほとんどが二束三文にしかならないものだ。
盗賊団なら、もっと他に集めるものがあるだろうに。
さらに気になることは一つではない。
ここにあるものたちは、魔力を合わせたり、動物や魔物の生態について深く書かれたものが多い。
この部屋にあるものの所有者は無造作に集めているわけではなく、まるで確固たる目的があるような……。
思考に耽っていると、
「どう? 僕の集めたコレクションたちを、気に入ってくれたかい?」
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