15・獣化(ビーストアームズ)
俺とレイラは、盗賊団の影狼の爪のアジトに向かうため、街を出て山道を歩いていた。
「そういえば、レイラはどうして冒険者になったんだ?」
その道中、暇だったのでレイラにそう問いかける。
「なんでそんなことを聞くのかしら?」
「なんとなく……だ。自分の正義を大切にしている人間だということは分かったが、それだけで──影狼の爪なんていう危険な集団に一人で立ち向かおうとしていたのは、不思議に思ってな」
そう話すと、レイラは少し考えたように拳を顎元に置く。
やがて。
「私が冒険者になった理由は簡単よ。悪者を許せないっていうのもあったけど……自分の最強を証明したかったから」
「ほお?」
意外と面白そうな話だったので、つい前のめりになってしまう。
「私の師匠は有名な格闘家だったの。アルトゥロっていう格闘家に聞き覚えはあるかしら?」
「悪いが、ないな。他人にはあまり興味がないんだ」
「まあ、そんなところだと思っていたわよ。まだ子どもだしね。とにかく……私は師匠に厳しく鍛えられたわ」
昔を懐かしむようにレイラが言う。
「そんな師匠も、一年前に病気で亡くなった。その時、私は師匠から遺言を受け取っているのよ」
「それはなんだ?」
「『自分の強さを信じなさい』──よ」
レイラは噛み締めるように言う。
「なるほどな。だから、お前の『最強の証明をしたい』という話に繋がってくるわけか」
「そうよ。師匠が信じてくれた私自身の強さを証明するため──そしてなにより、そうすることが師匠の弔いになると思ったから、私は冒険者になったってわけ」
話し終わったのか、レイラは昔を思い出すかのように、握った自分の拳を見つめた。
ふむ……自分の強さか。
向上心がある人間は好きだ。強さを追い求める姿勢には共感出来る。
だから今のレイラの話を聞いただけで、彼女との距離がぐっと縮まった気がした。
「そうだったのか。話してくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
「お前の強さにも納得が出来た。だが──質問を重ねるようですまないが、影狼の爪の下っ端どもを倒した術は、なんなのだ? 人間離れした動きだったし、だからといって身体強化魔術を使っている様子でもなかった」
「ああ、それなら──」
と、レイラが言葉を続けようとした時、俺たちは高い壁に突き当たる。
どうやら、崖になっているよう。崖の上では、道が続いているようようだった。
「面倒だな。回り道をするか?」
「いえ、これくらいの崖なら……」
レイラがニヤリと笑う。
「丁度いい機会ね。私があいつらと戦った時に使った術を、あんたに教えてあげる」
そう言って、レイラは「はあああ──」と息を吸う。
「私が得意とする技は『獣化』。生命エネルギーを、体中に巡らせるの。こうすることによって、身体能力を飛躍的に向上させることが出来るわ」
「ほお……」
思わず、声を漏らしてしまう。
なるほど、獣化。二千年前にはなかった技だ。俺の目から見ても、レイラが纏うオーラが様変わりしたように感じる。
呼吸法が鍵か? 体内により多くの酸素を取り込むことによって、生命エネルギーを爆増させる。
なんにせよ面白い技だ。
彼女の姿に惹かれ、つい思考に没頭してしまう。
「獣化で体を強化してしまえば……はっ!」
短く気合いの一声を走ったかと思うと、レイラは力強く地面を蹴る。
自分の身長の十倍はあろうかという崖の上まで跳躍し、彼女はすとんと着地した。
「これくらいの崖の高さなら、簡単に昇れるってわけ」
崖の上で、レイラがドヤ顔をする。
「……とはいっても、ここまで出来るのには三年はかかっちゃったけどね。あんたも早く回り道をして、私のところまで来なさいよ。待っててあげるか──」
「こうか?」
先ほどの彼女を真似て、「はああ──」と息を吸い、俺も獣化を使ってみる。
ほほお……なかなか面白い感覚だ。体全体から熱を感じる。身体強化魔術を使った時とも、また違った感覚だ。
俺はそのまま彼女と同じように跳躍。崖の上に着地し、「おっとと」とバランスを崩しそうになったが、なんとか転倒せずに済んだ。
「な……っ!」
隣に立った俺を見て、レイラが一瞬言葉を詰まらす。
「あ、あんた、さっきのは獣化!? 知らないふりをしてたけど、あんたも獣化を使えたってわけ!?」
「そんなことはない。今、初めて使ってみた」
「初めて!?」
さらにレイラが驚愕する。
「それって、ほんと?」
「嘘を吐く理由がない」
「なんてこと……まだまだ不安定だけど、初めてでここまで出来る人間は普通はいないわ。師匠に天才だって言われた私でも、獣化を発動するには一年かかった。しかもそれだけじゃなく、リルクはこの崖の高さまで飛んできた。魔術だけじゃなくて獣化の才能もあるなんて、本当に何者なのよ……」
ぶつぶつと呟くレイラ。
獣化。なかなか使える技だな。身体強化魔術と出来ることはさほど変わらないが、こちらは魔力を消費する必要がない。
魔力というのは魔術の源だ。魔力がなければ、どれだけ優れた魔術師でもお荷物になる。
長丁場の戦いでは、必然と魔力を節約する必要が出てくるし、そのためにもこの技はなかなか有用だろう。
この時代の技術を習得出来て、レイラに感謝した。
「そろそろ行くぞ。影狼の爪のアジトまで、もう少しなんだろう?」
「え、ええ、そうね。あんたがすごすぎて、一瞬今の状況を忘れてしまいそうになったわ」
まだ色々と思うところはあったみたいだが、レイラはその場で首を横に振り、再び歩きだした。
そして、しばらく歩いた後。
山の中に洞窟が現れた。
洞窟の前には──見張りだろうか──屈強そうな男が二人、槍を構えて立っていた。
「あれが、あいつらのアジトよ」
少し離れた地点の草むらで姿を隠しながら、レイラが口にする。
「一応言っておくけど、引き返すなら今のうちよ。ビビってるなら、やめた方がいい。どうする?」
「分かりきったことを聞くな。なんなら、今からどんな連中がいると思って、ワクワクしているくらいだよ」
「あんたなら、そう言うと思っていたわ」
嬉しそうにレイラが笑う。
「入り口も出口も一つだけ。隠密行動は不可能。正面突破よ!」
「ああ!」
俺たちはそう声を出し、影狼の爪のアジトに一気呵成に攻め込んだ。
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