13・冒険者レイラ
「ありがとね」
あらためて、男たちに襲われていた女──いや、実際は女の圧勝だったわけだが──が礼を言った。
「構わない。それに余計な真似だっただろ? 俺が助けに入らなくても、お前一人でやれていただろうに」
「それはそうだったかもしれないけど、足元をすくわれないとも限らないでしょ? しかも、あんたみたいな子どもに助けられると思っていなかったわ」
肩をすくめ、彼女は手を差し出す。
「私はレイラ。冒険者よ。あんたは?」
「お、俺は……」
言葉に詰まってしまう。
しまった。
名前を考えていなかった。
まさか『リオ』と正直に伝えるわけにもいかない。同名だと言い張ることも出来るが、王子だと気付かれれば面倒だからな。
なにか考えなければ……。
言い淀んでいると、彼女──レイラが首を傾げ、俺は咄嗟に、
「リ、リルクだ。よろしく頼む」
偽名を名乗り、彼女と握手を交わした。
──俺の名前であるリオと、第五王子のディルクを合わせた名前だ。
ディルクよ、すまん。勝手に使ったりして。許してくれ。
「リルク……いい名前ね。リルクは魔術師かしら? 幻覚魔術なんて、初めて見たわ」
レイラは俺が名乗った偽名を疑問に思った素振りを見せず、そう問いかけてきた。
よかった。なんとか騙せたらしい。
「まあ、そんなところだ」
「あんたみたいな子どもが使えるなんて、珍しいわね。その子どもらしからぬ喋り方も、そうだし……まさかお貴族様かしら?」
「それは──」
「待って」
言葉を続けようとすると、レイラが俺から視線を逸らす。
見ると、レイラにボコボコにされた男が目を覚まし、這いながら逃げようとしていた。
「こ、こんなに強いだなんて思ってなかったぞ。今のうちに逃げ……」
「あら、いい根性してるじゃない」
レイラが話しかけると、男は「ひっ!」と短い悲鳴を発して止まった。
「あんたらには、聞きたいことがあるのよ。さっき、影狼の爪って名乗ったわよね」
「ち、違……」
「今更とぼけたって無駄よ。調べもついているんだから」
レイラがそう言うと、男は肩を落とした。
「言いなさい。あんたらのアジトはどこ? この近くにあるんでしょ」
「い、言えるわけねえだろうが! そんなことを言ったら、オレがボスに殺されちまう!」
「ふうん、意外と口が固いのね。だけど、あんたに拒否権はないわ。ここで私に殺されるのと、あとで殺されるの。どっちがいいかしら?」
一歩前に踏み出すレイラ。
男は少し悩んだ素振りを見せたものの、彼女の強さにトラウマを刻まれたためだろうか、「ひっ」と悲鳴を上げたのちに、ゆっくりと口を動かした。
「ま、街外れの洞窟だ。元はダンジョンとして使われていた場所だが、今はもう資源が取り尽くされて、魔物もいねえ。そこをアジトに構えて、オレたちは……」
「街外れの洞窟……【奈落の洞窟】のことかしら? 元々、推測していた候補地のうちの一つね。嘘も吐いている様子はない。わざわざ教えてくれて、ありがとね」
「へ、へっへっへ、どういたしましてだ。じゃあ、オレはこれで……」
「逃がすわけないじゃないの。外道が」
媚びたような笑みを浮かべる男に対して、レイラは回し蹴りを放つ。男の後頭部にクリーンヒットして、彼は再び気を失った。
「ふう……あとは自警団にでも言ったら、こいつらを捕まえてもらえるでしょ。じゃあリルク、またね。もう一度言うけど、助けてくれてありがと。私には行くところが──」
「待ってくれ」
勝手に話を進めるレイラに対して、今度は俺から「待った」をかける。
「影狼の爪っていうのは、なんなんだ? お前の口ぶりからすると、男たちは組織だって行動しているみたいだな。それにどうして、お前は男たちのアジトを突き止めようとしている?」
「影狼の爪を知らないの? 意外と世間知らずなのね。だったら本当に貴族──いや、詮索するのもいけないか。まあ助けてくれたお礼に教えてあげる。影狼の爪は──」
レイラは説明を始めた。
影狼の爪。
簡単に言うと、盗賊団だ。
その盗みの手段は残酷。人を殺すことにも躊躇わず、今まで多数の被害者が出ている。
もちろん、自警団や冒険者にも目をつけられ、彼らの頭には多額の懸賞金がかけられている。
極悪非道の盗賊団──それが影狼の爪であった。
「それを、冒険者であるレイラは追っていたわけか。だが、先ほどの男たちの動きを見るに、大した組織じゃないように思えるが? 弱すぎる」
「こいつらなんて、影狼の爪の下っ端よ。それに……影狼の爪のリーダーは、ただのゴロツキじゃない」
「なに?」
「彼らのリーダーは、ラグナスって男。元々は宮廷魔導士の一人で、孤星魔術師だったらしいわ」
「孤星魔術師というのはなんだ?」
「孤星魔術師っていうのは、この国で優れた魔術師に与えられる称号みたいなものよ。孤星魔術師、双星魔術師、三極星魔術師と別れてる。
リーダーのラグナスは、双星魔術師にも届きかけた人物らしいわ。だけどその矢先、同僚を殺して逃走。その後、影狼の爪を作ったってことよ」
魔術をそんなために使うなどとは……言語道断である。
綺麗事ばかりを言うつもりはないが、魔術というのは人々の生活を豊かにしたり、大切なものを守るためにあるべきだと思うからだ。
もっとも、俺みたいに「ただ楽しいから」っていう理由で、魔術を極めようとする変わり種もいるがな。
だが、俺は自分の私利私欲のために人を殺したことはなかったし、ラグナスだとかいう男には共感出来なかった。
「ラグナスには私も苦戦するかもしれない。だけど、逃げるわけにはいかない」
レイラは決意するように、拳をぎゅっと握りしめる。
「そこに転がってる男どもが影狼の爪ってことも、最初から気付いていた。だからわざと襲われて、情報を聞き出そうとしたってわけ。じゃあ──私は今度こそ行くわ。あんたも気を付けて……」
「だから待てって」
その場を走り去ろうとするレイラに、俺はこう告げる。
「俺も行く。お前の手助けをさせてくれ」
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!
よろしくお願いいたします!




