12・暴漢から女の子を助ける
「ん……なんだ?」
気になり路地裏の方へ進んでいくと、そこでは何人かの男が【一人の女】を囲っている光景が目に入った。
俺は物陰に隠れて、まずは事の一部始終を観察する。
「へっへっへ、お前さんみたいな可愛いヤツが王都を歩き回ってたら、襲ってくれと言ってるようなもんだぜ」
「王都にはなんでもあるが、オレらみたいな連中もいるからな〜。お嬢ちゃんには物騒だぜ」
「悪いことは言わねえ。さっさと財布を出しな。もっとも……出したところで、無事に済むとは保証しねけどな?」
……なるほど。どうやら、一人の女に寄ってかかって暴力を働こうとしているらしい。
華々しい街並みに騙されそうになるが、裏ではこういう行為も行われていたか。バカなヤツは、どの時代にもいるものだ。
一方──女の方は取り乱したりせず、男たちを睨みつけていた。
黒を基調とした服装に身を包む女だ。
その顔つきは整っており、思わず目を奪われてしまう。男たちを見つめる冷たい目つきも美しく、勝気な印象も受ける女だった。
「バカね」
女は怯えるどころか、男たちに毅然として言い放つ。
「己の実力も分からずに、私に喧嘩を売ったのかしら」
「なんだと?」
彼女の物言いに、男たちの顔つきも厳しくなる。
「て、てめえ、オレらが誰だか分かってんのか? オレらは泣く子も黙る『影狼の爪』だぞ!」
「よーく知ってるわよ。そしてあんたらは、『影狼の爪』の名を盾にして、調子に乗ってるバカ。そんなに頭が悪いんだから、あんたたちは致命的なミスを犯したのよ」
「致命的なミス……? 訳が分からねえな。だったら、どういうことか教えてもらおうか」
男の一人がポキポキと拳を鳴らし、女に近付く。
……これ以上は見るに堪えんな。
「ネリス、ここからはあまり喋るなよ。俺の気が散るし、気付かれたら面倒だ」
「それはいいが……もしや、助けにいくつもりか?」
「当然だ」
ここで俺が助けにいって、いいことはない。王子だと気付かれるリスクの方が大きいだろう。
だが──だからといって、この状況を見過ごすわけにはいかなかった。
ああいう輩は、前世から大嫌いだったのだ。
俺に冤罪をかけてきた人間どもの顔を嫌でも思い出してしまう。
「おい」
俺は意を決して、姿を現した。
「なんだ、この子どもは?」
その場にいる者たちの顔が一斉に俺の方を向く。
「か弱い女に寄ってかかって、酷いじゃないか。彼女を解放しろ」
告げると、少し間が空いてから、男どもが腹を抱えて笑い出した。
「はっはっは! 子どもがなに言ってやがる! 英雄ごっこでしゅか?」
「痛い目見たくなかったら、ガキはどっかに行ってな」
……ダメだ。予想していたが、この姿のままだと大した威圧にもならないらしいな。
犯行の目撃者がいたら逃げてくれると期待して言ってみたが、このままでは埒が開かない。
こうなったら武力制圧だな。
俺は魔術回路を組むと──。
「そいつらの言う通りよ。私のことを助けてくれようとしてくれるのは嬉しいけど、いらない心配だわ」
その女だけは俺を子ども扱いせず、こう続ける。
「もうちょっと、喋らせてからにするつもりだったけど……気が変わった。その子に被害が出ちゃうかもしれないしね」
「おい、てめえはさっきからなにを……」
「まだ分からないのかしら? だったら教えてあげる」
彼女はその場で屈み、
「あんたらより、私の方が強いって言ってんのよ」
──男の一人に蹴りをヒットさせた。
「な、なんだ!?」
「動きが見えなかったぞ!」
「やっちまうぞ! あとで楽しみたいから、顔にだけは傷を付けるなよ!」
それを皮切りに、他の男どもは女に襲いかかる。
──そこからは、一方的な戦いであった。
蝶のように舞い蜂のように刺す、と言うべきだろうか。
当初か弱いと思っていた彼女は、華麗な動きで次々と男どもを倒していく。
まるで子どもと大人の戦いだ。
「ほお……! あいつ、面白いな!」
見たことのない女の戦いっぷりに、俺も思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
彼女の動きは……なんだろうか? ただの人間に出せる動きではない。メイドのヴェロニカの戦いを目にした時と同じ印象を抱くが、彼女とは少し違っている気がする。
身体強化魔術を使っているのか? いや、彼女からは魔力を感じない。別の方法で、飛躍的に身体能力を向上させているのだ。
やがてあっという間に男たちは地面に倒れ、残すところもあと一人になっていた。
「ち、近付くんじゃねえ!」
しかし、その瞬間。
最後の一人が動き、俺の背後に回り込む。そして俺の顎元にナイフを当ててきた。
「こ、こいつがどうなってもいいのか!? それ以上近付くと、このガキをやっちまうぞ!」
「ちっ……外道が」
女の表情が嫌悪で歪む。
うむ、外道というのも俺と同じ感想だ。子どもを人質にして取引を持ちかけるなど、クズのやることだ。
だが、相手が悪かったな。
「なあ、おっさん」
俺は前を向いたまま、男にこう話しかける。
「お前は死んだことはあるか?」
「なん……だと?」
「俺はある。お前以上の悪意に晒され、殺された経験がな。一度は経験してみるのもいいもんだぞ。人間の醜悪さを知ることが出来る。だからお前に──」
俺はそっと手をかざして、魔術を発動する。
「死の恐怖を教えてやろう」
次の瞬間だった。
「う、うわああああああ! や、やめろおおおおお!」
男は俺から離れ、突如悲鳴を上げだした。
「な、なんだ、この化け物は……っ! ただの子どもじゃなかったのか!? 子どもの皮を被った悪魔じゃねえか! や、やめてくれええええ──!」
そのまま断末魔を響かせ、男はそのまま地面に倒れ込む。
顔は白目を剥いており、口からは泡を吹いていた。
「え……? 今のはなに?」
「幻覚魔術だ」
状況が分かっていない彼女に、俺はそう告げる。
こんなクズ、殺してしまってもよかったが、それでは足がつく。
そこで俺は彼に、自分が殺される幻覚を魔術で見せた。男の中では俺が化け物の姿となり、彼を丸呑みする光景が見えていたはずだ。
「お前は優しい人間だ。見ず知らずの子どもを人質に取られて、躊躇する。だから余計な真似だと思ったが、こちらで処理させてもらった」
「あ、あんたみたいな子どもが魔術を使えるなんて……一体──」
彼女は俺を見て、呆然と立ち尽くしていた。
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