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飛行船の速度は遅く、人が走るのとあまり変わらないほどだったが、その巨体が進むたびに、周囲が揺れ、森全体が緊張感に包まれた。アルクとアリエルは、森の中を駆け抜けながら、その巨大な影が迫ってくるのを感じ取っていた。
「このままでは飛行船が防衛所に到達するのも時間の問題だ…」
アルクは焦燥感を募らせた。
「急がないと…!」
「冷静に、アルク。今は無理に急ぐよりも、確実に防衛所に情報を伝えることが大切です。私が進都の飛行船の特徴を説明します。飛行船の迎撃準備を整えるためには、詳細な情報が必要です」
アリエルの落ち着いた声に、アルクは少し冷静さを取り戻した。彼女の存在が、この緊迫した状況の中で一つの支えとなっているのを感じた。
「分かった。防衛所まであと少しだ…」
二人は木々を縫うようにして進み続け、ついに防衛所の外縁が見えてきた。アルクは息を整えながら、アリエルに目を向けた。
「ここからは、君が持っている情報を指揮官に伝えてほしい。俺も一緒に説明する」
「もちろんです。すべてお話しします」
防衛所に到着すると、アルクとアリエルはすぐに指揮官の元へと向かった。アリエルを見て皆はギョッとしていたがアルクに連れそられていたため止めようか躊躇っていた。アルクはそれに構わず指令室に進み続けた。
指揮官は二人を見ると、特にアリエルに対して厳しい目を向けた。
「彼女は…進都から来たヒューマノイドか?」
アルクは素早く状況を説明した。
「そうです、ですが彼女は他のヒューマノイドとは違います。彼女は我々を助けるためにここに来たと主張しています。今は彼女の持っている情報が、飛行船に対する防衛の鍵になると考えています。」
指揮官はアルクの言葉を聞いてしばらく考え込んだが、やがて落ち着いた声で言った。
「状況が状況だ。今はすべての情報が必要だ。いいだろう、彼女の話を聞こう。ただし、万が一の事態に備えて警戒は怠らないように」
指揮官は部下たちに指示を出し、アリエルに適度な距離を保ちながら、警戒を続けるように命じた。それでも、彼の表情には若干の緊張が残っていたが、アルクの信頼を受けていることもあって、アリエルの情報を聞くことを決断した。
「アリエル、君が知っていることを話してくれ。飛行船の目的や、進都の兵器に対抗するための手段について、我々が知っておくべきことを教えてほしい」
アリエルは静かに頷き、説明を始めた。
「飛行船には、大量の兵器が搭載されています。その多くは遠距離からの攻撃に特化しており、防衛所を一瞬で破壊する力を持っています。しかし、飛行船は極めて鈍重であり、機動力に欠けます。これを利用すれば、迎撃することは可能です」
指揮官は彼女の話に耳を傾けながら、同時に部下たちに対応策を伝達していった。
「我々の攻撃力を一点に集中させれば、飛行船の構造に損傷を与え、行動を遅らせることができるかもしれん。全力を挙げて準備を進めるんだ」
アリエルはさらに続けた。
「それは危険です。飛行船には緊急時に備えた自爆装置が内蔵されています。これが作動すれば、広範囲に壊滅的な被害をもたらします。その作動を防ぐために飛行船の中枢システムを停止あるいは破壊する必要があります。」
指揮官は一瞬驚いたが、すぐに冷静を取り戻した。
「分かった。その中枢システムを破壊するにはどうすればいい?」
アリエルは手短に指示を出し始めた。
「飛行船の中央部にある制御室が中枢です。そこへ到達するには、飛行船に潜入し、内部から操作する必要があります。私が案内しますが、迅速な対応が求められます」
指揮官はアルクに目を向けた。
「アルク、お前がアリエルと共に飛行船に潜入し、中枢システムを破壊する任務を任せる。危険な任務だが、お前ならやれると信じている。」
アルクは頷き、決意を固めた。
「了解です。アリエルと共に、飛行船を止めに行きます」
アリエルもまた、静かに頷いた。
「私も全力でサポートします。進都の脅威を止めるために」
指揮官は二人に指示を出し終えると、他の部隊にも防衛準備を命じた。防衛所全体が緊迫感に包まれる中、アルクとアリエルはこれからの任務に向けて最後の準備を整えた。