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内外抗争  作者: shiro
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2

(あれは…なんだ?)


 進都の上空には、巨大な影がゆっくりと動いていた。アルクの目には、それが進都の防壁を乗り越えた瞬間、巨大な船か何かが姿を現したように見えた。


「くそっ!あれは…」


 その飛行船はまっすぐこちらへと向かってくる。その規模と威圧感に、アルクは一瞬足がすくんだ。


「早く報告しないと!」


 アルクは慌てて再び端末を取り出し、防衛所に連絡を試みた。しかし、その瞬間、目の前を閃光が走り、端末が手から弾き飛ばされた。


「何だ!?」


 周囲を見渡すと、進都から放たれた光の矢が彼の周囲に降り注ぎ始めていた。これはヒューマノイドではない、別の攻撃手段だ。アルクは身を屈め、地面に伏せながら、その場からの退却を考えた。


「逃げるしかない…!」


 アルクは意を決し、光の矢を避けながら急いで木々の中に身を潜めた。背後からは進都の飛行船が迫ってくる音が聞こえる。彼は必死に走り、次々と木々や岩を乗り越えていった。


(ここで死ぬわけにはいかない…進都の動きを、防衛所に知らせなきゃまずい…!)


 しかし、全速力で走り続けるアルクの視界に、新たな脅威が映った。それは、ヒューマノイド達がすでに森林内に展開している光景だった。逃げ場がどんどん狭まっていく。


「これは…やばいぞ…」


 彼は咄嗟に脇道に飛び込み、木陰に隠れた。その直後、ヒューマノイドたちが通り過ぎていくのを、息を殺して見守った。


「一体なんなんだ、今までこんな大規模に起きたなんて聞いた事ないぞ」


(ここで捕まるわけにはいかない…防衛所に戻る方法を見つけなければ…)


 その時、彼の耳に微かに響いたのは、誰かの声だった。周囲を見回しても、誰もいない。だが、確かに声は聞こえていた。


「…アルク…」


 驚愕するアルクの耳に、その声は再び響いた。まるで頭の中に直接語りかけてくるような、不思議な感覚だった。


「誰だ…?どこにいるんだ?」


 アルクが声の方向を探ると、木々の間に薄く光る何かが見えた。警戒しつつも、その光に引き寄せられるように近づいていく。木漏れ日の中に浮かび上がったのは、人の形をしたシルエット。ヒューマノイドかとも思ったが、それは普通の人間のようで異なる何かを感じさせた。


「君は…誰だ…?」


 アルクが問いかけると、目の前の存在は一歩前に出た。その姿は、滑らかで美しいボディを持つ女性型ヒューマノイドだった。冷たい造形の中に、どこか人間らしい優しさが宿っているように見える。


「私は、ヒューマノイドa+25型。個体名アリエル。あなたを助けるためにここに来ました」


 アルクは目を見開いた。これまで進都から現れたヒューマノイドは、すべて無機質な見た目で冷徹な敵として立ちはだかってきた。だが、このアリエルと名乗るヒューマノイドは、そのどれとも異なっていた。


「助ける…だと?君は進都のヒューマノイドじゃないのか?なぜ俺を助ける?」


 アルクは警戒しながらアリエルと名乗るヒューマノイドに質問を投げかけた。


 アリエルは静かに頷き、説明を始めた。


「私はあなた達の言う進都で作られ生まれましたが、他のヒューマノイドとは異なります。進都の管理AIとは独立したプログラムによって出来ています。私は、あなたたち人類が完全に滅ぼされることを望んでいないのです」


「…どういうことだ?」


 アルクは困惑しながらも、アリエルの話に耳を傾けた。


「進都の目的は、外部の脅威の排除。そのために、私たちヒューマノイドは戦闘を続けています。しかし、進都の管理AIはその過程で人類を全滅させることもいとわないと考えている。私は、それを防ぎたい」


 アリエルの言葉は、アルクの心に一筋の希望を灯した。これまで敵としか見なかった存在が、今、自分たちの味方になると言っている。だが、そんなうまい話があるとは思えない。


「それで、君はどうやって助けてくれるつもりなんだ?」


「私には進都の兵器や戦略についての知識があります。あなたたちが効率的に防衛するための情報を提供でき、加えて私自身も戦闘能力を持っています。あなたたちと共に戦い、進都の脅威から守ることができると考えます」


 アルクはしばらく黙って考えた。彼女の言うことが本当ならば、人類にとって大きな助けになる。しかし、進都のヒューマノイドであることには変わりない。彼女を信用するのは危険だ。


「俺は君が信用できない。はっきり言って裏切ると考えている」


 アリエルは少し寂しそうに目を伏せた。


「それは、あなたが決めることです。私はただ、自分ができることを伝え、あなたに選んでもらいたいと思っています。私を信じられないなら、ここで私を破壊することもできる。でも、それがあなたたちを守ることにはならないと、私は考えています」


 アルクはその言葉に深く考え込んだ。彼女の言動には、嘘や偽りが感じられなかった。そして、このまま何もせずに進都の兵器が次々と襲ってくる状況に対して、打つ手がない現実も思い知らされていた。


「…分かった。一旦君を信じよう。でも、これから一緒に動いてもらう。君の知識を借りて、防衛所に戻ってみんなに報告する。それでいいか?」


 アリエルは微笑み、軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。私も全力で協力します。まずは、飛行船がこちらに向かっていることを防衛所に知らせましょう」


 アルクは頷き、アリエルと共に再び森の中を駆け抜けた。彼女の存在が、この絶望的な状況に一筋の光をもたらすのか、それともさらなる混乱を招くのか、アルク自身もまだ分からなかった。しかし、彼はアリエルに賭けることにした。

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