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とある夏の日、突如、森の中から現れた謎の人型金属兵器が小さな街を襲撃した。このヒューマノイドは、現代の人類の技術を遥かに超えた高度なものであった。
襲撃によって街は甚大な被害を受け、多くの人命が失われたが、2週間ほど経つと、ヒューマノイドはすべて撤退した。彼らは一方的に襲撃し、そのまま去っていったのだ。
この出来事を境に、毎年夏の日になると、同様の襲撃が繰り返されるようになった。人々は恐怖と混乱の中で生き延びるため、対策を講じ、ヒューマノイドが残した武器の残骸から技術を学び、新たな武器を開発した。しかし、それらは元の武器の性能には到底及ばないものであった。これでは被害が続くだけであり、反撃の手立ても見出せなかった。
襲撃が始まってから4年後、人類はついにこの脅威の源を突き止めるため、捜索隊を編成し、森の奥深くへと派遣した。これまでヒューマノイドが撤退する際に、その行方を追うことができなかったためだ。
探索は困難を極め、2年の歳月を要したが、ついにヒューマノイドがやってくる出発点と思われる謎の都市を発見した。その都市は見たこともない建造物が立ち並び、まるで異なる文明のような異様な雰囲気を放っていた。
ーーー
「これが進都か…」
少年アルクは、襲撃された街エルセントで軍に代わって新たに設立された対進都市防衛所から派遣され、進都を監視していた。
進都にたどり着くには、広大な面積を誇るブオーレ森林を通る必要があった。この森林を踏破するには相応の技術が必要で、アルクはもちろんその技術を有していた。
今、目の前にそびえ立つ壁は進都を守る防壁であり、近づくとヒューマノイドが壁から現れ攻撃してくる。だからアルクは、防御範囲外から進都を監視し、異常があった場合には直ちに報告できるようにしている。
「しかし、何も動きがないな…」
進都を監視し続けて数日が経過したが、全く変化はなかった。変化がない事は嬉しいがさすがに飽きてきて、欠伸を漏らした。
(眠くなってきたなぁ…)
最近、まともに睡眠をとることができず、睡魔が襲ってきた。アルクがうとうとしていると、監視中の門が音を立てた。
「ん?なんだ?」
眠気に浸る邪魔をされ、不機嫌な声を出すアルクだったが、門を見るとすぐに気を引き締めた。
「こいつら、もう進都から出てきたのか!?」
監視していたヒューマノイド達が門を開け、壁から現れたのだ。アルクはすぐに防衛所に連絡を取った。
「こちらアルクだ。ヒューマノイドが10体、壁の外へ出てきた。俺は今から対処に向かう!」
そう言って通信を切ろうとすると、端末から声が返ってきた。
「待て、一人で対処するのは無理だ。私も行く」
「いや、進行を遅らせるだけなら俺一人で十分だ。それにこれは俺の任務だ。俺がやらなきゃ…」
「アルク!これは命令だ!一緒に行くぞ!」
「…わかったよ」
アルクは渋々と了承した。
「私は既に準備を済ませている。すぐにでも向かえるぞ」
「了解。俺はこのままヒューマノイドを監視する」
アルクは通信を切り、急いで準備を整え外に出た。門の外にはヒューマノイド達が立っている。アルクが来たことには気づいているだろうが、彼らは見向きもせず、ただ佇んでいるだけだった。
その様子を見て、アルクは疑問に思った。
(なぜこいつらは攻撃してこない?)
ヒューマノイドは人類の敵だ。しかし、目の前のヒューマノイド達はこちらを見つめながらも、攻撃しようとする気配はなかった。
「おい、お前ら、どうしたんだ?攻撃しないのか?」
アルクが声をかけても、ヒューマノイドは反応しない。再び呼びかけても同様だった。不審に思いながらも攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、ヒューマノイド達は突如活発に動き出し、進都の方へ一目散に戻っていった。
「な…!?」
アルクは驚愕しながら、ヒューマノイドたちが進都の方へ退却する様子を見守っていた。なぜ彼らが急に引き返したのか、その理由は全く分からない。しかし、これまでの経験から、彼らがただ引き下がるようなことはないと直感した。
「何かが起きている…」
アルクは呟くと、即座に通信端末を取り出し、防衛所に再び連絡を入れた。
「こちらアルク。ヒューマノイドが予期せず撤退した。原因は不明だが、何か異常が発生している可能性がある。警戒を強化し、全員に注意を促してくれ」
「了解した。俺は一旦戻る。そちらでも引き続き状況を監視し、何か分かれば直ちに報告を頼む」
アルクは端末をしまい、周囲を警戒しながらヒューマノイドたちが消えた方向を睨みつけた。
(ここまで来て、ただ退くとは思えない…何か別の目的があるのか?)
その時、進都の方向から低い唸り声のような音が響き渡った。アルクはその音に驚いて顔を上げ、音の発生源を探った。