104.思い違い
子供の頃の叱られた後の弟の様にしょんぼりした佐助。燐は小さく息を吐くと、困ったような顔の佐助を見た。
「あのさ、佐助の手あったかいでしょ?」
燐は小さな頃の弟を思い出したついでに小さい子に話す様に佐助を見た。
急に脈略の無い話が始まった事に首を傾げる佐助。燐は佐助の前まで膝を進めると佐助の手を取った。
「ほら、あったかいじゃん」
「ん」
燐ちゃんの柔かい手。傷一つ、汚れも無い綺麗な手。
「道具はあったかくないの。ん-、こっちの事は分かんないけど私はそう思ってるから、佐助は道具じゃないって事なの」
さっき見せて貰った武器は温かくなかった。ここで変に温かい道具出してくんなよと思いながら佐助を見る。
「分かった。けど、何で急に武器を貸してなんて言ったの?」
燐ちゃんの世ではそうなんだろう。こっちに来て直ぐ慣れる事は難しいだろうと佐助は頷いた。
「だって佐助言ってたじゃん。鎌之助さんが来た時、一緒にいると狙われるからって。だから私も武器があった方が安心出来るかなって」
「…確かに言ったかも」
俺みたいなのと一緒に居るから狙われたと知ったのか。燐ちゃんの言葉に胸の内が萎んで行くような感覚に目を伏せた。
同じ人型だから。忍の居ない世から来た燐ちゃんは忍を人と同じく扱ってくれていた。けど事実を知った今なら忍と一緒は嫌なんだろう。
まぁ、そうだよな
口から小さく溜息が漏れた。何でか分からないけど。
忍が嫌だと思った事もあるが、今までこんな風に気落ちする様な事は無かったと佐助は眉尻を下げた。
「あ!違くてっあの時は彼女、えーっと恋仲?だっけ?の話だったけど!別に彼女面して言ったわけじゃないから!」
急に落ち込んだ感じの佐助。急にどうしたと見ていると、今度は溜息を吐いている。
燐は記憶を遡り、慌ててそんな意味は無いと訂正した。
「彼女じゃなくても一緒に居たら狙われるって事かなって。だから武器があったら安心かと思ってって事!」
「んと、先ずかのじょ、ってのは恋仲の相手って事?」
慌てたように早口の燐に佐助は視線を上げ問い掛けた。頷く燐。
「そ。女の人が彼女。で、さっきの変な人みたいなのに狙われるなら、自衛のために武器を貸して欲しいと思ってお願いしたの」
「…俺と別に居りゃ良いって考えないの?」
佐助は忍と別行動をしたいと言えば良いだけなのにと、よく言われる事を言わない燐に首を傾げた。
「え?アンタ私の事こんな良く分かんない場所に置いてこうとしてんの?」
「別行動」と平然と言う佐助に、まさか置いて行かれる?と燐は焦りながら佐助を見た。
「や、そういう訳じゃないんだけど」
「末永く宜しくって言ったの佐助じゃん!今更こんなリアル昔話な家に置いてかないでよ」
面倒見て欲しい訳ではないが、流石にここに今1人で置いて行かれても困ると燐は何となく曖昧な感じの佐助に食い下がった。
が、たまたま一緒に巻き込まれて来ちゃっただけの他人に家を貸してくれるだけでも十分過ぎると考え直す。
「ごめん、図々しかったです。ここから別行動なら、その前に薪どこから持って来るのかとか、野菜の種買う場所とか…あ!買い物出来ないと困るし、ちょっと一緒に買い物行ってからにしてください。お願いします」
移動も着物代も宿代も、丸投げだったし考えてみたら過剰にして貰ってた。
そう思った燐は日常生活の最低限を教えて貰い、後は何とかやって行くしかないと佐助に頭を下げる。
「俺とは別行動で…えっと燐ちゃん一人で此処に住みたいって事?」
「うん。佐助に甘えてた自覚はあるし、佐助が私の面倒見なきゃいけない義理もないしさ。ここ貸して貰えるなら、後は戻れるまで何とかするよ」
きっぱり言い切った燐の胸の内を探った佐助は、見え隠れする不安の中に自分への嫌悪が無いことに首を傾げた。
事実を知り、忍と過ごす事が嫌なのでは無いのか。佐助はじっと燐を見るが分からず、直接聞こうと口を開く。
「俺と一緒が嫌?」
「何で?」
きょとりと首を傾げる燐。佐助はやっぱり何かおかしいと燐を見る。
「何でって…忍と一緒に居るのが嫌だから別に行動したいんじゃねぇの?」
「別に嫌じゃない。ってか、佐助が嫌なんじゃないの?」
お互いがお互いの存在を疎ましいと思っていると考えていたのかと燐と佐助は互いの顔を見る。
「何で俺が嫌なんて言うのさ?末永くって言ったろ?忘れちまったの?」
「…忘れてないけど。さっき置いてこうとしてなかった?」
さっき言ったばかりで忘れる訳が無いと燐が言えば、佐助はふわりと柔らかく微笑んだ。
「置いてかない。アンタが嫌じゃないなら」
「嫌じゃないよ。寧ろ有り難い。1人じゃ買い物にも行ける自信ないし、先ず着物着れないし」
「そんじゃさ、一緒に居てよ」
頷く燐。忍が嫌だと思った事は沢山あった。だが、忍で良かったと思ったのは初めてだと佐助は燐の安堵した表情と同じ胸の内を見て思った。




