94.お主も悪よのぅって2人組
女ってのは、周りの女と見比べて着飾ったりするもんだと思ってたのに。
「生活に絶対必要な物なら買わないと変なんだと思うんだけど、要る?」
次の店は素朴な感じの和風アクセサリーショップ。で、多分合っていると思う場所。
髪飾りっぽい物や、数珠?腕輪?櫛や鏡、匂いのする袋等が置いてある。
ドレスな世界だったら、宝石の1つも着けてなければ違和感があるのだろうが、周りを見ても全員がつけているわけでは無い。
「まぁ、皆が着けるもんじゃないけどさ」
「じゃあ要らない」
疑う様な胸の内。何でだろ?女ってのは欲しがるもんだと思ってたのに。と佐助は燐を見る。
胸の内も同様、不要と伝わると佐助は燐の世では装飾品を使わないのかと手持ちの簪を棚に戻した。
「き、お金、ならちゃんとあるから」
金子の心配をしているのかと問い掛けるも首を横に振り、未練など無いとさっさと店を出る燐。佐助は名残惜しそうに店を後にし燐を追った。
大分慣れた足取りで進む燐。自分の手は不要なのかと佐助は萎むあわと同じく眉を下げた。
「一人で歩けるようになっちまったね」
ぽそりと吐いた言葉に佐助は驚く。大分歩幅も違和感なく、町娘に見えるようにと誂えた着物のお陰もあってか視線も以前より気にならない。
なのに何故、自分は惜しいと思ったのだろう。人に溶け込み安堵の思いはあっても、それを残念と思うのは何故だろうと佐助は戸惑う。
「うん、中々上達早いでしょ?あ、けどたまに躓く」
佐助の戸惑いを余所に燐は佐助を見上げ、その拍子に躓くと楽しそうに笑った。自分の見知らぬ世に来て何故楽しそうに笑えるのかと佐助は燐の胸の内を探る。
「越後…?」
「え?やっぱ、居るの?」
燐の胸の内にある見知った言葉に佐助は警戒する。佐助の呟きに反応した燐は、どこに越後屋が?と頬を染め周りを見回した。
「えっと、えちごやってのは、人の事?」
警戒していた自分が馬鹿らしいと燐の反応に佐助は呆れた声を出した。燐は大きく頷くと周りの成金っぽい感じを探す。
「あ、タヌキっぽいのは代官だった越後屋はキツネだ」
探していた燐は、あれ?黄色系の小太りって御代官様じゃない?と途中で気付き、探す対象を変更した。
「あのさ、獣族には狸も狐も居るけど…急に如何したのさ?」
燐の胸の内を注意深く探っても意味不明な事しか出て来ず、探る事を諦め問い掛けた。
「あ、ごめん。えっとさ越後屋って言ったから。どんな人なのか見たくて」
戸惑う佐助に越後屋っていう名前の人が皆悪者ばかりな訳ないと気付いた燐は、浮かれていた自分に恥ずかしくなりつつ答えた。
「越後屋…あのさ燐ちゃん。ここ、どこか分かる?」
疑うには燐の反応が雑過ぎる。才蔵と別れてから燐の気配に異変は無かった。
だが。佐助は入れ替わった間者の可能性も有ると燐を見る。
「分かんないよ。えっと、どこかの町で…佐助達の国?とは敵?って言われたような…ごめんなさい」
自分の言葉に燐は時代劇と重ね過ぎたと反省した。敵という事は警戒しなけらばならない筈。浮かれちゃってごめんと燐は佐助を見上げた。
越後。この辺りの地を特定する言葉は本当に偶然か?疑惑が無い訳ではないが、佐助は今までの燐の驚く様な忍の知識を思い出すと納得しようと頷いた。
「此処は越後の国。急に国の名を言い出すからさ。…そんな顔しないでよ」
越後って国の名前なんだと思った燐は、年末になるとよく見るテレビCMを思い出し次いで新潟だ!と目を見開いた。
「佐助、あのさ。ちょっと私知ってるかもしれなくて、ここの事」
知っている事を佐助に告げるか秘密にするか。少し迷った燐は歴史の擦り合わせをしたいと思うと佐助に近寄り小声で話す。
急に近付いてきた距離感に戸惑いながらも、往来で話す事でも無いと佐助は燐を促し宿を取るため道を急いだ。
早まる足取りに必死に追い着こうとしていた燐は、着物の裾が上手く捌けず躓く。
「あっ、ぶ…無くない、ごめん、ありがと」
地面に着こうと伸ばした手が引かれ、紺色が目の前に広がる。佐助の着物だと分かると、燐は抱き留められている状況に詫びと礼を述べた。
「俺が悪い。ごめんね燐ちゃん」
気が急いて構えなかったと佐助は燐に怪我は無いかと眉を下げる。離れた燐は小さく首を横に振った。
「手、じゃなくて良いからまたお願いしても良い?」
おずおずと自分を見上げる視線に、瞬時にあわで息苦しくなった佐助はそれでも燐に手を差し出した。
「もっと早く歩いても良いよ?」
掴る物があれば早く進めるからと隣を歩く佐助を見上げると、佐助は小さく首を振る。
俺は才蔵が居たけど燐ちゃんはたった一人で知らぬ場所に巻き込まれたってのに。こんな時でも気遣うなんて
「風呂入って、飯食って。それから聞くからさ。ゆっくりで平気」
佐助は燐の手を緩く握り直すと、燐が過ごしやすそうな宿を探そうと歩幅を小さく合わせるように道を歩いた。




