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ぬばたまの夢 闇夜の忍~暫く全力のごっこ遊びかよって勘違いからはじまった異世界暮らしは、思ってたのと大分違う。(もふもふを除く)~  作者:


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93.小芝居

袖ではバランスが上手く取れず、腕を掴んで良いか聞くとこちらを見ずに手を差し出す佐助。


舗装されていない道。足元は草編んだ奴。緩く繋いだ手を意識している暇なんて無く、燐は時折ギュッと佐助の手を強く握りバランスを取りながら歩いていた。


「大丈夫?」


強く握られる度、胸の内のあわが増える。人に見える様に町人の格好で歩いている俺は、アンタの隣を歩いていても違和感は無い筈。


「ん。ちょっと慣れて来た、かも」


コツ掴んだら直ぐ離してやるから少し待て。そう思いながら燐は必死に歩いていた。


「どうしたの?」


突然止まり、道の端に寄る佐助を見上げる。と、佐助は遠くを見ながら躊躇なく燐の肩を抱き寄せた。


「んー、小さい歩幅で歩く燐ちゃんが可愛いから変なのが寄って来ない様に避難」


刺客や追跡者とも思ったが、あんな露骨な視線は投げない筈と考えながら話す佐助の行動に、燐は仄かに染まった顔を顰めた。


ヒモ素質のある誑しで、万能忍って最強じゃない?


燐はコイツの人生イージーモードなんだろうなと佐助を見た。佐助は燐の肩から手を離すと、燐を促し近くの店に入った。


「何屋さん?」


多分店屋だが、特に何も商品は置かれておらず、料理の匂いもしない店内。


食べ物屋では無いなと燐は、時代劇来た!と店内を見回した。


佐助は奥から店の男が出て来ると、燐と少し距離を取るよう前に出て、男に笑みを向ける。


「そいつは難儀でしたねぇ」


佐助は峠で盗賊に遭い荷を置いて来た事、金子はあるが着るものが無い為、早急に揃えたいと堂々と嘘を話す。


燐は同情するよう言い包められた店員を見ながらヒモってか詐欺師?と佐助を見ていた。


どこか浮世離れしているような雰囲気の娘と、其れより劣るが中々上質な着物を羽織る男。 


何処か大店の娘と従者なのだろうと男は思うと店の奥から何点か上等な小袖を運ばせた。


「荷が全てと申さらば、この程度は小袖や足袋も御入用かと」


「嗚呼そうか。良く気が付いてくれたね。だが生憎、先立つ物にも限りがある…国元で無ければ店の名等は役に立たないだろうし」


店員の態度が急に変わった。それに合せるかのように佐助の態度も口調も変わっていく。


燐は佐助の自然な小芝居に、何か凄い現場に居るのかもしれないとちょっとドキドキしながら行く末を視聴者気分で見守る。


佐助の小さくなった語尾を男は聞き逃さなかった。きっと佐助の独り言だったのだろうと、男は気付かない振りをしつつ佐助に近付く。


「ようござんす、申し遅れましたがアタシは此処で番頭をさせて貰っておりますんで、多少融通は」


男は言葉を途中で切ると佐助は意図が分かったというように男の側により、白い包みを渡す。


賄賂だ!あれきっとお金だ!


燐は目の前の時代劇な小芝居に頬を染めた。幼少期から祖父と見続けていて思い入れもある時代劇。


どうせなら西洋と思っていたが、こういうの生で見れるなら楽しいかもと燐は和風異世界に楽しさを見出していた。


スライムは居なくても越後屋は居るんじゃ?


悪そうな金持ちっぽい黄色系の着物の小太り。燐は時代劇を思い出しながら、佐助達の遣り取りを遠巻きに見つつ妄想を始めた。


「お嬢様」


お嬢様も居るの?と燐は聞き取れた言葉に我に返っり、和風異世界と思っていたがドレスも居るの?と小さく店内を見回す。


「お嬢様ってのは燐ちゃんの事」


不思議そうに此方を見ている店員。苦笑しながら近付く佐助は、何度も呼ばれてただろ?と小さく囁きながら燐の手を取り先を歩く。


「お嬢様って…」


「此処じゃ、手荒れ一つない燐ちゃんみたいな手の娘を、そう呼ぶの」


顔を顰め自分を見上げる姿に、再び小さく囁くと困った様に眉を下げる。その様子が可愛いと佐助の緩む口許を引き結んだ。


「如何で御座いましょう?」


何度目の「いかがでございましょう」を聞いたのか。燐はぐったりしつつも何でも良いとも言えずに佐助を見た。


見上げた佐助は満足そうに頷き、今まで見た物を全て貰うと話している。そんなにお金あるの?と燐は不安になり佐助を見る。


「あのさ、こんなに買って大丈夫なの?」


お金の価値は分からないが、着物を数着と足袋。その他にも紐や帯を包んだ風呂敷を二つ持つ佐助を燐は見上げた。佐助は満面の笑みで大きく頷く。


「安く買えたからね。それに何日かここに居る間、毎日同じ着物って訳にも行かないだろ?」


何を着せてもきっと似合う。少し値は張ったけど、全く惜しいとも思わない。何となく、櫛や小物を買うために給金をせっせと貯めている男の気持ちが分かった気がする


「そんなもん?」


佐助の満面の笑みは、安く購入出来たからなのかと素直に佐助の言葉を信じた燐は、別に同じ着物でも良いんだけどと佐助を見る。


佐助は燐の言葉に大きく頷くと、折角だから次は小間物屋に連れて行こうかと燐の手を緩く引いた。


さっきまで嫌そうだったのに、普通に手を繋ぐ佐助。コイツの過剰なスキンシップは慣れるしかないんだと悟った。

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