88.特技の追加
朝食の後、才蔵の許可を得て一緒に散策する事にした。危険な植物をメモする目的だったが、燐は才蔵の説明と、襲い掛かる緑達に早々に諦める事にした。
「触りません、1人で山にも来ません。これが最善だって分かりました」
ここに普通の植物は生えてない。皆どこかに顔があったり、変な粉や蔓や糸を出して来る。自分は捕獲対象者なのだと理解した燐は才蔵の隣にピタリと張り付いた。
「…此の辺り一帯は魔獣の出るような山故、燐殿の世の山の様に茸や山芋の取れるような場所も在ります」
才蔵の言葉を聞きちょっと安心した燐は今度連れてってもらおうと才蔵と共に車の方へ戻った。
「出発って、夜ですよね」
朝食を食べて少し歩いて。もうする事が無いと燐は才蔵を見上げた。才蔵が頷くと燐は車内整理でもしようかと車のカバーを外した。
「ちょっと整理しようと思って。食べ物は昨日何となく賞味期限順に整理したんですけど」
良く分からない荷物が増えている車内を見ながら才蔵に荷物を広げても良いかと尋ねた。
「手伝います」
「あ、じゃぁついでに使い方とかも説明しますね?」
色々な植物の振りをする魔物達を嫌がらず、ずっと仕留めながら説明してくれた事を思い出し燐は一先ずコンビニから持って来た袋を何個か出した。
「たおる、ですね」
「そうです。コンビニで売ってるタオルの方が高価なのでふわふわですよきっと」
見覚えのあるものを手に取り確認する様に差し出して来た才蔵に燐は頷きながら袋を開けた。
「こういうのは纏めて衣類の圧縮袋に入れようと思うので、袋開けて貰えますか?」
燐は改めてコンビニって何でも売ってるなと商品を仕分けしながら思った。自分では使わない様な男性化粧品、カミソリ、キッチンペーパー、文房具。粗方分け終えビニール袋に品名を書いて車に戻す。
「一旦、休憩しませんか?」
お腹は空いていないが何か飲んで休みたい。燐は物珍し気に品物を見て、たまにメモを取っている才蔵を見た。
「湯を沸かしますか?」
才蔵はチラと朝採って来た枝を見て燐に問う。折角だからそうしようと頷くと燐はケリーケトルを取り出した。
「火の出る…かせっとこんろ、は使わぬのですか?」
才蔵は今朝から使い出した銀の筒を見ながら以前の物は使わぬのかと手元の帳面で名前を確認しながら問い掛けた。
「あ、あれガス使うんですよ。こっちでは多分売って無いと思うので…。これだと枝燃やせばお湯が沸かせるし。あ、けどその枝無くなったら、才蔵さんに迷惑掛けちゃうんですけど」
使えば無くなる。才蔵は好奇心で余計な事を言ってしまったと、物悲しそうに眉を下げる燐を見た。
「迷惑ではありませぬ。木を狩る事等、造作もない事…直ぐに取って来られます」
「じゃ必要になったら、またお願いします」
ケリーケトルに水を入れ戻ると、側に枝を置いてくれる才蔵に礼を言い枝を差し入れ火を点ける。
「この後ちょっと寝て、それから出掛けますよね?」
夜走るならカフェインは摂らない方が良いなと燐は才蔵に尋ねた。寝るとは思っていなかったが、燐がそう言うのならと才蔵は頷く。
温かい麦茶を飲み、レジャーシートを敷いて仮眠と思っていたが、遠慮がちに肩を叩かれ寝ていた事に気付き顔を上げると日暮れだった。異世界なんて非日常に来ても熟睡できる自分って凄い。今後、特技にどこでも寝れると書こうと燐は大きく伸びをした。
「もう出ますか?…結構寝ちゃってすみません」
「いえ。まだ日暮れ。発つのは日が落ちてからと思っておりますが、このまま此処で寝るのはと思い」
確かにこのまま寝てたら風邪ひくかもと燐はレジャーシートを畳み車に入れて代わりにダウンを着た。防寒対策にコンビニにあった手袋をはめる。
「あ、才蔵さんにも」
フリース生地の手袋を差し出すと、才蔵は小さく首を振る。
「そのままの格好で走るんですよね?だったら手袋した方が良いですよ?あったかいし」
温かいからと勧めると、才蔵はおずおずと手袋を受け取りはめた後で手を握ったり開いたりしていた。
やがて日が落ち周りが暗くなると、才蔵は頭の布を外した。ぴょこりと耳が出ると燐は頬を染め触りたい衝動を抑えていた。
「あの、耳って寒くないんですか?…後、聞こえ方って人の耳の時と違うんですか?」
聞くだけなら良いだろう。燐はそう思い気になっていた事を聞いた。才蔵は気にした事もないことを聞かれ戸惑う。
「特に、寒いと思った事は有りませぬ。聞こえは…確かにこの耳の方がよく聞こえるやもしれませぬ」
言われてみれば聞こえが違うかもしれないと才蔵は新たな発見に驚きつつ燐を見た。やっぱり聞こえ方違うんだ!と燐は生ケモミミを見上げやっぱり触りたいなと密かに思った。




