87.魔物は良く燃える。
轟々と燃える、椿の種の様な実は油を取る実だと聞いた燐は、今後必要になるかもとスマホの電源を入れ写真を撮った。
「この枝は普通のですか?…なんかいつもより燃えてる気がするんですが」
「これは樹の魔物の枝です」
また魔物。異世界凄いなと思いながら燐は黒い枝をじっと見る。
淡々と魔物とか言ってるって事は魔物が物凄く生活に密着してる感じって事なのかな?
燐は再び周りを見回した。何かの音はする。声も聞こえる。だが、姿は見えない。実感がわかないと燐は眉を下げつつお湯が沸くのを待った。
「才蔵さん、コーヒー飲みますか?味噌汁の方が良いですか?」
サンドウィッチを取り出した際におにぎりも見つけた燐は、どっちが良いだろうと少し離れた場所に屈んでケリーケトルを見ている才蔵に問い掛けた。
「気遣いは無用に」
テントからボアマットを出して来た燐は、ローテーブルを移動しその上に食べ物を置いた。ついでに味噌汁とコーヒーのカップを見せると才蔵は小さく首を振る。
「あ、けど賞味期限もあるし1人で食べれきれないので。腐ったら捨てるだけだし食べて大丈夫なら一緒に食べましょう」
燐はケリーケトルから出ている湯気に気付くと、グローブをはめ自分の分と持って来たカップにお湯を注いだ。
「コーヒーにします?前に飲んだ、こういう匂いの」
「お願いします」
飲めるかなと心配する燐の胸の内。どうしても一緒に食事をするのなら気負わせない様に飲んだ方が良いのだろうと才蔵は頭を下げた。
「好きなのどうぞ。って、味分かんないか。あ、文字って一緒ですか?違いますか?」
テーブルの上の物をどうぞと言いながらも、初見だったら分からないよねと燐は気付きラベルを見ながら問い掛けた。
「同じ様な物も有れど、これは読めませぬ」
「じゃ違うんだ。話してる言葉は一緒ですか?あ、才蔵さんは難しい言葉使ってるから違うのか」
才蔵は燐が手に取ったのと同じ形の物を手に取った。柔らかな白色の間に見慣れない物が見える。才蔵の返事に燐は読めないのに、よく食堂行ったなと感心しながらサンドウィッチの袋を開けた。
「これは玉子、あ。食べながらで良いんでここにあるか無いかも教えてください」
玉子サンドを見せながら燐は食生活が違うときついなぁと思いつつ才蔵にサンドウィッチとおにぎりの中身を説明して行った。
「食べ物も多分近代社会じゃない感じだな」
マヨネーズは無い。それは何となく異世界だからと思っていたが。燐は才蔵から聞いた感じを纏めてみた結果を呟いた。
「全体的に江戸時代とか戦国時代とかだと近いのかなぁ」
もしそうなら。西洋より歴史の応用が出来るかもしれない。とちょっとワクワクした。玉子サンドを食べさせられていた才蔵は、燐の様子に主を重ねると行動を警戒しようと気を引き締める。
「その、えどじだいとは、燐殿の世の忍や侍が居たという時期なのでしょうか?」
才蔵はあまり悲壮感の無い燐を見ながら問い掛けた。燐は頷くと思い出した様にごそごそとポケットからスマホを出した。
「真田幸村、あ、様。えっと、その人は戦国時代っていう時期です。それでえっと、」
言い辛そうに眉を下げる燐の様子に、才蔵は胸の内を探る迄も無いと食べかけの食事を皿に置いた。
「我等は、燐殿の世に行った事を話さねばなりませぬ。ただ、その板より得た情報は話す必要は無いかと。話せば混乱を招くやもしれませぬし、燐殿の身が危うくなるは確実」
やはりこの情報は秘密にしておくんだね。と燐は情報共有の危険は異世界のてっぱんなのかと才蔵の言葉に頷く。
「何かあったら、これからも才蔵さん達に確認してからって事で良いですか?ご迷惑だと思うんですけど、慣れるまで…すみません」
自分の身の上を知ってる人が居るって頼もしい。燐は迷惑をかけていると思いつつもそこは頼らせて欲しいと才蔵に頭を下げた。元よりその積りだと才蔵は燐を見る。
「そのために同行願いたしと、一緒に来ていただくよう動いておりますので…先ずは食べましょう」
燐の言葉を真似て食べるよう促すと、頭を上げた燐は小さく頷いて食事を再開する。才蔵は食べ慣れない物を口に運びながら今朝の魔物の事を考えていた。
「本日は、少し早めに寝ていただき、その後夜に発とうと思います。この、くるまなるものは夜も動けますか?」
一夜過ごした事で、魔物にも耐性が出来たのか。知能の低い者達が昨晩より近くに居ると才蔵は燐に話す。
燐は頷くと眠気覚まし用のコーヒー淹れとこうと何時位の出発なのか尋ねた。
「日中だから安全って感じでも無いのか」
日が落ちた後、周囲の状況次第。そう言われた燐は食事を終え、いつでも行けるようにとテントの撤収をする事にした。




