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ぬばたまの夢 闇夜の忍~暫く全力のごっこ遊びかよって勘違いからはじまった異世界暮らしは、思ってたのと大分違う。(もふもふを除く)~  作者:


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81.疾走

此処に戻って直ぐ、佐助は可能な限りを影に含ませ燐を伴う事への先触れを出す為に二人と別れ駆けた。


本当は自分が燐の側に居たかったが、森では才蔵の方が燐を守るのに適している。


暫くして人の気配に高い木のてっぺんに登り景色を確認した佐助は、この場所が陸奥と知ると何にも出くわさない様にと祈りながら今までで一番の疾走をみせた。


「っと、」


変な事を思わなきゃ良かったと佐助は眉を下げ、仕方なく杉の木の枝に降り両手を軽く上げた。


「ちょいと変な気配がしたんで、見に来ただけなんだけど」


ヘラリと軽い口調で言えば微かに少し先の枝葉が揺れる。佐助は両手を肩の高さで上げたまま、争う姿勢は無いと揺れた枝を見た。


「山に烏が一斉に増えたら、アンタ等だっておかしいと思って動くだろ?」


勢力拡大中の織田を阻止すべく現在、我が主とここ等辺の御大名方は共闘中の筈と言葉を続けると再び微かに枝が動く。


「して何ぞ捕えた」


「さぁね。って、ほんとに事を構える気は無いっての。捕えてねぇから奥まで来ただけ。…もう戻るよ。行って良い?」


同盟国といえど油断は出来ないと問い掛ければ、再びヘラリと笑う忍は「行って良い?」と此方を見ながら薄く笑んだ。


戸隠。この忍によく似た忍を知っていると思えば、影は何も言わずその場を離れた。


小さく息を吐いた佐助は、再び急ぎ駆けると今後の事が少しややこしくなるだろうなと顔を顰めた。


一日駆け続け、佐助は自国へ入った。本来ならば色々と手順があるが今は最低限で何とかしようと簡単に着替えを済ますと主の元へと急ぐ。


「佐助か?!」


気配に気付いたのか、勢いよく襖が開け放たれ大きな声が自分の名を呼ぶ。佐助は相変わらずだと苦笑しながら姿を現した。


「そんなに乱暴に襖あけちまったら、歪んじまうでしょうに」


いつもの口調に、安堵の色を浮かべ小さく息を吐くとその場に腰を下ろしす主。佐助も合わせるように主の前に跪く。


「只今戻りました」


「うむ。良かった…佐助と才蔵が事切れ、谷底に落ちたと。そう聞いて居たのでな」


涙ぐんでいる自分の主の言葉に佐助は怪訝な顔を向けた。


「…谷底?」


戦仕舞い、裏切りにより窮地の真田に援軍はおらず。佐助と才蔵は兵を逃がすため森にて迎え撃つも先に佐助が討たれた。


その後術を放った才蔵が佐助を抱え退却するも、途中矢にて落とした(のち)、二人共に止めを刺され魔獣の谷に落とされた。


「三好兄弟が見た故、間違い無しと」


三好の眼。あれもアイツ等の術なんだっけと佐助は思いながら幸村の表情を見ていた。


「ふぅん。で?我が主も俺がくたばったって思ってたんだ?」


忍の為に涙ぐむなど他の者に見られたら、どう思われるか分かっている筈なのに。そう思うも佐助は泡が浮かぶ胸に小さく笑む。


「なっ、その様な事思ってはおらぬが、何も音沙汰なくば心配にもなろう」


焦ったような物言いに、佐助は小さく笑う。何時もの会話に自然と笑みがこぼれた。


「あっそ。まぁ忍なんざいつ死んだって仕方ねぇんだけどさ」


佐助の軽口に無事で良かったと主の気が漏れると佐助は相変わらずだと目許を和らげた。


「して、俺に何ぞ有らば申せ」


主の言葉に佐助はこの御仁は忍の心を読むのが上手くて嫌だと思いながら、頭を下げるべく片膝を立てた。


「此れより才蔵と共に女子を一人、我が主が領地にお連れしたく」


「うむ。で、その女子とは何処に居らるるのだ?」


「え?そんな簡単に許可出しちまって良いの?」


明るく笑う主の姿に佐助は呆れた顔を作って溜息を洩らした。この主の陰りの無い笑みに、柔らかい燐の笑みが重なる。


「構わぬ。佐助と才蔵、共に認めたのであらば俺に異存はない故な」


佐助は眩しい物を見る様に目を細めると、再び深々と頭を下げた。


「では今より。…で、一つ困った事があってさ」


真面目に頭を垂れていた佐助はパッと顔を上げると飴でもねだる童の様に見上げた。


いつもの態度に源次郎は苦笑すると何をすれば良いのだと佐助に問う。


「実はさ、俺等が着いた所ってのが陸奥なの。で、ちょいちょいっと一筆(したた)めて貰えねぇかなって」


佐助は自分達が何故か最奥の国に居たと伝えると、立ち上がって文机に向かい筆を取る主。佐助はざっとこれまでの事を話しながら筆が止まるのを待った。


「なれば浮世人とは伏せ、客人として丁重に扱わねばな」


主の言葉に佐助は目を丸くする。久し振りに見た素の様子に満足気な笑みを浮かべた主。佐助は嫌そうに眉を寄せた。


「や、そこまでして貰わなくても良いんだけどさ」


何かを待つような視線と柔らかい笑みに、佐助は眉を下げる。


「…良いの?」


浮世人は様々な利を国に与える、それこそ国主達が血眼に探す対象だ。それを隠して迎え入れても良いのかと、佐助は主を見る。


「佐助と才蔵が世話になったのだ。構わぬ」


佐助は苦笑しつつ文を受け取ると一礼し闇に姿を溶かした。

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