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8.天女

※文章の間隔が通常と違うため、読みにくいかもしれません。

つらつらと話す天女の耳慣れぬ言葉。されどて全く分からずも無く。少し離れた天女に礼を述べれば、お互い様等とのたまう。まるで忍を人と区別せぬ我が主の様だと思えば天女は白布等を纏め、布袋にしまった。


「で、何処に泊まってるんですか?ロッジですか?コテージ?てか荷物も持ってないみたいだけど」


腹の緩く巻かれた下帯。此れでは丹に力入らじと思えど、天女の前で巻き直す訳にも行かず。再び上衣を纏うていれば、天女はこちらを見詰めている。


「ろっ?…こてーじ?いえ、そ、…申し訳ない」


こちらを見ている姿に、今回は独り言では無く自分に話し掛けられているのだと分かると、言葉を思い出し反芻するよう口に出した。


その途中でなった腹に顔を顰める。


通常は飢えるような空腹であっても、晒をきつく巻くため腹の音等出ない。が、今回腹の部分を巻き直したのは自分ではなく、加減が出来なかったのか緩い。才蔵は忍が音を立てる等不甲斐なしと頭を下げた。


「忍に施しは無用に」


天女は暫く此方を見た後、深く息を吐き文机の如き物を出した。置いた銀色より術でも無く火打を使うでも無く炎を出す。その炎は揺らぐ事無く均一に燃え続けた。


次々と初見の物を取り出す様を見続けらば鼻に届く味噌の匂い。


「あ…水多かったかな」


ぽそりと呟く声と共に部屋に良い匂いが充満する。才蔵は腹が鳴る前にと拳をみぞおちの下に押し当てた。クツクツと小さく煮える音が響くテント内で、才蔵は物珍しい品々を静かに観察していた。


「はいどうぞ。熱いから気を付けて」


天女は、湯気の昇る器を差し出す。恐れ多き事と断らば、天女は顔を顰める。


「馳走になり申す」


山の中、温かい食事をいとも簡単に出す事が、どれほど大変な事かと辞退する。すると嫌がって受け取らないのかと困惑が伝わって来た。己には勿体ない品物と再度思うも、些末な物と拒否したと思われるのも心外と、才蔵は有難く器を受け取った。


「お代わりあるんで言って下さいね」


掌からじわりと全身に広がって行く熱。

口を寄せて箸で掬い少しずつ食べていた才蔵はその後も理解が難しい言葉を聞きつつ、言われるがまま食べ続けた。少しずつ内側からも熱が広がって行く。久し振りの食事で徐々に思考がはっきりして来た才蔵は、集中して言葉を捉え返答していった。


にもつなるは荷、ともだちなるは(おさ)の事か?


徐々に予測出来て来た言葉。話の最中、布の袋を肩から下げる様に胸の内を探った才蔵は、捜索に行くと分かると腰を浮かした。


何ぞ匙をと思わば、足手纏いとは不甲斐なし


スプーンを渡されこの場にいろとの雰囲気に、才蔵は食べかけの器を満たし二人面倒見るのは無理と胸の内に眉を下げその場に座る。確かに自力で立てもしない自分は厄介にしかならないと受け取った器を横に置き、出て行く後ろ姿に深々と頭を下げた。


此の様な馳走を忍如きに


味噌玉や煎り米等、兵糧として食べる事はあってもこんなに美味しい物では無い。才蔵はゆっくりと噛み締めながら常世ではない此処は天女の住まう地なのかと考えていた。暫くし安堵の色を浮かべた天女に、才蔵は再び自分の知る限りの礼を述べる。


「いやいやいやいや、土下座レベルのご飯じゃないし逆に居た堪れなくなるからやめてください」


礼を述べらば天女は焦り頭を上げるようのたまう。

忍と知らば疎まれるが常。長が居らぬとならば長居は無用なれど、生かすと施しを受けらば恩義を尽くすまで。呼ばれ名を名乗り頭を垂れれば再び天女は困惑の色を浮かべた。


「え、あのご丁寧にどうも。ええっと、燐です。ここには昨日から滞在して、ます」


燐。そう名乗った天女は顔を挙げろと何度ものたまう。忍とて礼儀の一つ覚えて置かばと悔いた。


「え?あ、うん。何言ってんのか分かんないけど大丈夫ですか?歩けます?送って行きますよ外まだ暗いし」


立ち上がろうとする才蔵だったが、思うように力が入らない。一先ず這ってでも外に出ようとすると、自分を手助けするかのように側に来て移動しやすいようにか、近くの物を退け道を作る燐。才蔵は有難いと礼を述べ、嫌そうな気を洩らす燐に頭を下げると外へ出た。


天女が見た限り居らぬとあらば、気が付き身を隠したか


微かに気配を感じた才蔵は暗い森を見回した。手負いの忍といえ上役。流石と才蔵は注意深く気配を探った。

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