72.田舎(山付近に)住む爺ちゃん婆ちゃんの特技
二人は管理棟に向かう。中に入ると佐助は管理人が居るであろう受付へと、才蔵は使用説明書を指定の場所に返すと静かに建物の中を見回した。
確かに佐助の言う様に、茸や山芋が台の上に乗っていてその前には此処の世の文字が書かれていた。才蔵は興味深げにそれらを見て回る。
この様な物を売り金子に変える手立ても有るのか
才蔵は値札と商品をじっと見ながら産直コーナーをゆっくりと回った。この程度の物ならば山に入れば簡単に見付けられる。
才蔵はそう思うと今後の事を考え伝手をと顔を上げた。受付では管理人と佐助が何かを話している。
≪長、少し良いか≫
特に術をかけている様子も無いと分かると才蔵はこの様な場所での物の売り方を聞く事にした。
≪何か欲しいもんでもあった?≫
管理人にこの辺の事を聞いて居た佐助は、話を聞きながら才蔵の問いに答える。
≪此処の様に山にて取りし物で金子を得るにはどの様な手数を踏めば良いのか≫
≪あー、資金源って事か。聞いとく≫
今日帰るのに、どこら辺が熊の危険地域なのかと聞いて来た客の問いに親切に答えていた管理人は、佐助に簡単な周辺地図をプリントアウトし寄越した。
「まぁ今は年々、野生動物と遭遇する事が増えて来てますから」
歩いて帰るという2人。管理人は周辺地図に目撃情報があった場所を書き込みながら話した。
「なら其処に売ってる茸なんか、採って売ったりってのは誰が?」
直売コーナーを指す客の質問に管理人は地元の人達だと答えた。佐助はもう少し詳しく聞こうと話を促す。
「まぁ小規模ですからね、ここは。スーパーや道の駅なんかだと、ちゃんと登録して販売するみたいですけど手数料採られたり規格があったりで、大変みたいで」
如何やら山のもんを自分達で金子に替えるのは難しいと分かると、静かに聞いて居た才蔵は小さく溜息を洩らした。
「因みに登録ってのは大変なんですか?あー、俺の所の年寄りも裏山に山菜取りに行くんで、小遣い稼げるなら教えようかなって」
管理人が言っていた言葉をそのまま使って、怪しまれない様に登録ってのを聞き出す事にした。
最初怪訝な顔だった管理人も自分の言った「年寄りの小遣い稼ぎ」「年寄りが裏山に入って山菜を採る」って言葉で納得したように小さく頷く。
「お年寄りにネットで色々登録するってのは難しいみたいですからね。確か直売所何かは直接行って用紙に記入すれば登録出来る所もあるんじゃないかな?」
よく聞けば、祖父母のお小遣い稼ぎを手伝おうとする若者。管理人は協力してあげたいと自分の知っている事を話した。
其れからも暫く、佐助と管理人は誰も来ないのを良い事にずっと話していた。その間才蔵は、少しでも足しになればと思うと燐の気配を探りつつ山へ向かう。
「返却に来ました。ありがとうございました」
カランとドアに着いた銅色が高い音を出すと、声と共に燐ちゃんが入って来た。そして俺を見る。管理人は立ち上がると燐ちゃんから才蔵が持ってたもんと同じもんを受け取って「こちらこそ宿泊ありがとうございました」って頭を下げてた。
「ちゃんと駅前まで送ってくから」
管理人は車でも念の為と言って燐に熊情報マップを作って渡してくれた。同じ物を持ってる佐助と管理棟を後にした燐は、佐助を見上げる。
「ん。途中で放り出されると思った訳じゃないんだけど、気になってさ」
佐助は丁寧に地図を畳むと持っていたバッグに入れた。燐はキョロキョロと周りを見回す。
「あー、ごめん。才蔵なら湯に行って、風に当たって来るって」
近付く才蔵の気配に適当に誤魔化した佐助は、そっかと特に気に留めず車の方へ歩く燐の隣に並ぶ。
「じゃ先ずコンビニで地図出して、それから駅前に行くね?」
燐の説明に佐助は頷く。才蔵が来るまでナビ設定しておこうと燐は運転席のドアを開けるとエンジンをかけた。
「乗る?反対側」
興味深そうに車を見る佐助。新車買って乗ってった時の弟みたいだと燐は苦笑した。
「良いの?」
燐の言葉に佐助は燐を真似て車を開けると助手席に乗り込んだ。カーナビの画面が起動すると、燐は最初はコンビニと「近くのコンビニ」と声を出す。
「へぇー燐ちゃんの声で動くんだ」
燐ちゃんの声に反応するように画面が動くと、この四角い箱は「此方が検索結果です」と話す。瞬時に燐ちゃんの望んだこんびにってのが出揃ったようで、燐ちゃんはその中から一つを選ぶ。
「あ、途中道の駅がある。…寄っても良いかな?」
「俺等は連れてって貰うんだから、気にしないでよ。俺も行ってみたいし、行こう?」
駅とコンビニの間にあった道の駅。立ち寄りたいという燐に佐助は眉を下げ答えるも、燐の胸の内を読むと自分も行きたいと付け足した。安心したような笑みで操作を再開する燐を佐助は見ていた。




