68.何此れ?!
シャボン玉を見ていた佐助は、急にフラフラと体を揺らし後ろに倒れるように体を傾けた。危ないと思わず佐助の腕を引くと、当たり前だが佐助が燐の方へ傾く。
「何してって、佐助?ちょ、無理!無理無理無理っ」
手を引いたのは自分だが、その後の対処を考えていなかった燐は倒れて来る佐助を受け止めるも重さでよろめく。
や、無理だからっ
少女漫画やドラマなら抱きとめて何かが発展する。実際は只々重い。主人公って力持ち?と考えるも、そういや倒れるのって女の方じゃない?と顔を顰めた。
「っくぅぅぅぅぅ、っは」
頑張ってみたが限界が近い。共倒れか、切り捨てか。プルプルする背筋。今度は腕も足も限界を告げ始めている。
「ん゛ーっさ、すけごめんっ」
選択肢は切り捨て。だって、共倒れの場合最悪頭を打つのは自分だ。確実に腰と尻も固いコンクリートに打ち付ける事になる。無理
燐はそれでも被害を最小減にしてあげようと、振り解かずに力一杯踏ん張りつつ佐助の体を地面に降ろそうとした。
「ヒッ」
切り捨てようとしたのがバレたのか。今までだらりと垂れ下がっていた手が、勢いよく上がると背に回された。思わず奇声が漏れる。
「なっ、佐助?!」
ギュッと力強く抱きしめられた燐は、切り捨てようとしてごめんと念じながら佐助の名前を呼んだ。
「えっと、燐、ちゃ…ん?」
顔を上げると、自分の腕の中に納まってる燐ちゃん。眩暈に顔を顰めながら腕の力を緩めた。
「大丈夫?急にぐらってなってそしたら倒れたんだけど、具合悪い?」
心配そうな瞳に目を細めた自分の顔が映る。花に似た匂い。死の縁でも闇の中でも、この匂いがすると柔らかな光が差す。
「っと、ごめん。なんか」
タイミング的に床に落とそうとしたのがバレたのかと思ったがそうではないらしい。
「あ、うん。大丈夫なら良いんだ」
急に眩暈って大丈夫なのかと若干不安になるが、本人は平気と言っているし、視線も定まっていると燐は安堵した。
「あのさ、」
「うん」
「ええっと、」
言い淀む佐助。何だろうと思いながらもその後の言葉が出て来ない。燐は物凄く気になっている事を先に済ませる事にした。
「うん、何か言いたい事があるのは分かったけど、まず離れようか」
今回赤面しなかった燐は、自分の腰に緩く巻かれている佐助の腕を自分から離そうと押す。
「あっ!ごめ…」
ぼふりと音が出たかのように一瞬で真っ赤になる佐助は、パッと後ろに跳び距離を取った。
上手く行かねぇ。何を言いたいのかも分からないのに離れがたくて。けど、抱き着いてたなんて知らなかった。通りで距離が近いと思った。
「ほんとごめっ何か急に目の前がってか、周りが真っ暗になってそんで、」
視線を泳がせながら状況説明を始めた佐助。燐はタオルバックハグ事件を思い出すと、赤面する気持ち分かるわー。と一瞬思うも、自分の容姿は普通だと佐助の行動に首を捻った。
そもそも風呂一緒入るとか言ってて、抱き着いてあんな真っ赤になるとか、何でだ?しかも相手私だし
燐は不思議に思い佐助をじぃーっと見てみた。だが見ただけでは分からなかった。
「え?っと何?」
何故かこちらを凝視している燐に佐助は瞬きを繰り返す。目を細めて暫く佐助を見ていた燐は、徐に佐助に抱き着いた。
「え?っなっ?!」
抱き着く。背に腕を回した恋人同士の、では無い。ガッシリ組んだベアハック。それから佐助の反応を見ようと顔を上げる。
「な、にしてんの?」
突然抱き着いて来た燐ちゃんは、何か意図があるのか細まった目で凝視して来る。何此れ。如何やったって懸想でって感じがしないんだけど、何此れ?!
「何って、実験」
観察した結果。頬が赤い、チラと髪の間から見える耳も赤い。声も行動からも何か動揺を感じる。
「じ、ちょっと、ねぇっ」
あったかい体温。柔らかい感触と花の匂い。此れって、何?このまま抱き返しても良いの?と思っていると、急に燐ちゃんは離れて籠を持って歩き出す。
「ねぇってば」
「何?」
何?じゃなくてさ。抱き着いて来たの、俺の錯覚?んな訳ないよね??妄想であんな感触する?燐ちゃんの行動が理解出来ずに困惑する。
「さっきさ、なんで…抱き着いて来たの?」
「え?なんか物凄く気になったから」
不思議そうに問い掛けて来る佐助に、燐は気になったから確かめただけと答えた。
押し倒したりするのに、抱き着かれて動揺するって何なんだろう?一貫性が無さ過ぎて分からん
「何が気になったのさ?」
気になってるのはこっち。そう思った佐助は横を歩きながら燐に問い掛けた。
「えー、なんか押し倒したりすんのに抱き着かれて真っ赤になるのって何なんだろうって」
燐はキャラがブレてて対処に困ると今も燐の言葉に目を見開いて頬を染めている佐助を見上げた。




