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ぬばたまの夢 闇夜の忍~暫く全力のごっこ遊びかよって勘違いからはじまった異世界暮らしは、思ってたのと大分違う。(もふもふを除く)~  作者:


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67.シャボン玉

楽しい宴はあっという間に終わる。夜も更けても此処の世は明るい。粗方食べ終わった食器を纏めていた燐ちゃんについて洗い場に行く。


「1人で大丈夫なのに」


「外だし灯があっても夜なんだから。一人じゃ危ないだろ?」


ここはキャンプ場だし危険は無い。そう思いながらもちょっと心強いと炊事場へ向かった。


「このあわと、白いあわって、同じもんなの?」


食器を洗っているとシャボン玉の様に泡がふわふわと飛んでいく。それを見ていると佐助がぽそりと呟いた。


「白い泡?あー、シャボン玉石鹸か。成分が違うけど同じ泡じゃないかな?」


「そっか」


物珍し気に泡を目で追う佐助に、水気を切った食器を籠に入れた燐はシャボン玉を作ってやろうと思い付いた。


「あのさ、見ててみ?」


食器用洗剤を掌に垂らし、水で泡立てる。ぷくぷくと出来上がる泡を佐助に見せた燐は、フーっと息を吹きかけた。


「あ、失敗。今の無し。で、もう1回見てて」


失敗って言いながら楽しそうな燐ちゃんは、手をあわ塗れにしながらもう一回と俺を見る。


「成功ー。どう?」


今度は親指と人差し指で円を作って息を吹きかけた燐は、漂う泡玉に満足そうに微笑んだ。


「綺麗だね」


透明なのに、にじの色。ふわふわ胸の内に漂ってるあわ玉。白みたいに密集してるんじゃなくて、ひとつひとつ浮いてるあわ玉


「小さい頃やらなかった?シャボン玉」


シャボン玉液じゃなくて確か台所用洗剤でお祖母ちゃんが作ってくれたと思い出す。


「んー、覚えてないな」


これはきっと幼子の遊びなんだろう。懐かしむ様に柔らかく目元を緩ませてあわ玉を飛ばす。


「そっか。ストローあったら作れるんだけどね。ま、無いからこれで我慢して」


透明なあわが燐ちゃんから生まれて漂う。楽しそうに笑う顔を見てると、胸の内にもふわり、ふわり、あわが舞う。


「…す」


突然闇に呑まれた。辺りを見回すも今回は何も聞こえない。また鎌之助かと佐助は溜息を洩らすと暗がりを何処に行くともなく歩いた。


「嗚呼良かったよぉ」


声が響くと佐助は歩みを止めた。


「お前さ、出てくんなら出て来るって先に言ってくんない?」


「んな事出来る訳ぁないやあね。けんどアタシだってさぁずうーっと朝に長の声が切れてから探させられてたんだぁよ?」


鎌之助は今朝、佐助達が見つかった事をうっかり話してしまい、結果見張られながら仕事をさせられていたとぼやく。


「朝?」


「そうさね。長と話したのは今朝だろぉ?」


おかしい。佐助は前回は十日、今回は数刻?と時間の歪みに顔を顰めた。


「で、何?」


「嫌だねぇアンタそれが一生懸命探してやったもんに掛ける言葉かい?」


暗がり非難めいた声が響くと佐助は深く息を吐いた。


「手掛かりはさぁ?長と才蔵と何ていうのかねぇ不可思議な箱さ」


「箱、詳しく」


箱と言われて思い浮かぶのは、自動で動く駕籠。だが俺と才蔵二人で乗っても動かし方も分からない。


「詳しくったって、アタシにゃ色は見えないんだ、箱は奇妙な形でねぇ長達は箱ん中に座ってんのさ」


「そこに、他に何か、誰か居ないか分かる?」


ここにある箱。思い当たるのは、老緑の燐ちゃんの駕籠。もしそうなら一緒に行けるのだろうか。連れて行っても、良いのだろうか?


「そうさねぇ…良く分かんないやね。兎に角アタシが見た事の無いもんだってこった」


「で、戻りたい時は如何すりゃいいのさ?」


「さあてねぇ…兎に角アタシが見えんのは変な箱って事だけだぁよ。けんどその箱と一緒に長達が帰って来るってのは見えてんのさ。嗚呼それと、誰か、長?嗚呼読みにくいったら…倒れて…戻って来」


「ちょ、おいっ」


突然、ぷつりと鎌之助の声が途切れた。思わず手を伸ばすも暗がりで何も見えない。見えないんだけど、不安は無い


「佐助」


呼ばれ名。心配そうな声で誰かが呼んでいる。早く。そんな声で、きっと同じ様に不安に歪んだ顔をしているんだろう。


誰が?


誰だっけ。誰か、兎に角早く目を開けて、何んとも無いと、大丈夫だと言わなけりゃと思いだけが急く。


柔らかい花の匂い。それから温かい、何の匂いだろう?あわ。ふわり、ふわりと漂うあわ。


「…す、  け」


遠くの声。暗闇が少し明るくなる。ほわりとあわが漂う。小さな。どうしても手に入れたい。何故?


誰にも獲られたくない。どうしても手に入れたいとあわに手を伸ばすもふわりと手をすり抜ける。ならばと両手を広げあわを体で捉える様に覆った。


「…?」


あれ?なんかあったけぇ。くらくらする頭を少し動かすと、柔らかいもんが顔に触れ、それから花の匂いが漂った。


「ごめ…えっと、?」


あわだと思ってたのは、燐ちゃんだったみたい。気付けば燐ちゃんの肩に頭を置いて緩く抱き着いていた。慌てて離れると、不安気な瞳。持ってけるなら一番持って行きたいと思った。

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