66.ライブカメラ
佐助を促し、ここら辺で良いかと電波を確認しながら移動した燐は佐助にスマホを見せるも、反応がいまいち。ならばと燐は籠とスマホを佐助に手渡した。
「見ててよ?や、私見るんじゃなくて、こっち。ほら、どう?映ってるよね?」
ぴょんぴょんとその場で跳ねる燐を訝し気に見る佐助。燐は、画面を見ろと佐助に行った後で今度は良く分かるようにと大きく手を振った。
「…どっから撮ってんの?」
燐の言葉にスマホを確認した佐助。そこには管理棟と駐車場が画面に映っていて、その手前側に手を振っている燐と隣に立つ自分が居た。
「えー?どこだろ?あ、あのロッジ側の棒とかじゃない?」
片手で手を振り続けている燐は、もう片方でそれらしい場所を指した。佐助は信じられないと随分遠い燐の言う棒を凝視する。
「何をしておられるのでしょうか?」
「あ。才蔵さん。ほら、カメラの話してたじゃないですか。で、今映ってますよ!」
こちらも訝し気な顔の才蔵。燐は丁度良かったと両手を大きく振りながら、答えた。燐の言葉に首を傾げる才蔵に、佐助は無言でスマホを見せる。
「…」
無言の才蔵。まぁそうなるわな
「多分あの棒から撮ってるってさ」
「あの様に遠き場から」
佐助の言葉に顔を上げた才蔵は、遠くの柱とスマホの画面を交互に見ると小さく呟いた。
「全体を広く映してるから。防犯カメラは顔とかはっきり映る様にもっと近いですよ、ほら管理棟の入り口とか」
才蔵の呟きに、カメラって改めて発見するとすげーってなるよねと微笑んだ。他にあるかなと見回し管理棟の入り口を指した。
「筒、じゃないんだ」
燐ちゃんが指してんのは筒じゃなくて、毬みたいな丸が半分埋め込んであるみたいな形。
「あれだと、どこの角度を撮ってるか分かっちゃうからかな?これだと分かりにくいし、撮られてる感じもあんま無いよね」
良く分かんないけど、店内の防犯カメラっていつの間にかあれだよねと思いながら燐は佐助を見上げた。
「ほんと、燐ちゃんの言う様に何処に居ても見られてるんだね」
これじゃ才蔵じゃなくても映っちまう訳だと思えばため息が漏れる。
「そうだよ。何しようとしてんのか分かんないけど、悪い事したら見付かるんだからね?」
「だから幼子じゃないってば」
燐の楽しそうな笑みと、やんわりと咎めるような言い方に佐助は顔を顰めた。
「ライブカメラどうでしたか?」
声を掛けられた燐はびっくりしてちょっと跳ねた。才蔵とも佐助とも違う声に、鎌之助?!とちょっと期待するも、振り返ると管理人さんだった。
「あ、こんばんは」
軽くお辞儀をすると、管理人さんはスマホを持って近付いて来る。何だろうと首を傾げると楽しそうに笑みを浮かべた。
「ライブカメラに跳ねてらしたんで、コメントついてましたよ」
「え?!」
あのカメラ見てる人居んの?!ってか、当たり前だけど他の人見れんの忘れてたっ!
管理人の言葉に燐は思わず声が出た。考えてみれば自分のスマホで見れる物なのだから、他者も同様。
「へぇ。なんてついてるんです?」
蒼褪める燐を見た佐助は楽しそうに管理人に問い掛けた。管理人はキャンプ場のサイトを見せて来る。
「ええっと、全力で手を振っているとかですかね。これを見て安全だと思ってくれた方もいらっしゃるようで、ありがとうございます」
確かに見せられた画面には「全力w」「楽しそう」等。「軽装だし熊大丈夫?」「熊地域」等のコメントの後には管理人がしっかりと「熊対策は万全です!」「こちら連泊のお客様です」とコメント返しまでしてあった。
「あ、お役に立てたようで良かったです」
恥ずかしいと思いながらも役に立ったなら良いかと燐は軽く頭を下げた。管理人は少しですがと袋を差し出す。
「今日はもう売店閉めるので。お客様達だけですし特別」
売店で売っていた物だと思った燐は、才蔵と佐助を見上げた。同じく戸惑った顔の2人。
「火が無くても食べれますから。さっきの本当に良い宣伝になったので出演料代わりに」
管理人はそう言って洗った食器の籠に包みを入れると管理棟へ戻って行った。
「増えちゃったねご飯。折角だから一緒に食べませんか?炭もまだあるし」
恥をかいたが報酬で何か美味しそうな物を貰えたと燐は思いながら才蔵と佐助を交互に見た。
「ん。じゃまた宜しくお願いします」
佐助は燐の方を向き柔らかく笑うと2人を促し燐のテントの方へと戻った。炭を広げ、皿に移していた食べ物を再び網に乗せる。
「あったかい方が旨いだろ?」
手際良く進む食事の準備。何かしようかと思うも、皮を剥いたり器を並べたりは才蔵が完璧にこなしている。2人とも忍ごっこが無かったら優良物件なのに、と燐は弟を思う気持ちで見ていた。




