62.気になって買ってみて良かった!
火が消えてるかなと思ったら、才蔵さんが炭を足しててくれ無事ダラダラ炭火焼きが再開した。
「朝、って言うかさっきご飯炊いてたんですけど、食べませんか?」
燐は保温袋に入れっぱなしだった飯盒を取り出しテーブルに置きながら2人に問い掛けた。
「食べるかなって多めに炊いちゃったので遠慮せず。で、もし皆食べれるならとろろご飯にしたいなって」
さっき貰った山芋。焼いて食べても美味しいけど、焼き物は他にも茸がまだ沢山あるしと提案すると2人は顔を見合わせる。
あれ?さっき食べたのでお腹いっぱいなのかな?朝ごはん食べてないって言ってたけど
酒を飲むときはそんなに食べない。そう決めていた燐でも小腹は空いた。自分より背丈があるのにお腹空かないの?と2人を見る。
「あのさ、何度も言うけどあ、燐ちゃんの分が無くなっちまうけどいーの?」
途中で言い換えた佐助に気付いた燐は、顔を顰めた。
「わざわざ言い換えなくてもアンタのまんまでも良いのに」
口を尖らす可愛い燐ちゃん。仄かに頬が赤いのは呼ばれ慣れなくて照れてるから。かぁわいいねぇ
「燐ちゃん、って呼んでもいーって事だろ?」
気が散ってうっかり呼んじまうなら、もういっそ燐ちゃんって呼んじまったほうが良いよね。そうすりゃ姫さん、姫様なんて意識して考えなくても良いしさ
「ん。二言は無い好きに呼べ」
ちょいちょい呼んでたよね?と思いつつ、酒がある程度抜けたと自覚していた燐は、今度は乗らないぞと決意を込めて頷く。
よし、動悸なし。正常に戻った。良かった!
「あのさ、3人いれば大量にすりおろしても余る心配なくたっぷり使えるからっていう私の欲求なので遠慮は不要でお願いします」
やっぱり飲み過ぎだったんだと思うと燐はとろろが食べたい思いを力説した。
「じゃ、俺がやるよ。…けどすり鉢とかあるの?」
取り敢えず、返事は保留にしても力仕事だろうと佐助は燐に問い掛けた。
「すり鉢は無いけど、ハンディーチョッパーがあって、使ってみたいんだ!」
才蔵は燐の言葉に、先日行った店で燐が喜び勇んで購入していた物だと思い出すと興味が湧き、立ち上がった。
「先日購入した物ですか」
「そうです、気になりますよね」
そう言えば説明した時食いついてたな、と燐は才蔵に頷き、いそいそと車に取りに行った。
「飯、食えんならご相伴に与かったら?」
燐の上半身が車中に消えると佐助は才蔵に問い掛けた。
「だが、あの様な芋如きで白米を頂戴する等」
白米等貴重な物を、ただ山に生えていた芋でと才蔵は眉を下げる。
「まぁ…そうだけど。なんか物凄い楽しそうだぜ?」
才蔵の言葉に同意するよう頷くも、佐助は楽し気に箱を持ってやって来る燐の様子に苦笑しながら才蔵を見た。
「皮向いて、細かく切った後、えーっと…あ!もうセットしてあるから蓋閉めて紐引っ張れば良いんですって」
箱の説明書きを呼んだ燐は、1回洗って来ようと炊事場を見た。
「洗って来ますね。で、皆食べるで良いですよね?」
ついでに軽くお椀も洗って来ようとちょっと強引に聞いてみた。2人は顔を見合わせてから頷く。
「じゃ、細かく切っておくよ。この位で良いんだろ?」
佐助は燐が用意したまな板とナイフを見ると、箱の裏にあった写真を指した。
「うん、じゃお願います」
楽し気な燐の背を見送った二人は随分と贅沢な飯を毎回食ってるなと思いながら燐を待った。
「そういや…あれ以来、鎌之助から繋ぎは?」
「己には有らず。長は」
芋をさいの目に切りながら佐助が問えば、炭火の調節をしていた才蔵は首を振る。
「俺にも無いんだよなぁ 。ま、アイツがこっちを見れるって分かったら此処に留まる必要もねーし」
明確な手掛かりぞ有り同胞が此方を捉えた。なれば長居は不要
「なれば次は」
パチパチと小さく炭が爆ぜる。考えている事は同じかと才蔵は口を開いた。
「そ。富士の山。あそこに行きゃ、そっから我が主の居城周辺が割り出せる」
高い山だ。才蔵の術で高く跳べば容易に見えるだろう。ならそこを目指せば良い
「いつ戻るかも分かんねぇんだ、早い方が良いだろ」
少しでも有利な情報を手に入れたいと思いは同じ。二人は戦疲れでも笑みを湛え皆を奮わす主を想う。
「今宵」
「...だな。そんじゃ最後の贅沢って事で、食い溜めさせていただきましょうかね」
贅沢な飯。安心して暮らせる日常。柔かくて可愛い燐ちゃん。名残惜しいってのはこういう事かと思うけど、此処は俺が居て良い場所じゃない
「燐殿には」
「…如何しようかね?ま、出立はもう少し、こていかめた?ってのを探ってからで良いんじゃない?」
燐の記憶を如何するのかと問い掛けた才蔵に佐助は未だ解明出来ていないカメラの存在を把握しようと提案した。




