60.酔ってると色々低下する
術が使えた喜びより不安が勝る。何処か打ったか?と不安になるも影から出て来て抱き受けたのだから、自分以外に接触はしていない筈だと佐助は燐を見た。
「あのさ、本当に平気?」
もしや術が不完全だったのではと佐助は小さく丸まる背に問い掛けた。
「や、本当に、平気なんです。大変申し訳ない」
燐ちゃんの小さな声は少し震えているように聞こえた。胸の内を探れば容易く認識出来る程に強い羞恥。見れば耳が真っ赤に染まっている。
「ええっと、なんとも無いのね?」
何故か分からず、問い掛けると無言で大きく頷いてるように頭が揺れる。何だろ。なんか
揺れた拍子にか、ふわりと漂う花の匂いに誘われる様に佐助は背を丸め距離を詰めた。
≪なっ?!何もしてねーってば!≫
風を切る音に近付けた頭を逸らす。あいつ本気で狙いやがった、とハラハラ落ちる前髪を見て原因の元を睨む。
≪慎め、と申し渡した筈≫
冷やかに佐助を見た才蔵は、小さな風を止ませると燐のタオルを手元に溜息を洩らした。
「立てる?」
これ以上仕掛けられちゃたまんねぇと燐ちゃんに声を掛ける。
「立てます。問題ないです、全く。本当に大変申し訳ない」
佐助の問いに答えながら、大分収まった顔の熱を確かめる様に顔を上げ、頬に手を当てた。
「や、本当に大丈夫なのですよ。申し訳ない」
自力で立ち上がった燐は、深々と佐助に頭を下げた。佐助は燐の態度にカリカリと頬を掻く。
「うん、燐ちゃんが平気なら良いんだけどさ」
何とも無くて良かったと安堵し告げると、息をのみ再び真っ赤になる燐。佐助は再び困惑し顔を覗き込んだ。
「っ、」
やっぱだめ。好みじゃなくても整った顔立ちに、ふわっとした笑顔で燐ちゃんなんて呼ばれたら無理だった!
「な、大丈夫?」
急に真っ赤になった顔を顰めている燐。急に立ち上がって具合が悪くなったのかと佐助は声を掛けた。
「ええ。あの、ちょっと飲み過ぎで何か色々ちょっと、あれなだけで大丈夫なの!タオルありがとっ」
ちょっと落ち着こう。ここに居たら駄目だ
燐は佐助にもう一度頭を下げると佐助の持っていたタオルを奪う様に取り更に頭を下げてくるりと背を向けた。
「あ、才蔵さん」
そして、少し離れた場所でタオルを腕に下げた才蔵を発見した。
「才蔵さんも、タオル拾ってくれて、ありがとうございます!」
駆け寄り礼を述べタオルを受け取ろうと手を差し出すと、才蔵も何故か心配そうに此方を見ながらタオルを手渡して来る。
「大事はありませんか?」
もーやだっイケメンどもめっ、と燐は再び熱の集まった顔を顰めた。
「大事はありません。もう、本当に大丈夫ですっタオルありがとうございましたっ」
才蔵からもタオルをひったくる様に受け取り頭を下げた燐は、足早にテントに戻ると大きく息を吐いた。
「くそぅ、駄目だ。酔っ払いにイケメンの衝撃は強すぎる」
ちょっと落ち着こうと、燐は深呼吸を繰り返しながらタオルを畳んだ。
「あ、ご飯炊いたままだった」
そう言えばと思い出した燐は、調理道具一式と調味料バッグを持って外へ出る。
「御加減は」
テントから出ると心配顔の才蔵から言葉を掛けられ、燐は暫く才蔵を見てみるが今度は動悸がしなかった。
「おかげん?あ、具合?大丈夫です。ちょっと楽しくて、飲み過ぎました」
多分飲んで動いたからだな。気を付けよう。水飲もう
燐は心配してくれる才蔵に頭を下げ謝ると首を傾げた。
「佐助ならば其処に」
言われて才蔵が指した方を見ると、少し離れて気まずそうな佐助がいた。
「ええっと、」
え?何だろう?何かしたかな?あ、したわ。これ先に謝った方が良いのかな?
そう言えば助けて、タオルも拾って貰ったのに礼もおざなりに走り去ったんだと思い出すと燐は顔を顰める。
「これが何か手酷い事をいたしましたか?」
「なっ」
深い溜息の様な音の後で、才蔵の声が続いた。続いて抗議するような短い佐助の声。どういう事かと首を傾げると才蔵が再び溜息を洩らす。
「何もしてねぇっての!ほんとに転びそうになったの助けただけだって、だ、よね...?」
焦った様に続ける佐助の言葉と冷たい目で佐助を見ている才蔵。2人を交互に見た燐は、さっきの事かと眉を下げた。
「何もされてないです。助けて貰って。何かえっと自分の行動のおかしさに恥ずかしくなっちゃって、後なんか燐ちゃん呼びが慣れなくて、それでええっと、なんかごめんなさい」
「...頭をお上げください。何も無ければ良いのです」
何か申し訳ない。そう思って謝った燐に戸惑う才蔵は、常日頃素行が悪いからだと佐助の視線を無視し、燐に頭を上げる様促した。
「佐助も、何かごめんね?」
自分の行動のとばっちりで才蔵さんに何か言われたんだろうと燐は佐助の方を向き、謝った。
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