6.寡黙な黒
もう無言で良いです。勝手にしゃべりますから
流石に下半身出してはなんとなく言い辛くて他に傷が無いか聞くも無言。
「はいじゃこれで終わりね」
見た感じ血が滲んでいたのは肩と腹位だし、よろけつつも歩いていたと思い出すと終わりと距離を取った。
「その、忝い」
やれる事は最低限やった筈。思い終わりと距離を取ると、掠れた声で礼を述べる黒。
うん。そこは、ありがとうございますか、申し訳ありません。位が大人として正解なんだけど忍だから仕方ないって事なのね
「あー、いえいえ、困った時はお互い様ですから」
それでもぎこちなく頭を下げる様子に、感謝の気持ちは伝わったと思い直して気になった事を聞く事にした。
「で、何処に泊まってるんですか?ロッジですか?コテージ?てか荷物も持ってないみたいだけど」
自分以外のテントは張られていないし、支払いの際、今日は風呂も貸し切りだから女湯の虫酷かったら男湯入ったっていーよなんて冗談を言っていた。
21時に閉まった入口の門が開くまで入場不可だったよね?
ならば斜面を登った先にある温泉付きの建物になる。どうせ答えないんだろうと思いつつも問い掛けると破れた服に袖を通していた黒はきょとりと首を傾げた。
「ろっ?…こてーじ?いえ、そ、…も、うしわけありません」
歯切れ悪く言う黒。なんか微妙な発音の黒。なんなんだろう。黒は腹の音に言葉を切り頭を下げる。
お腹が空いて動けなかったとかじゃないよね?まさかね
仄かに耳が赤い頭を下げた姿勢のままの黒。だよね、中高生でも腹鳴ったら恥ずかしいもん、大人なら尚更だよね。
「ええっと、残り物で良ければなんか食べます?」
「忍に施しは無用に」
腹の音を気にする黒に問い掛けると黒は顔を上げ無用と首を振る。
いらないって事なの?そんな腹鳴ってんのに?
取り敢えず飯盒に残っていた白ご飯に水を入れ、それにお高めのフリーズドライの味噌汁を追加し火にかける。ごそごそしている様子を黒は不思議そうに見ていた。
「はいどうぞ。熱いから気を付けて」
「いえ」
流石に飯盒ごと渡すのもと思って器によそって差し出すと黒は困ったようにこちらを見る。
え、嫌なの?あーうん、分かるよ。だってこれ猫まんまだからね?ご飯に味噌汁かけたのと変わんないやつが初対面の人に出すご飯じゃないのは分かるけど、ここ山だし
差し出したお椀を無言で見ている黒。燐はどうしたものかと眉を下げた。
一応そこ考慮してお高めの味噌汁にしたんだよ?ちょっと温め過ぎておじやみたいになっちゃってるけど、食料も限られてるし仕方なくない?
「見て分かるように全く大したもんじゃないけど、腹の足しにはなるから。無理強いはしないけど食べれそうならどうぞ」
腹を鳴らしながらも首を横に振る黒。明らかに余り物と分かる食事が嫌なのかと顔を見ると黒は困ったように暫くじっと器を見た後、両手で受け取った。
そんな恭しく受け取る程の物でもないのに。なんか雑に作っちゃって申し訳ない
「馳走になり申す」
おずおずと器を受け取り頭を下げると、その場に正座で食べ始めた黒。
「はいはいどうぞ。すぐ出せるの、そんなもんしかなくてごめんね」
この子多分良い子だ。本気で忍ごっこしてるけど、多分良い子だ。そんな事を思いつつ黒の食べる姿を暫く見ていた燐は、もう片方の赤い方を思い出した。
「あのさ、貴方の友達ね?あの子も怪我してます?もしそうならこっちに連れて来るより自分達の建物に担いでいった方が良いよね?」
自分より若いし、流石に本気の忍ごっことはいえスマホは持っているだろうと聞くと、困ったように首を振っていた事を思い出した。
「そこまで手伝うよ。ってかさ、さっきも聞きそびれたけど荷物は?」
荷物はと問い掛けると黒は再び無言で小さく首を振った。また無言かよと顔を顰めつつ、そういえば何であんな場所に2人でいたんだろうと考える。
「もしかしてさ、荷物失くしました?鍵持ってますよね?」
忍ごっこの途中荷物を落として探しているうちに、遊歩道から外れて斜面を転がり落ちたら全身擦り傷だらけの謎も納得が行く。
「その…荷はなくし、鍵、は、持っておりませぬ」
ゆっくりと食べていた黒は顔を上げると困ったようにぽそぽそと話す。
そんな草編んだのなんて履いてたら滑るわな
鍵も落として夜まで探し回って疲れて休んでたのかと初対面の風景を思い出し、一先ず赤もここに入れるかと立ち上がった。