59.(大抵酔ってる奴がやる)酔って無いよポーズ
朝ご飯をと誘ったが、気が付けばとっくに昼を過ぎていた。スマホで時間を確認した燐は、このままダラダラするべく立ち上がる。
「大丈夫?」
心配そうな佐助の声に首を傾げる。
「いや、だってさ。ふらふらしてるけど」
突然ふらふらと立ち上がった燐ちゃんは、可愛く小首を傾げて不思議そうにこっちを見てる。
「あー、飲んで走って…うん、大丈夫まだ。片足立ち出来るし」
そして何故か両手を水平に上げて、次いで片足を上げる格好を披露してくれた。何してんだろ?
「えーっと、」
「え?やらない?酔ってるかチェック。やらないのか。まぁいいや、タオルをね?取ろうかって」
若者はやらないのか。そう思いながら困惑顔の佐助に答えた。すると何故か佐助が立ち上がる。
「たおる、って。そんな酔っぱらって風呂なんて入れないだろ?」
呆れた顔でこちらを見る佐助に流石に入らないよと苦笑すると、タオル回収に向かった。
「ん?トイレ?」
何故かついて来る佐助。振り向いて問い掛けると、佐助は眉を下げた顔でこちらを見ている。
「そんなふら付いてて、一人じゃ危ないだろ?」
コイツの誑し感、じゃなかった優しさは天然なのか計算か。じーっと見上げてみた。計算だったらこの先どうするんだろう?微笑むとか
「な、に?」
突然立ち止まって、顔を見上げて来る燐ちゃんはその目を逸らさず凝視し続ける。視線だけで湯にでも入った様にじわじわ熱くなってくる
「え、っと。何?」
きっと誑しなチャラ男なら、ヘラヘラするだろうなと予想を裏切り、佐助は困惑した顔を向けている。これはどっち?と燐は顔を顰めた。
「保留」
燐は困惑する佐助をその場に置いたまま、本来の目的地に向かった。と言ってもそんな遠く無いのですぐ着く。
「俺がやるよ?」
ほりゅー。そう呟いてさっさと歩いて、今は布を挟んでるもんが取れないみたいで苦戦してる。声を掛けると何故かまた凝視して来た。何なの?
「大丈夫。ちょっとね?飲み過ぎた感はあるけれども。だいじょぶなのよ」
何が大丈夫なのかと戸惑う佐助に、大きく頷く燐。佐助は眉を下げつつ見守る事にした。
やっぱさっき走んなきゃ良かったな。帰ったらいっぱい水飲もう
考え事をしながらタオルを回収していた燐は、木の根に足を取られバランスを崩した。
「うっわ!」
持ち直そうと足を出したはずなのに、何故か空と宙を舞うタオルが見える。
あれ?これって頭打っちゃう感じじゃない?
転ぶと分かっているのに、冷静にそんな事が思い浮かぶ。が、回避する前に確実に地面にぶつかっているだろうと諦めた様に衝撃を覚悟した。
「あれ…痛くない」
確実に地面に着いているだろうに痛みが全く無いと燐は呟いた。
「あ、酔ってるからか。酒の力って凄いな」
以前祭りで酔ったおっさんが頭から血を流しながら「へーきへーき酒飲んどきゃ」と言っていた事を思い出し呟いた。
「んな訳ないだろ?それ本気で言ってんの?」
「ヒッ?!」
地面から聞こえる呆れた声に燐は体をびくつかせた。すると何故か体が自動で起き上がる。
「な? え?佐助??何で?え?」
何故?と振り向き声の主を見上げると、佐助は小さく溜息を洩らした。
「何でって、あのまま倒れたかったの?」
呆れた声の佐助。状況を確認しようと周りを見ると、下には地面。後ろに佐助。燐は首を傾げた。
「あ、いや違くて。何で後ろに居るんだろうなって」
不思議そうに肩越しに見上げて来る燐の様子に、覚えていないのか?と佐助は眉を下げた。
「多分、これ取ろうと思ったんだろうけど。よろけて何でか盛大にこれ投げて、仰向けに倒れようとしただろ?」
佐助の説明を思い出しながら、佐助の手に持ったタオルを確認し、確かに結果的にはそうだと大きく頷いた。
「で、取り敢えず俺が下敷きになったわけ。痛い所、ある?」
抱き留めようとも思ったが、距離がある。万が一間に合わないかもと強く念じ、燐の影から身を出しついでに上から落ちて来たタオルも取った佐助は、呆けた顔の燐に問い掛けた。
「ごめっ」
瞬時に真っ赤になった燐はごめんと謝ると恥ずかしさに体を丸めた。
うわーっやだ!あの顔面で、こういう不意討ちみたいな優しさ出してくんのやめて欲しいっ!
立てた両膝に額を付け、早く熱が治まれと念じながら顔を顰めた。
「な、大丈夫?どっか痛いの?」
急に蹲るよう体を丸めた燐の行動に焦った佐助は、燐の様子を見ようと体を傾ける。
「大丈夫!ほんと、なんとも無いのでこっち見ないでっ」
恩人にこの態度はどうかと思ったが、今はそれどころではないと燐は俯いたまま答えた。
ちょ、駄目だ考えたら!けどっ、いや違う。えーっと、そうだ救急のあれだ!背負い投げ!
燐は今、座っている。そして背には佐助が居る。チラと横を見れば佐助の足。この状況を燐は必死に考えていた。




