57.はしゃぐと翌日筋肉痛
俺等の知ってる忍の隠里は険しい山奥、深い森奥。間違っても迷い人が入っちゃ来れない様な場所にある
「へぇ。子供の遊ぶような場所なんだ。真似事って事?」
今居るのは争いも無けりゃ、山の奥でも便利な箱で移動出来るなら楽に行けそう
「そうそう。くるって回る壁とかあったり、あ!本気のアスレチックもあったよ」
「本気って?」
「なんか急斜面にロープ1本とか、踏み外したら確実に濡れる飛び石の沼とか絶対に子供向けじゃないっぽい奴」
多分若者向けだったんだろう。吊り橋は15歳以下不可だったと思い出した燐は、確か最後に出口付近で忍証明書貰ったんだよね?まだ家にあるかな?と懐かしむ。
「色々あるんだね」
「あ、で場所だよね?見に行こう。ホイル焼きは…まだ放置してて大丈夫そう」
佐助の声で思い出から現実に戻った燐は、屈んでホイル焼きを少し開け中を確認し、網の隅に置き直し2人を促した。
≪才蔵≫
呆けている才蔵に呆れつつ軽い殺気を向ける。立ち上がった才蔵は険しい顔のまま歩き出す。
≪その顔。警戒されるから元に戻しとけって≫
≪すまぬ≫
管理棟の近くまで来ると、ここでも大丈夫そうと燐は立ち止まり『忍の里』と検索した。
「はい。私の行った所じゃないけど、ここも忍の里だって」
振り向いて声を掛けると、2人は遠慮がちに近寄って来てスマホ画面を見る。
「読みにくいから自動音声にするね」
他に人も居ないし、少し音を出しても良いだろうと音量を操作する。
≪音のみならず声迄も≫
音楽と施設を説明する声に才蔵は表情を曇らせるがそのまま見ていた。
「ごめん、私の機種古くて。人工音声ぎこちないんだよね」
燐ちゃんが何か話してたけど、耳に入って無かった。流れる音に合わせ声は忍の里の内情を話す。それに合わせるかのように、目で見たまま閉じ込められたような絵が変わる。
≪長≫
≪ああ、あの山は嫌って程見たわ≫
絵の中の、山頂に雪のかかったあの山。我が主がお小さい頃過ごした場所にあった山で、今も行き来のある場所だ。
「終わったけど、他のも探してみますか?」
音声が終わった後もじっと画面を見続ける2人。スマホ久々でもっと見たいのかな?と燐は2人に問い掛けた。
「どうが、は見られますか?」
突然口を開いた才蔵。他の手掛かりを探すのか?と佐助は何か考えがあるのだろうと様子を見る。
「動画?何の動画ですか?忍の?」
「いえ、熊、を」
動画と聞いて来た才蔵さんを見上げて問うと、熊と言って来た。
「私も熊って実際見た事無いな」
目撃情報あったりとかで気になったのかな?と動画を検索する。
「…これが良いかな?」
鹿用に仕掛けたカメラに偶然熊が映ったと書いてある。熊牧場よりは良いかと再生した。
「あれ?熊出て来ないな」
姫様が呟く。四角い板は、さっきと同じく、その中に景色を吸い込んだみたいに鮮明に姿形を映していた。
「ヒッ!び、っくりさせてごめん」
固定カメラの映像らしく、暫く景色が映るだけかと油断した。突然の熊のアップにビクリと跳ねた燐は2人に謝る。
「ん、へーき?」
「あ、うん。ありがと」
咎める事もからかう事もなく心配されると、ちょっと困ると燐は顔を顰めた。
「随分と鮮明に見えるんだね」
小さな板の中で本物の様に熊が動く。こんなのがあったら、本当に忍なんていらねぇんだろうなと溜息が漏れる。
「え?あ、熊が?そうだね」
突然カメラ前に出て来た熊は、暫くカメラの側を歩いたりしていた。暫くするとカメラに威嚇し走り去る。
「驚いてたけど、へーき?」
如何やらこの姫様は、急な物事に小さく跳ねるみたい。今回の熊の威嚇にも体を強張らせてた。
「あ、うん。何回もごめんね」
急に熊の顔面アップとか怖いんだけど!
佐助に声を掛けられる。自分じゃ止められないびくつきを謝っておいた。
「ありがとうございました」
箱の中が動かなくなった事を確認し礼を述べる。
「いえいえ。って、凄いの撮れてたよね、熊やっぱ怖いな」
頭を下げる才蔵さんに首を振り、早めにごみ捨てに行って車中泊と決めた。
≪熊に対峙し微動だにせぬ等可能か?≫
≪仕留めずに?無理だろ≫
正面から捉えたのであろう熊が鮮明に映っていた画像を思い出した才蔵は、熊を目前にしても怯まぬ事に顔を顰め佐助に問う。
「これってさ、如何やってとれてたのか分かる?」
この娘は何がこの熊を正面から捉えていたかが分かっているんだろう、と佐助は口を開いた。
「固定カメラじゃないかな?」
てか、そうじゃないと熊の急接近とか無理過ぎる。超至近距離で口開いてたし!
「こていかめら?」
首を傾げる佐助。固定カメラ知らないの?と燐は思うも、説明しようとスマホを持ち直し、しばらく考え才蔵と佐助から距離を取った。




