56.勝手な採取は犯罪です
佐助は思い出した様に風呂敷から茸を取り出し燐に見せた。
「あ、これ食材。好き嫌いない?きのことか」
「とろろ芋だ!あ、椎茸好きー。これなんだろ?」
きのこが沢山。知ってるの椎茸位だけど、他のは何だろうと興味津々で覗き込む。
「管理棟の直売?気を使わせてしまってすみません。ありがとうございます」
新聞紙に包まれているので、多分買って来てくれたのだろうと思うと、気軽に誘っちゃって悪かったなと謝った。
「買って来た訳ではありませぬ」
わざわざ買わなくたって山に行きゃある物なんだけど、此処の御仁方は金を払う
「そ。だから気にしないでよ」
ま、包んである紙はそれらしく見える様に、ちょいと拝借したんだけどさ
「ねね、バター醤油しても良い?」
燐は確か置き型の方にバターがあった筈。と、立ち上がる。嬉しそうな様子に頷いた才蔵と佐助。
「調理はお任せしても良い?」
何か良く分かんないけど多分旨いんだろうとお願いすると、大きく頷いててんとへ。今日の姫様はなんか可愛い
「あの様な物で喜ばるるとは」
佐助に促され取って来た茸、芋、山菜。燐がテントに入ると才蔵はぽそりと呟いた。
「金子出して買うもんらしいぜ?町で売ってたのは確か、松の根元に生えてる茸と、芋は結構な値が付いてた」
山に入ってた男達を追って酒処へ行く途中に見た、多分店の様なもんを思い出しながら言えば才蔵は呆れたような顔をする。
「…その様な物なのか」
「その様な物なんじゃねぇの?ま、喜んで貰えたし」
燐が姿を見せると二人は会話を止めた。いそいそとやって来た燐は網の上に茸を乗せて行く。
「んふふーおっきいねー。おいしそー」
酔いが回ってんのか大分崩れた感じで話す燐ちゃんは可愛い。そんで聞き方によっちゃ、うん
≪慎め≫
≪なんもしてないだろ?!≫
自分は上役に恵まれない。ちょいちょい様子の可笑しい理由はやはり燐か?と才蔵は深く静かに息を吐いた。
「少し宜しいでしょうか?」
才蔵の問い掛けに、笠の上で溶けたバターに醤油を垂らしていた燐は顔を上げた。
「何でしょうか?」
やっぱ醤油かけ過ぎてた?と才蔵の視線に燐は身構える。
「以前の忍の事なのですが、越後や尾張等、場所が随分と詳しかったのは何故か伺えますか?」
此処の言葉を学んでいる才蔵は、出来るだけ違和感の無いような言葉を選んで問い掛けた。
「場所?あー、子供の頃興味があって調べてて。で、何となく覚えてました」
醤油じゃなかったと胸を撫で下ろし、特に警戒する事無く答えた燐に、二人は驚き暫く言葉を失った。
「はい、最初は椎茸。お皿に置きますね?」
残った小さめの茸は、パウチの白身魚と一緒にホイル焼きにしようと燐はクーラーボックスを開ける。
「いつも同じ様なご飯だったから、なんか楽しいなー」
通常残っても後で食べれる様にトマト缶で終わらせるが今回はホイル焼き。人数がいると色々作れると燐は貰った食材を見る。
「白身魚ー、茸、貰った葉っぱ達も良く分かんないから全部入れちゃおう。で、バターで、よっ、出来た」
ホイルの口を閉じて網の隅に置くと、固まったままの2人を見て首を傾げた。
「椎茸、嫌いでした?」
美味しいのに。と石突の部分を持つと醤油が垂れない様に気を付けながら笠にかぶりつく。じゅわっと口に旨味が広がり満足気に頬を染めた。
「ん、あ。俺等すまほ無いから調べらんないなって…。いただきます」
燐の声を視線に佐助は取り繕う様述べて、燐を真似て石突を持ち食べる。幸せそうな顔する筈だと初めての味に目を細めた。
「あ、忍の里?じゃ、管理棟行こう。あっちなら電波あるから私のでも調べられるし、そうしよう」
スマホが無い事思い出しちゃったんだと、絶望感で固まっていたであろう2人を見ると立ち上がった。
「その、里の場所、とは…本物なのでしょうか?そこは忍が住まう土地でしょうか?」
あの言い方だと造作も無いのだろうが、と才蔵は慎重に尋ねた。真面目な様子で変な事を聞くと燐は思わず噴き出した。
「あはは本物って。面白いですね才蔵さん。確かに施設名忍の里だから、本物ちっちゃ本物だけど!住んでないですよ流石に」
面白いと笑う姫様。此処の世の女達は良く笑う。女達が笑っている土地は良い土地だって、確か誰かが言ってた気がする。誰だっけな?
「行った事あるの?」
ずっと漂っている才蔵の動揺。此処に鎌之助が居たなら腹を抱えて転げ回っているだろうと容易に想像出来る。
「うん、あるよ。って言っても小さい頃だけど。入場料と別にお金払うと忍服借りれて。後、木の手裏剣投げたり、アスレチックがあったりとか、小さい子供が遊ぶ場所」
佐助の問い掛けに答えた燐は、最後に大人が行ってもガッツリは遊べない事を「子供が」と遠回しに付け足した。
これはフィクションです。勝手に山に入るのは危険です。




