54.炙って直ぐだと柔かくて美味しい
管理棟で洗濯をしている間に、HOW TO飯盒動画を見ながら炊いた燐は洗濯物等を抱えテントに戻った。
「よし、飲もう。あ、その前に干そうだった」
車から雑巾用の布を持って来て木に巻くとその上からロープを巻いて邪魔にならない場所に干し場を作る。
「うん、暑いしもう飲もう。飲みながら干したら良いよね」
だって暑いんだもん。ビールは冷えてるし、時間制限も無いし
炭も良い感じに落ち着いてる。後はつまみのエイヒレ炙りつつ、肉か野菜を焼いたら良いとざっくり計画を立てた。
「っア゛ー…大人で良かった。洗濯物の良い匂いもするし、なんか良い日だな」
何となく洗濯を干して一仕事終えた感を出しながら缶ビールを空けエイヒレを炙る。楽しいなと燐はクーラーボックスを開けた。
「野菜無いのか。チョリソー開けたら保管面倒だな…よし、全部焼いちゃおう」
飲み始めたら動くのが億劫になりそうだと燐は先に色々セッティングを済ませた。
「燐殿」
ダラダラ飲みながらの炭火と焼き物を満喫していた燐は声を掛けられ振り向いた。
「あー、才蔵さん」
困惑顔の才蔵。ご飯食べに来たんじゃないのかな?と首を傾げると才蔵はタオルを差し出す。
「その、此方が地面に…汚れる前にと取って来たのですが」
才蔵に手渡されたタオルに見覚えがあった燐は、木に括っていた筈の紐がだらりと緩み落ちている事に気付き眉を下げた。
「あ!すみません、ありがとうございます」
立ち上がり礼を言うと生乾きのタオルを受け取り、他のタオルが地面につく前に回収しようと向かった。
「良い天気だから、干してたんですけど上手く結べなかったみたいです」
一度全てのタオルを回収し、燐はスマホで巻き方を確認しようと取り出す。
「巻き方、間違ってたのかな?んー」
電波悪いんだったと顔を顰めると画像残って無かったかな?とスマホを操作する。
「その、スマホですが」
才蔵は不自然にならない様に燐の手元をじっと見た。
「あ、はい」
「此処では使えぬと、以前に聞いたのですが」
おずおずと話し掛けて来た才蔵に、そう言えば初対面の時も圏外で困ったんだっけと思い出し答えた燐は、スマホのロックを外し圏外なのが確認できる様に見せた。
「ほら。けど、電波無くても画像は見れるじゃないですか。で、この間食堂に行った時に画像保存してたような気がしたんだけど…無かったみたいです」
「でんぱがあれば、使えるのでしょうか?」
画像を何枚か見せた燐は、才蔵さん達のスマホって結局見付かって無いから何か調べたりしたいのかな?と才蔵を見上げた。
「え?うん。あ、管理棟まで行けば使えますよ。何か調べものあったりします?」
今回はスマホを殆ど使っていなかった燐は充電に余裕もあるし何かあるなら調べてあげようと才蔵を見上げる。
「才蔵が戻って来ないから椅子持って来たんだけど」
「あ、いらっしゃい。椅子適当に置いてね。そのテーブルの物も好きなようにどうぞー」
声に振り向くと赤が居た。才蔵さんが洗濯物を持って来てくれたのは、そういう理由かと分かると赤に声を掛ける。
「ありがと。で、二人して何してんの?」
燐は見ていた画面を佐助に見せ調べたい事があるなら管理棟まで行けば使えると才蔵に言った事をもう一度告げる。
「調べもんは特にないけどさ、二人して布持って何してんのかなって」
「え?あ!それも私のです、すみません。あの木に巻いてたやつです」
木に巻いていた雑巾を持っている才蔵を見た燐は、頭を下げスマホをしまうと手を伸ばした。次に不思議そうにやり取りを聞いている赤に説明する。
「これさ、干してたんだけど紐緩んじゃって。巻き方保存してた筈なんだけどって見てたの」
佐助は燐の説明に、燐の手に持っている布と、才蔵が渡そうとしている布を見比べる。
「ふーん。紐を、幹に巻くの?あの紐?」
きっと姫様の手に持つ、たおるって布を干したいんだろう
佐助は確認するように緩んで木の根元にある紐を指した。
「うん。幹が痛まない様にこれを幹に巻いてからぐーって」
頷いた燐は才蔵から受け取ったタオルを見せた。燐の説明を聞いた佐助はチラと紐が結ばれた方の木を見る。
「ふーん」
その位ならば造作も無いと佐助は燐の手から布を取り軽く地面を蹴った。
「うわ…」
燐は思わず声を漏らす。紐を結んだ木の下に居た佐助は軽く跳んだように見えたのに何故か木の枝に乗っていた。
幻覚見る程飲んでないよね??
燐は目の前の光景が信じられずに首を傾げた。佐助はそのまま器用に紐を結び直す。




