53.出来る頃には朝昼兼用ご飯時間
残りの日数も少ないし、そろそろ本格的にキャンプだなと燐はコンロを組立てようと立ち上がった。
「あ、てんと行くならさ、こっと、出したいんだけど入って良い?」
遠慮がちにかかった声にテント入口で振り向くと、伺う様な様子の赤。
「別に勝手に入って、あ!そっか、ごめん。入って良いよ」
何故そんな事をいちいち聞くんだと首を傾げるも、そう言えばそんな事言ったっけと思い出す。
「言っておいてなんだけど、気にしなくて良いよ。私がお願いしてこっちで寝て貰ったんだし」
昨日は熊の恐怖に怯えず、ぐっすり寝れたと思うと困り顔の赤を手招いた。
「んじゃ、おじゃまします」
2人きりでテントに居るのも嫌だろうと思っていた佐助は全く気にせず背を見せる燐の様子に驚愕した。
この子、物事をちゃんと考えてんのか物凄く不安になるんだけど
「てか変な所律儀だよね。あ、朝ご飯どうすんの?」
テントに入った赤は、手際よくコットをばらし収納袋に入れる。燐は赤を横目に必要な物をコンテナボックスに纏めながらご飯は?と何気なく聞いた。
「んー、昨日食い過ぎたからいっかなぁ」
佐助は朝餉の事だろうと思うも、毎日食う訳でも無いし、食わなくても問題はないと思いながら誤魔化した。
「じゃ、ご飯多めに炊くから後で才蔵さんと一緒においで?」
赤の言い方に朝食は食べない派なのかと思うと残りの生米の小分け袋を確認した。
うん、分かってるけど何だろう。おせっかいは重々承知なんだけど、うん
面倒臭そうな顔でもしてるかな?と振り向くと、赤は不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「あー、嫌じゃなかったらね?お腹空いてたらおいでって事。今日は1日ダラダラ焼く予定だったから、いつでも多分食べる物あるから」
自己責任の下、昼からビール飲んでグダグダするのがソロキャンの醍醐味と勝手に思っている燐は、その予定だと告げた。
「そんな事したら、そのうち食うもん無くなっちまうぜ?」
呆れたように返して来た赤。確かにと思うが使い切った方が帰宅後の片付けが楽だし、足りなければ近場を散策がてら買いに行けば良い。
「荷物少なくしときたいんだよね」
随分とお人好しな言葉に呆れて返すと、気兼ねしない様な配慮の言葉を告げる姫様。本当にお人好しってのはこの御仁の事を言うんだろうね
「ん。なら俺等も何か持って来るよ」
2人分の寝袋とコットを収納した赤は、参加の意思を示した後で立ち上がる。
「えー、無理に持って来ないで良いからね?後、わざわざ買うのは無しで」
どの位連泊するのか分からないけど、車も無いし無理しなくて良いと告げると赤は頷いてテントから出て行った。
「あ、椅子は持って来てって言えば良かったな」
先に言っておけば往復させることも無かったかなと思うも、この距離ならいっかとコンテナの両脇を掴んで立ち上がる。
「くっ、思ったより重いな」
一回で済ませようと色々詰め過ぎたかと思うが、頑張ればいけそうな気もする。
「やっぱり」
入り口が開くと呆れ声と共に入って来た赤は、コンテナをひょいと持つとさっさと出て行った。
「自分で持てるから!」
さっき持てたしイケる気したし、と慌てて赤の後を追いテントから出ると、赤は楽し気な笑みを浮かべて立って居た。
変な声が聞こえたからまさかと思ったけどさ?持てる量が分かんないのかね?忍が居るんだから使えば良いのに
「何処置きゃ良いの?」
譲らない姫様の叫びに苦笑し、物の位置を見ながら返事を待つ。
「私が持つよ」
出て来た姫様は顰め面のまま寄越せと手を差し出して来る。もうここまで持って来ちまったんだし、諦めりゃ良いのに
「此処置いちまうよ?」
私の重い荷物持たなくて良いのにと近付くと、ひょいとかわされ置こうと思っていた場所に置いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
何か悔しい気もするけど、ここは大人だし礼儀は大事と頭を下げる。
「どういたしまして。で、椅子持って来りゃいーんだよね?」
「うん、座る所無いから持って来て下さい。今からご飯炊くから、急いでも30分位は掛かるけど」
食べる気になったのかと燐は生米の袋を取り出し飯盒に入れた。折角だから追加で持って来ようと食材の残りを思い浮かべる。
「良いの?迷惑じゃない?」
透明の袋に入ってた米。白米なんて毎回使っちまって大丈夫なのか?未だ此処の世の価値観が分からないと佐助は眉を下げた。
「全然。それの手伝い分、美味しくご飯炊いておくよ」
いつも適当だったが、今回は管理棟近くの炊事場で動画見ながら炊いてみようと燐は手提げ袋にカセットコンロ等を入れ替えながら答え、赤と別れて炊事場へ向かった。




