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ぬばたまの夢 闇夜の忍~暫く全力のごっこ遊びかよって勘違いからはじまった異世界暮らしは、思ってたのと大分違う。(もふもふを除く)~  作者:


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51.水鏡

布越しに虫の鳴き声が聞こえる。時折聞こえる木々の揺れる葉音と、規則正しい寝息。佐助は静かに起き上がり、寝袋から体半分出すと寝息の聞こえる方を向いた。


「俺等が信用されてんのか、物凄くお人好しなのか」


まさか本当に寝るとはと、眉を下げた佐助は同じく困惑から抜け出せていない様子の才蔵を見た。


「天道みたいな灯も、そっちの湯が出る筒も高価なもんだよなぁ多分」


盗まれるとは思わないのだろうかと溜息交じりに話す佐助の含んだ言い方に才蔵は確かにと思う。


「他意無く施すような御仁であらば後者であろうな」


此処にも善人だけが住まう場所では無いと偵察済の佐助は才蔵の言葉に頷いた。


「朝までに帰って来いよ?」


どれ程暗かろうと忍は夜目が利く。音も無く立ち上がる才蔵を見上げると才蔵は意外そうな顔をする。


「結構朝早いんだぜ?姫様。居ないと怪しむだろ?」


佐助がチラと布の仕切りの方を見れば、確かに朝風呂に入っていたと、才蔵は静かに頷く。


「周囲のみにて戻る」


此処には戦が無く外敵もいない。地形を探っておいて損は無いと才蔵は周辺を見ると告げ霧を纏い消えた。


「んー、じゃ俺も近場で手掛かりでも探そうかね」


才蔵然り。此処がどの場所であろうと元の世に戻れば少しは役に立つだろう。邪魔立てする者が皆無ならば仕事も捗る。


「何で俺は潜れないのかね?」


才蔵は術を使えていたが、自分はいくらやっても体が闇へ溶けないと佐助は顔を顰めた。


「このまま元の世に戻っちまったら即刻あの世行きかお払い箱だよなぁ」


自分の掌をじっと見詰め呟いた。まぁその時が来たら考えようと佐助は立ち上がると静かに入り口を開け外へ出た。


「アンタが明る過ぎると忍び辛ぇったら」


外へ出た佐助は大きな丸い月に目を細めた。静かな灯だが弱いわけでは無い月明かりに手を翳し、じっと見上げる。


「あん時と同じ。ま、月は何百年経とうが同じって事なんだろうね」


土埃と喧騒。両目を瞑ると其れがよみがえる様に耳に響く。両目を開けた佐助は、止まない地響きと怒号に目を見開いた。


「燐ちゃんっ」


佐助は直ぐ様振り返りテントを探す。土埃の中で辛うじて布の一部が見えた。その向こうから軍馬の群れが見えると佐助は必死に名を叫びながら手を伸ばした。


「何だってぇ長はそんな所で寝てるんだい?」


暗がりに声がする。先程の喧騒も何もかも黒に塗り潰された様に周りが見えない。声に反応した佐助は周りを見るが何も見えない。


「…何も見えない?って事は、何?」


何故か動けなかった。手を伸ばしても届かなかった。そして今は目を開けているのに、自分の指先すらも見えない。


「嫌だよぉ。もう忘れちまったのかい?」


この独特な口調、忘れる訳ないと首を振る。佐助は燐の安否を気にしながらも安易に声には出すまいと口を結んだ。


「で、此処は?さっさと報告」


「此処はってアンタ、忘れちまったのかい?アタシだって其処が何処かなんざ分かんないさね」


楽しそうな声に佐助は顔を顰めた。これが術の類なら、そう持たないと思うと必要な情報をと再び報告と短く告げた。


「才蔵の烏が来たのさ。でぇ旦那がどおしてもって言うからねぇ。探すのに十日も掛っちまったよ」


「十日?…まぁ言いや、ほら、さっさと報告。そんな持たねぇだろ?」


此処で過ごした日数と合わないと顔を顰めた佐助は、それでも必要な事をと声の主を急かした。


「はいよ。先ず旦那は無事さね。他も御蔭さんで負傷者は軽傷のみ。裏切り、まぁもう黄泉に行っちまったんだ、報告は要らねぇだろお?」


「無事、良かった」


主の所在に安堵の息を洩らした佐助は、自分達の状況と帰り方が分からない事を告げた。


「おんや、おかしいねぇ?アタシにゃ森と奇妙な箱ん中にいる長と才蔵が見えるんだがね」


「箱?その場所の特徴を詳しく、其れと箱に居たのは俺と才蔵だけ?もう一人」


「長」


「っ?!此処、…あー。切れちまったか」


起き上がった佐助は、周りを見ると悔しそうに呟いた。才蔵は山を何個か見て回り、特徴を記し戻ると佐助が地面に寝ていた事を告げる。


「あー、水鏡にやられた。んで、我が主は無事、軽傷者のみで無事御帰還だとよ」


「鎌之助か」


「此処と刻の流れが違うみてぇだわ。探すのに十日費やしたって言ってた」


一先ず主の無事に胸を撫で下ろした才蔵は、次に日が経ち過ぎている事に顔を顰めた。このままではあの主の事だ。捜索するに違いない。


「もうされてるみてぇ。無事だし、そのうち帰るって上手い事伝えてくれてると良いんだけど」


アイツは面白がって絶対そんな事はしないと佐助も才蔵も眉間の皴を深めた。

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