50.ちょ、才蔵さん
慌てた様に駆けて来る姫様に何かあったのかと顔を見合わせる。
「お待たせしちゃってすみません」
近付いた姫様の言葉に困惑する気を洩らす才蔵。そして多分俺からも出てたと思う。
「そんな事はありません」
「うん。戸の閉まる音がしたから出て来ただけ。もう良いの?」
一つの小さな事実の為に何日も同じ場所で過ごし続ける事が当たり前の俺等には、姫様の配慮が異質で慣れない。
慣れでもしたら、戻って忍なんざやってらんないだろうけど
庭石とでも思ってんのか、報告と屋敷に赴いた際に雨が降ろうが雪が積もってようが、待てと言われりゃ動かず待つのが忍。数分待っただけでそんな顔で駆け寄られちゃ居心地が悪いと佐助は燐を見た。
「うん、温まったから。才蔵さん、佐助さん、今日は宜しくお願いします」
再びの動揺。徐に名を呼び、頭を下げてお願いしますと言う姫様の行動に、とうとう才蔵が固まった。鎌之助が居りゃ、腹抱えて笑ってんだろうなと思いながら苦笑する。
「折角あったまったのに、湯冷めしちまうし、行こっか?」
頭を上げた姫様を促しながら、才蔵の腰辺りを軽く叩くと我に返った才蔵はそれでも困惑の色濃く浮かべてた。
まぁそうなる気持ち、物凄く分かる
少ない荷物を見てそれでも何か手伝うと言う姫様に小さく首を振り星空の下を歩いた。
「え。何故そこ?」
テントに着き先に中に入ってコットを入れやすい様に場所を空けるも、全く入って来る様子が無い。
「えーと、そこ外ですよ?」
「はい」
外を覗くと何故か外の入り口にコットを置き寝袋を広げる2人に思わず声が出た。何か?とでも言いたそうな黒じゃなかった、才蔵さんの視線に何て言っていいのか、困った。
「いや、はいじゃなくて」
「何か」
戸惑いつつ確認するように言うも首を傾げる。いや、正解ですけどみたいな雰囲気出されても
当然のように答えられたので、こっちは何考えてんだと赤を見た。
「一緒に寝るの、嫌だろ?」
こちらも平然と外で寝る気満々な様子だけど。え、外だよ?雨降ったら終了だよ?先ず凍えるよ?
「え、いやどちらかと言えばそうだけど。いや、違くて。大丈夫だから、外寒いし入って下さい」
眉を下げお願いする燐に、当然外で寝る積りだった才蔵と佐助は顔を見合わせた。さっさと入って欲しいと入り口を全開にしながら2人を待つ。
「寒さは感じませぬので」
いやいや何言ってんだこの黒。山を舐めるな
布1枚でもあれば違うと苛立ったが、頼んでるのはこっちだしと溜息で押さえた。
「せめて前室で寝て貰えませんか?熊怖いってこっち来て貰っといて外で寝せるとか、とんでもない嫌な奴じゃないですか」
入り口の布を手で上げたまま今の状況を説明してみると、2人は仕方ないみたいな感じでテントに入って来た。
「じゃ、此処使わせてもらうけど…ほんといーの?」
前室の荷物を全部寝室の奥の方へ追いやって、空いた場所に2人は改めてコットを運び入れた。寝室側が才蔵さん。入り口側の赤の、躊躇い気味の言葉に頷く。
「逆にそっちで良いの?寝室の方が若干温かいから、こっちに入れて貰っても良いんだけど」
コットに寝袋。寒いだろうと装備を見て言うも2人は顔を見合わせた後で首を振る。荷物の再移動も大変だし納得してるなら良いかと寝袋を出した。
「あのさ、コットって寝てて落ちそうになったりしないんですか?」
自分は持ってないし、たまにグルキャンに行っても使っている所を見る機会が無かった燐は興味津々で暗がりに問い掛けた。
「落ちる?まだ落ちた事ないや。才蔵は?」
急に聞こえた興味があるんだろう声音に首を傾げて返し、ついでにと才蔵に振る。
「同じく」
蓑の様な物に包まっているため身動きが制限されている。これで落ちるのだろうか?と才蔵は体を左右に動かしてみた。
「勢いよく動かずば、落ちる事は無いと思います」
「え、才蔵さん実験してくれたんですか。…ありがとうございます」
姫様の最後の方の声が上ずってる。だよね。俺も才蔵の蓑が徐に動いてるの見て吹き出しそうになったもん
「そっち、寒くない?」
小刻みに震えているような布の擦れる音に話題を変えてやろうと暗がりに声を出した。
「あ、大丈夫。ありがと。そっちは寒くない?」
真面目な才蔵が寝袋ごとコットの上で左右に動いている様子を思い浮かべ、堪え切れずに必死に声を押し殺していた燐は、赤ナイス!と心の中で思い答えた。
「寒くないよ。頭まで包まってるし」
この蓑も如何にかして持って行けないもんかね。軽いし温けぇし小さな袋に纏まるし
「寒くなったら毛布あるから声掛けてくださいね。おやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
小さく布の擦れる音とおやすみと掛かる声。やっぱり慣れないと忍二人は居心地悪そうに声を返した。
50話まで投稿出来ました。
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