49.既に100円ですらないのに、100均で分かる店
粗方建物を探り終えた才蔵は、次に湯に浸かり木枠の形状や、湯の漏れない仕組みを探った。
何ぞあったか?
湯の方へ向かう佐助と燐の気配に、何かあったのだろうかと建物に戻り自然に見える様にと一旦湯に浸かった後で建物を出た。
「あ、才蔵さん。どうでしたか?シャンプー」
温泉から出て来た才蔵を見付けた燐は、100均のシャンプーってきしまないのかな?と話し掛けた。
「どうとは。その」
才蔵は感想を求められたのかと思うと、初めて使った物なので比べようも無く困りつつも返答した。
「いや、110円だし髪洗った後でギシギシになったりすんのかなって思って」
不思議そうに自分を見る黒に理由を述べると、黒は自分の髪の先を摘まむ。
「ぎしぎし...」
平気なんだ、110円のリンスインシャンプー。100均クオリティー凄いな、疑っててごめん
「特にその様な事はありません」
毛等特に気にもしなかったと思うも、戦や飢えに気を回す事も無くば容姿等に気に掛ける物なのだろうと言葉を返す。
「それで、再び湯に向かわれるのですか?」
何故此処に姫君が?と不思議に思い問い掛けた。この状況である程度安心出来る容易い対応策ならば、目の前の姫君を術で掌握する事だが、と様子を伺う。
「野生動物が出て危険なんだろ?今。このテントには約束事があって寝れないからって事で、俺等があっちで寝ようって相談しに来たの」
才蔵の問い掛けに気まずそうな気を洩らす姫様。此処で怯んで反故にされちゃかなわねぇと佐助が口を開く。
だから、術なんざ掛けてないっての!そもそも手ぇ出すなって言ったのアンタだろ?!
「左様か」
迷う燐は「なら才蔵に聞いたら良い」と佐助に言われ連れて来られたが、急に自分の都合で寝床の変更とかして貰って良いんだろうかと心の中で葛藤が続いている。
良く分からない男2人とテントで寝る危険って言うか非常識?と電気柵があるって言ってたけど、もしかしてうっかりすり抜けたりしないのかな?っていう恐怖
そこまで脳裏に浮かぶと、はたと別の考えが浮かんだ燐は、目の前の黒と隣の赤の顔を交互に見上げた。
あれ?そもそも襲われるとか前提で考えちゃってたけど。人類滅亡でもあるまいし、このイケメン達が私に手、出さなくない?
被害者意識が物凄く恥ずかしい。羞恥で熱を帯びた顔を顰め、自意識過剰を指摘される前に気付いて良かった!とそっと胸を撫で下ろした。
「燐殿に異存が無ければ、...如何しましたか?」
佐助の嫌そうな気配に気を取られていた才蔵は、俯く燐を不思議に思い問い掛けた。
「あ、急に寝る場所移動とか、迷惑だったかなって。だから無理しないで大丈夫なので、はい」
寝床を作った後の移動なんて糞面倒臭いだろうに良い人だ、と燐は不思議そうに自分を見ている黒の問いに自意識過剰を誤魔化しつつ答えた。
「特に不都合は有りません」
きっぱりと告げる黒。この先、君が困ったら全力で助けるからね。燐は心の中で誓った。
「そんじゃ話しも纏まったし、冷えただろうから温まって来たら?」
小さく腕を擦っている姫様。無意識なんだろうけど、夜も更ければ寒いのだろう。
「え?あ、大丈夫だよ」
何かちょっと動物が懐く様な気を姫様から感じつつ、提案すれば気を使ってか小さく首を振る。
「移動の荷を纏めておきます」
同じく気付いたのか才蔵が促すと、今度は頷く姫様。才蔵に懐いたの?何それ気に入らねぇ
「あ、そっか、荷物。ならちょっとだけ」
才蔵はてんとから布を取って来て姫様に渡す。謙遜しながら受け取った姫様は頭を下げながら湯に向かった。
「何ぞ仕掛ける積りか」
探られる事等無いだろうと思いつつも、姿が消えた事を確認し、問えば嫌そうな気を漂わす。
「高価なもんだろうし、目に付く所にあった方が落ち着くだろ?俺等は何処でも過ごせるんだし」
「左様か」
ただ姫様には心穏やかに過ごして欲しかっただけ。佐助が適当に告げれば、才蔵はそれに淡々と答え、さっさとテントに引き返す。
「何だよ」
「何も」
「あっそ。んで、こっと、と蓑?後なんか必要?」
二人は移動する荷を怪しまれないようにと確認しながら纏めた。
「よもやと思うが手は出すなよ」
「だーかーらー、しないっての!出すなら、もうとっくに出してんだろ?」
才蔵からの声掛けに佐助は声を荒げた。確かに。と佐助の言葉に納得した才蔵は、近付く気配に立ち上がる。
「あ、遅くなってすみません」
タオル迄貸してくれた優しい黒に敬意を払いちゃんと名前で呼ぼうと決めた。今更だけど、何隠れか覚えてないし才蔵さんで良いかな?
足湯で済ませ、電気を消す前に確認すると才蔵達のテントの前に人影が見えた。長湯だったかな?と燐は急ぎ足で向かった。




