44.アンタ何者?!
何故かぶすっとした面持ちで此方を見ていた姫様は、きょろきょろと周りを見回し、テントの方を確認するように振り向いてる。
「ええっと、何で猿飛佐助だけ全部言っちまってんのか疑問なんだけど」
確かに鎌之助もいる。ま、今は才蔵と二人だけど。たいそうぶ、多分部隊か何かの名だろうけど俺はそんなもんに与してない
≪長≫
呆れた気配を出す才蔵に顔を顰める。今聞くべき事は其れではない。んな事分かってるってば!
何故そんな事まで知っているのかと胸の内を探れば、次々驚愕の言葉が浮かんだ。先ずはそっちの把握から。佐助はにこりと燐を見た。
「まぁ、それは良いとして。ねぇ真田忍の他に知ってる忍の、風魔と他にも教えてくれる?」
姫様の胸の内。簡単に読めるがはっきりとは分からない。急く気を静めて待つと、姫様は今度は怯える事無く口を開いた。
「んーと、後は服部かん?はん?蔵位しか分かんないや。団体さんだと黒脛巾組、伊賀、甲賀、風魔、越後、甲斐、尾張…私が知ってるの、こんなもんだよ?」
「だんたいさん」
珍しく才蔵から声が漏れた。うん。今のアンタの気持ち、物凄く分かる。だんたいさんってのは分からないけど、姫様は忍の流派や隠里を言い淀む事無く答えてくれた。
「ええっと、それって皆が知ってるような事なの?」
一体何者?そんだけ知ってれば十分だよ!何で里の場所まで把握してるの?!里の場所なんて口に出したら死って言われてる位なのに!だらだらと嫌な汗が首の後ろを伝う。
「奥州の黒脛巾組以外は有名、だよね?」
動揺を必死に押さえ問い掛けると、姫様は不安気に此方を見た。
秘密を暴かれたとして、こんな素直に吐くだろうか?それとも此処では隠里は既に秘匿の対象では無くなっているのか?そもそも、此処って何処なの?!
「黒脛巾、祖父さんから地元の忍をまず調べれって言われて渋々調べたんだよね確か」
自由研究で調べた地元の忍は知ってると質問に答えると、こっちがビックリする程大きく目を見開いて固まった赤。
「なんか...大丈夫?」
どうしたのかと様子を伺う様に問い掛けるが、微動だにしない。そんな炭火の近くで目見開いてて痛くならないのかな?
「燐殿、その…佐助は、多分酒が…その、具合が悪くなったのかと」
無言のままの佐助。よく見れば先程より顔色も悪いと心配になり問い掛ければ、佐助の代わりに才蔵が答えた。
「佐助、大丈夫?お水飲んだ方が良いよ」
飲み合わせが悪かったのか?と燐は新しいコップに水を注ぎ佐助の側に寄った。
そういえばさっき、色んなラベル見せるのに日本酒とか焼酎とか出してたわ。あれ飲んだのかな?
椅子に座る佐助の前に屈んで顔を覗く様に問い掛けても佐助は微動だにしない。燐はアレルギーとか急アルじゃないよね?と遠慮がちに佐助の腕に触れた。
「っ、あ、ごめ…」
此処は俺等の知る場所では無くて、だけど俺等と同じなの忍は四百年前に存在していた。って事は俺等は常世の先に居る?
理解が追い付かない現状にふわりと花の匂いが漂い、腕にじわりと温かさが広がる。
「いや気にしないで良いよ。お酒合わないとかもあるらしいから。目眩とか吐き気ない?水飲みな?はい」
こんな時でも花の匂いに胸の内にはふわふわと白色が漂う。我に返れば、目の前には心配そうに此方を見上げている姫様。
「あ、りがと」
「取り敢えず座りな。どん位飲んだ?寒くない?」
水を飲んだ俺の為の心配そうな声。促され傍の椅子に座ると、姫様は側に屈んで不安気な瞳で覗き込み問い掛ける。
「大丈夫、大丈夫。さっき喉渇いてさ?一気に飲んだからかな?もうへーき」
気にかけて貰えて嬉しいなんて白色浮かべてる場合じゃねぇ。姫様に笑い掛ければ、そっかと言って席に戻る姿を目で追う
≪此処との繋がりが増えたのみぞ≫
隠里を把握している口振りだったが周知の事柄なれば、秘匿ではない。暴かれたわけで無くば屠る対象には有らずと長を見る。
≪そんな簡単に始末なんざしないっての。それより随分と気に掛けてるようだけど?≫
≪此方を見るな≫
思わず漏れた音に反応したのか才蔵の眉間に皺が寄る。座ってる姫様は自然に振舞った様にぎこちなく視線を逸らす。
「あ、」
こんな全然何一つ、全く隠し切れない行動の女が俺等から何かを盗むなんて出来る筈が無いよね?
「え、あー」
「飯食った時に言ったと思うけど。俺と才蔵は恋仲じゃねぇし、これから先も全く無いからね?」
にこりと笑う顔の怖い赤の迫力に思わず頷いてしまった。でもなんか、見詰め合ってた時の雰囲気が何ていうか。あ、考えるのやめよう
「あ、はい。仲良しって事だよね」
「おやめください気色の悪い」
赤がずっと怖い笑顔で見ているので、同意を求める様に黒に問い掛けるも、黒も全力否定。だったら変な雰囲気出して見詰め合ってないでよと思うも言葉を飲み込んだ。




