43.体操部の猿飛佐助
中身が重要でそれを運ぶ外側に気を取られた事等無かったと佐助は先程燐が飲んでいた空の缶を取るとテーブルに並べる。
やっぱ此処は俺等の常世とは全く違えわ
「色んなもんで選べるってのは凄いね」
自分達の見知った名前が出て来たが、あの乱世から数百年程度でこんなにも様変わりするものなのだろうかと疑問が浮かぶ。
「あのさ、さっきの近所の城って話だけど」
ここが自分達の居た先の世ならば、出来るだけ情報を集めたい
「あ、うん。白石城。城主は片倉小十郎景綱で、伊達家の家臣って、どうしたの?」
ここは自信持って言えると答えると、何故か再び口を半開きのまま自分を見る。何故そんな顔?
「え?知らない?おかしいな結構人気だと思ってたんだけど」
不思議そうにこっち見てるけどアンタ切り殺されても文句言えない事してるって分かってないよね?
「あ!じゃ伊達政宗は?独眼竜政宗、伊達藤次郎政宗。眼帯で、人混みだと絶対迷惑な兜の人」
色んな場所で見る、あの特徴的な兜を両手で再現しつつ、全国的に有名だと思ってたけど違うんだ。と燐は佐助の表情に眉を下げた。
「…御大名達をそんな風に呼ぶなんてアンタ随分と大胆だね」
言葉が直ぐに出なかった。今度は何を言われても驚かないと心構えをした筈だけど。御大名の諱を堂々と言い放って、迷惑って
「あはは、何でそんなビックリした顔してんのかと思ったら。佐助うちの祖父さんみたいだね」
「俺が爺さんに見えるって事?」
面白そうに笑う姫様に顔を顰めて見せれば、姫様は違うと首を振った。
「違う違う、うちの祖父さんも片倉の殿様ばって怒るからさ」
佐助と燐の遣り取りに、才蔵は此処と自分達の常世は何らかの繋がりが有るのかと思うも、このお伽噺の様な状況に顔を顰める。
「その片倉って御仁が四百年前に生きてたって事だよね?」
「うん、多分ね。お城に行くと色々説明あったりするから、機会があったら来てみてよ白石」
「あー、うん」
「ポチ小十郎ってゆるキャラとか、真田幸村タオルとかまだ売ってんのかな?私が城行った時は売ってたよ」
近くの温泉地に行けばご当地武将のキャラクターグッズがあったと告げた。
「真田、今、真田…と」
「あ、はい。毎年秋祭りに居る赤い偉い人」
呟くように問い掛ける黒に、秋まつりで毎年戦っていたと思い出す。
「赤い、偉い人、なんだ。その御仁って他に何したか分かる?」
「えーっと、確かお兄さんが居て、お父さんが...まさゆき?だっけな?」
何をした人なのか。多分偉い人だと思う。毎年小十郎と同じ所に座って号令出してるし。そんで戦ってたから敵?と祭りを思い出す。
「ごめん、私ほんと詳しくないんだ。お兄さんが敵の方で...あ、けど日の本一の兵って事は知ってる」
「日の本一の、つわ、もの」
本当にそれ位しか分からないと燐は答えると、佐助はゆっくり噛み締める様に言葉を吐いた。
「うん。何かそれ有名だよね」
赤の口調に、何かそれも有名だよねと返事をしつつ、後は真田家の存続のために長男が敵の方で戦ったんだっけ?と記憶を呼び起こしていた。
「あーっ!って、ごめん、煩かったよね。でも佐助って、猿飛佐助の佐助?」
今思い出した!と顔を上げた燐は、自分の上げた大声に思わず口を押え謝った。
「へ?あ、まぁ人呼んで猿飛佐助ってのは、そうだけど」
何故か自分の呼び名を問う燐に、佐助は首を傾げつつ答えた。あまり聞かない名前なのに聞き覚えがあったのは秋祭りでだと燐は顔を顰める。
「だよね、佐助って名前どっかで聞いた気がしたんだよ。体操部だ」
やっぱ偽名か、と本名を晒した自分にちょっと後悔した。
「まぁ、必ず本名言う決まりなんて無いもんね。体操部の猿飛佐助なら、真田忍者隊って事だよね?真田忍者隊...」
小学校の自由研究で確か忍調べたわと燐は昔の記憶を引っ張り出そうと顔を顰める。
≪真田にんじゃたい?≫
≪分からぬ。が、繋がりは確か≫
≪繋がりってか兄君が居て父君が聞き間違いじゃなきゃ、さなだゆきむらってのは我が主のこったろ?そんで、俺の呼ばれ名も知ってた≫
佐助は両目を瞑る燐の胸の内を探りつつ、才蔵に自分の名を告げたかと問い掛けた。才蔵は無言で首を横に振る。
≪己の呼ばれ名を告げたのみ。他の事柄については何も≫
俺達の情報を何処まで把握しているのか、若しくは知らぬうちに探られたか。術にかかった記憶は、無い。
≪才蔵≫
才蔵に問えば、小さく横に首を振る。目の前の女は何を何処まで知っているんだろう
「あ!分かった!才蔵って、あれだ!真田3従士?10勇士?何かそんな感じの猿飛佐助、才蔵、鎌之助!」
当時、旅行に連れてって欲しくて遠くの忍を調べたんだった!ナイス自分
小学生の頃の思い出を引き出す事に成功し、パッと目を見開いて自分の問いに自分で答えた。
「あれ?けどそれだと1人足りないな」
そして2人組な事に首を傾げる。え?まさか確認出来ていないだけでもう1人居る?と燐は周りを見回した。




