42.趣向品
見事な連携だと見ていた燐は皿を受け取り、怖いと言ったから直接肉を寄越さなかったのかなと2人を見た。
「あ、ありがとうございます。えっと、もう怖くないから、ってか怖いとか言ってごめんね」
「そんな事で頭なんて下げないでよ。…ほら、肉楽しみだったんだろ?全部焼いて食べちまお?」
佐助は残りの肉と野菜を網の上に乗せる。
「うん。じゃあまた、いただきます」
座り直して再び食べ始めた才蔵と、立ったまま食べている佐助を見た燐は、再び手を合わせた。
「あのさ、焼くの代わるよ?佐助全然座ってないでしょ?ゆっくり食べなよ」
「あ、うん。えーっと」
次々焼いてくれるのは嬉しいが、何となくこき使っている感が気になると話し掛けると何故かキョドる赤。
「燐で良いよ」
「あ、違、そうじゃなくて。あ、じゃぁ…やっぱり燐ちゃん」
首を傾げつつ、自分を伺う様な素振りで見ている赤に、「燐で」と言えば驚いたような顔で暫くこっちを見た後で柔かく微笑む。
「んー、ちゃん付けて呼ばれる歳でも無いんだけど」
キャンプ場で偶然会った元近所の人以外で、燐ちゃんと呼ぶ人はいないと呼ばれ慣れずに眉を寄せる。
「…じゃ、さ?姫様とでも呼ぶ?」
「え。それは嫌」
忍如きに名を紡がれるのは憚られるかと佐助が問えば、燐は最速で拒否った。
忍ごっこに巻き込まれるのだけは絶対無理。姫様とか他の人に聞かれたら恥ずかし過ぎて死ねる
ちょっと考えてみたが、自分も佐助と呼べと言われた時、戸惑ったなと思い出す。結局赤が言う通りに佐助と呼び捨てで呼んでるし。
「あー、何でも良いや。今の聞いたら姫様以外なら。燐でも燐ちゃんでも」
ちゃん呼びも、どうせあと数日だしと気にしない事にした。
「好き嫌いある?」
それよりも焼くのを代わろうと赤の方へ手を差し出すと、何となく伝わったのか赤は肉用トングを差し出す。
「食えれば何でも」
「同じく」
残りの野菜を見て問えば、2人は同じような答えを返す。何でも食べれるのは良い事だよねと燐は残っていた野菜を全て豪快に網に乗せた。
「あ、野菜なら焼肉のたれも良いけど、そっちの少し辛いのも美味しいよ」
燐ちゃん。アンタそんな大胆に網に野菜ぶちまけちまったら、焼き上がりが大変になっちまうだろうに
「そっちってこの赤いの?」
佐助は、興味深気に赤を手に取り皿に垂らし、薬でも確かめるような才蔵の動きに呆れつつ、燐を見た。
「そ。その隣が焼肉のたれ辛口」
そういや、さっきから使ってるなと思ったけどと佐助が確認すると、燐は大きく頷いて手持ちのタレの種類を説明した。
「辛いのが好きなの?」
「そういう訳でもないけど、うーん。そうかも。苦手だった?」
言われるまで気付かなかったが、辛い物が好きなのかもと燐は調味料を見ながら思った。
「結構好きかも」
赤タレを皿に少し垂らし箸先で掬って舐めた佐助は、ぺろりと唇を舐め表情を和らげる。
「野菜に掛けたら旨いや。これ、うどんに垂らしても旨いよね?きっと」
勧められた通りに野菜に掛けて口に入れると確かに旨かったと佐助は頷く。此れも持って行けないもんかねと思いつつも、さっきの城持ちの大名が気になる佐助はチラリと燐を見た。
「そうかも。今度やってみよう」
今それを口に出せば、また目の前の笑顔は消えてしまうと思うと、中々話が振れない。同じ様に野菜にタレをつけ、頬張り笑みを浮かべる燐の様子に、佐助は自然と笑みが零れた。
「それ、飲まないの?」
姫様がさっきまで手に持っていた煌びやかな筒を指した。
「あ、うん。なんか思考がダメになるから」
赤の指す場所に置いてあったビールの缶を手に取った。来る途中の道の駅で買ったご当地ラベルの缶ビール。
「飲む?ビール。さっきクーラーボックス運んでくれたからお礼するって言ったでしょ?まだ冷たいからどうぞ」
「あー。それはもう貰ったから」
きょとりと首を傾げる佐助に先程の礼だと言えば佐助は思い出した様に声をあげると柔く微笑む。何かあげたっけと今度は燐が首を傾げた。
「酒、好きなの?」
「好き、かな?」
先程渡されたピリピリする酒みたい。辛いもんが好き、酒が好き。知る毎にあわが広がってく。
「かな?って自分の事だろ?」
よく飲むのかと問えば疑問が帰って来て、自分の事なのにと佐助が苦笑すれば燐もつられたように笑った。
「途中で買ったんだよね、こういうの旅先じゃないと買えないから。中身は、まぁそんな変わんないんだけど」
限定で出していたりご当地物だったり。流行りに乗って色々代わるパッケージが好きだと言えば佐助は興味深気に見比べていた。




