41.なんか気まずい。
毎度不可解な行動を取るが今回は何時にもまして不可思議な言動の長を一瞥するも、黙々と只管肉を焼いている。
「先程のしだいげき、なる物ですが」
常に開いている口が閉じるとあらば、姫君も訝しんでか押し黙る。気を配り食すらば味も分らぬだろうにと問えば、姫君は安堵を洩らし顔を上げた。
「あ、はい何でもどうぞ」
黒の声に、この際だから時代劇の話題でも兎に角何か話してくれてありがとうと黒を見た。
「その、やしちと、風魔と言うのは、どれ程昔なのでしょうか?」
「え?えー…どの位、えっと私あまり歴史詳しくなくて。あ、けど400年以上は経ってます、よね?」
何でもどうぞとは言ったものの、どの位昔とかは知らんと思いつつ言った手前、燐は一生懸命考えた。
助さん格さん達と風魔小太郎って同じ話に居た?どっちも実在してるんだっけ?
不安になった燐は、誰か確実に知ってる人と思いを巡らせながら答えた。
「四百年」
ぽそりと呟く黒。草編んだ奴で木に登ったり、腹鳴らしながら傷だらけで何か修行してたんだから、この人達の方が歴史知ってるよね?と思いつつ言葉を続けた。
「あ、家の近所に伊達の家臣の人のお城があって。確かその人が400年より前に生まれてて、だからその位かなって。えっと、もしかしたら違うかもしれません、ごめんなさい」
小学生の時、自由研究で何か色々調べた記憶を話すと、目を見開く黒。その表情に、自信なさ気に眉を下げた。
「ちなみにその御仁って?」
朧気だった事柄が、はっきりと繋がった。些末な事に気を取られている場合では無いと佐助は燐に言葉を掛けた。
「あ、っと…」
佐助の声に顔を向けた燐は、ゾワリと背筋に走った悪寒に背を伸ばした。何がと言う訳ではないが、何かが怖いと燐は眉を下げる。
「その、四百年前に生まれてたって伊達者の、名は何てぇの?」
何もかもが未知の此処を勝手に神隠しの先の世なんて名付けて済ましていたがそうも行かねぇみたいだと佐助はざわつく胸の内を沈めながら燐に問い掛けた。
≪長、気を静めろ≫
眉を下げ何かに警戒する様な素振りの燐に、佐助は柔らかい声を出した。
≪んな事どうせこの娘にゃ分かんないだろ?!城の規模、城主が分かりゃ地が分かるんだぜ?≫
「あのさ、ごめん」
突然詫びの言葉を述べ頭を下げる燐の突飛な行動に思考が追い付かない佐助と才蔵は燐を見た。頭を上げた燐は申し訳なさそうな顔で続ける。
「ええっと、なんか黙っちゃうし、あ元々無口だけど何か違くて。何か怖いし。先に謝っとこうと思って、ごめんなさい」
赤の無言はちゃん付け発言で気まずいのかと思って気にしていなかったが、綺麗に笑う赤の笑顔が怖い。
そもそも何故こんな雰囲気になったんだろう?
振り返った燐は、イケメン発言か?と思うと、容姿の事を言われるのは嫌だったのかと黒を見て再び頭を下げた。
「違います、燐殿が謝る事なぞ有りませぬ故」
隠し切れない程に動揺していた事を悟られた二人は頭を下げる燐にバツが悪そうに眉を下げる。
「あ、のさ。怖いって、えっと、顔上げてよ。怖いなら俺、離れるから、ね?」
オロオロしながら口を開いて出て来た言葉には燐への気遣いがみえた。互いの言葉に二人は忍らしからぬと各々思うも口には出さず顔を上げる燐を待つ。
「や、別に離れなくても大丈夫、なんだけど」
おずおずと顔を上げた燐に佐助は内心安堵の息を洩らし、才蔵はそんな佐助の様子を見て口を開く。
「怖いとは、此れが何かいたしましたか?」
殺気は分からぬ筈。ならばと才蔵は佐助を一瞥し、問い掛けた。
≪何もしちゃいないっての!≫
「え?あ、違くて。多分才蔵さんが悪く言われたから怒ってたのかと」
そんな訳ない。才蔵は強くそう思ったが、言葉の代わりに溜息で留めた。
「俺は何も悪く言われてはおりませぬ。ただ…肉の味の違いは何かを、その考えていて」
嫌そうに歪めた顔のまま、深く溜息を吐くと何か良い言い訳をと才蔵は目の前の肉を見ながら話した。
「え。それはこのお肉が手間暇かかった高級肉だからですよ」
もう酒飲むのやめよう。思わず口から出てしまった言葉に、燐は思考力がこれ以上落ちると余計な事を言いそうだと開けようとしていた缶を置いた。
「ならさ?その高級肉は旨いうちに食っちまった方が良いんじゃない?はい」
「どうぞ」
燐の返しにテンポよく佐助が続けながら焼けた肉を燐にと、途中で箸の向きをを才蔵の方へ変えた。才蔵は近くの新しい紙皿を佐助に差し出す。佐助がそれに肉を置くと才蔵は燐に差し出した。




