40.繋り
自分達が思わず出しちまった気配を感じたのか眉を下げる姫様。才蔵に視線を送るも呆けたまま。
≪才蔵≫
姫様の顔が曇る。何でか分かんないけど、姫様にそんな顔させたくないと才蔵に殺気を送った。
「そういう事だったんなら才蔵も選んだら?ほら旨い肉に呆けてないでさ」
多分目まぐるしく知り得た情報を整理しているのだろうけど。
≪才蔵!≫
殺気に気付いて顔を上げ、我に返った才蔵は、差し出した肉の乗った白くて軽い板を見る。
「ならば、先に食べたその、細長い物を」
ま、全く繋がりの無かった此処と、俺等が居た場所に出来た繋がりを突然耳にしたらこうなっちまう気持ちは物凄く分かるけどさ。
バツの悪そうな顔の才蔵と、本当に肉が上手くて呆けていたのかと簡単に信じたような姫様の気配にほぅと小さく息が漏れた。
「佐助、焼くの代わるからゆっくり食べたら?」
手慣れている様子だったから違和感なく過ごしていたが、さっきからずっと立ったまま炭火の側で肉を焼いている赤。
「あ、うん。 え、っと」
そろそろ代ろうかと問い掛けると、何故か言い淀み困惑顔でこっちを見る。何か返事もぎこちないし。
「自分で焼きたい派なら続けて貰って良いんだけど。なんかさっきからずっと焼いてくれてたから悪いなって」
さすけ。柔かそうな唇から何の気負いも無しに自分の名が紡がれた瞬間に心の臓が痛んだ。その後で泡が息苦しい程に溢れ出て何が起こってんのか理解が出来なかった。
「ほら買い出し行って貰ったから俺が焼こうかと思ってただけだから、代わる?」
不安気な顔でこっちを見る姫様に慌てて首を振る。
「そういうとこ、律儀だよね。気にしなくて良いのに」
姫様が呆れたような顔で小さく笑う。うん、見るならそういう顔が良い。けどそうも言ってらんないよね。と才蔵をチラと見た。
「その、じだいげきと言うのは」
燐が言っていた武士、侍、お殿様。その言葉に聞き覚えがあった才蔵は、様子のおかしい上役の事は捨て置こうと思うと問い掛けた。
「え?昔の丁髷の殿とか爺とか、徳川何だっけな?上様の名前。後、伊達政宗とか織田信長?見てたな最近」
才蔵の問い掛けに今は地上波で再放送とかしてないんだっけ。と祖父の見ている番組の話しをした。
「あ!忍も出てるよ、かげろうお銀とか、風車の弥七とか、風魔小太郎とか」
そう言えばこの人達本気の忍ごっこしてたんだから忍なら分かるよね?と知ってる忍の名前を出してみた。
「あ、のさ?その徳川とか伊達とか織田とかってのと、最後の風魔は同じ、じだいげきなの?」
自分の感じている不調なんてどうでも良い位の衝撃的な発言に佐助は一瞬身を固くする。
≪何故に臆もなく≫
同じく聞き覚えのある大名の名を堂々と呼ぶ燐に警戒する才蔵。佐助は疑心を悟られない様にと燐に問い掛けた。
「んー、どうだったかなぁ?うちの祖父さんがよく見てたから一緒に見てた程度だったから」
お銀と弥七は水戸黄門でセットな感じだったけど、他は一緒だったかな?と燐は思い出すように首を傾げた。
「燐ちゃんも肉焼けてるよ?はい」
知りたい情報は山程あるが、急に追い詰めるのは拙い。忍が気を悟られるなと自分の戸惑いを隠し燐の皿に肉を置く。
「…あ、ありがとう、ございます」
と、何故か燐も此方を見て固まっている。佐助は微妙な雰囲気に小さく首を傾げた。
「あ、いや、急に燐ちゃん呼びされたもので」
首を傾げて自分を見る佐助。燐は何の前触れも無く自分を燐ちゃんと呼ぶ佐助に驚いたことを正直に話した。
「嘘だろ?!っ、ごめっ」
すると佐助は目を見開き自分と目が合うと瞬時に顔を赤くし、それを見られたくないのかトングを持ったままの腕で顔を覆った。
「あー、ごめん、ほんとごめんね?いや、何て呼ぼうかと思ってて、えっと」
言っちまってたなんて、気付かなかった!忍としてってか、駄目だろ?!
赤らむ頬に表情を自分で管理出来ないんてと顔を顰めた佐助は、今まで密かに呼んでいた名を声に出していた事を何とか誤魔化そうと弁解した。
「あ、大丈夫です。燐でも良いけど、や、そんな謝られなくて良いから、うん。取り敢えず肉、焼こうか」
何だろう?チャラ男と思っていたけど何か違うのかもしれない。
突然の親し気な燐ちゃん呼びにヒクわーと伝えたかったのに、そんな真っ赤な顔で言い訳されると居た堪れないと燐は眉を下げると佐助の持つ肉を指した。
「っ、肉。うん、焼く」
キョドりつつ肉を網に乗せる佐助の未だ真っ赤な耳を見てしまった燐は、佐助の急なキャラ変更に1人戸惑った。




