4.今そういうのいらないから
黒忍はフイと顔を逸らした。
もしかして秘密で忍ごっこしてたのかな?
ちょっと居た堪れなくなった。ひっそり仲間内で楽しんでいたのにライトでずっと照らされて凝視されたら気まずいよね。もしかして夜間に何かしたくて待ってたのかもしれない。
いやでも迷惑だからね?夜だし
なんかごめんと思いつつも、自分のテントの近くに居座られるのは迷惑なんだけどと声を掛けた。
「え…と、ですね。今日これから結構冷えるらしいですよ?あ、余計なお世話かもですけどこれから雨降るらしいし、戻った方が良いかと」
再び怪訝な顔を向けて来た無言の黒忍は少し上げた腕をだらりと下げた。追い払うような仕草に、立ち退きは諦めた。
あんまりきつく言って報復とか怖いしね
まぁ見た感じ大人だし一応天気予報を教えたし、と何となく会釈をした。
面倒臭いけど管理棟の方まで歩いて行ってから様子見つつテントに戻ろう
通り抜けようとし、黒忍の肩が大きく破れ血が滲んでいる事に目を見開いた。
「ちょっと、ねぇ!血出てるよ?!」
黒忍は荒げた声にも微動だにしない。土埃で汚れた衣服。顔は青白く、乾燥している様子のひび割れた唇に色は無い。肩以外にも擦り傷が見えた。
「水分補給してた?!脱水?てか、この傷どっかから落ちたの?ちょっと何やってんのっていうか忍者ルックだからって出来る事と出来ない事があるでしょうよ」
もう少しで馬鹿なの?と言いそうになるも大きく息を吐き、怖さも忘れ黒の側に屈んだ。
「...」
相変わらずの無言に苛々しつつも取り敢えず黒の側により状況を確認する。
「取り敢えずこれ飲んで」
熱感は無いが確認と爪を押すと色が戻らない。日中は嵩張る冬装備を持って来た事を後悔した位暑かった事を思い出す。
「麦茶だから、ほら」
麦茶のペットボトルを面倒臭いので確認を取らず強引に口に押し付けた。
「歩ける?って、先ず立てる?」
ほぼ飲み終えた黒は問い掛けに小さく首を横に振った。
いや、会話しましょうよ!
嫌そうにしつつも抵抗する体力が無いのか、触るよと一言断って腕を動かすとされるがままの黒。骨は折れてない。多分だけど。
「何者ぞ」
掠れた声で発した言葉が何者ぞって、ぞってなんだよ。こんな状況でも忍ごっこを続行するとか意味分からん。
「いや今そういうのいらないから。痛かったら言ってよ?」
こんな所に置いておけない。でも夜間って確か管理棟誰も居ないんじゃ?と思い出す。
一先ず夜間管理者の番号を確認だ
テントに行こうと黒の腕を引き肩に乗せようとすると、フラフラと自力で立ち上がる。
「歩けます?」
よろよろしつつも遠慮を見せる黒を担ぐように支えながらテントに向かった。
「ええっと、スマホとか持ってないですよね?…だよね」
私の格安スマホ、圏外。念の為聞いてみるも無言。
いや、なんか話せよ。
ほぼ初対面の不審者な男を放置して公衆電話探しに行く?いやでも荷物盗まれたりとかしたら嫌
視線を落とすと、黒の剥き出しの肩の傷は土と血が混じっていた。
「私のスマホ圏外で救急車とか呼べないんで、一先ず傷の手当てしますね?そのままだと感染症とか怖いし」
無言のままの黒の傷を把握しようと服脱いでと言えば目を見開く黒。
いや襲ったりしないから。何なの?失礼じゃない?
お湯の入った水筒とタオルを渡せば困ったように首を傾げる。いやだから、そういうの今いらないから。
「あー、そうだよね。はいはい。この中にお湯が入ってるから開けてタオルに沁み込ませて、傷口綺麗にしてください」
もうこっちが大人になろう。顔見たけど実際私の方が年上だろうし
テントの前室に黒を入れライトを点けると明るさに驚いた様に小さく動いた事を思い出す。
そうだよね全力で忍ごっこしてんだもんね
顔を顰めつつお湯を染み込ませたタオルを渡す。動かないのか動けないのか。
まぁ動けないんだろうなぁ。こんな傷だらけで何やってたんだろう
痺れを切らしてやって良い?と確認を取り肩の血を拭うと小さく身じろぐも抵抗せず処置させてくれた。
「他に痛い所とかないの?お腹、血は止まってたみたいだけど、後でちゃんと病院に行きなよ?」
包帯を切った即席ガーゼを見える所の傷に貼り終え、古傷が開いたという腹に巻かれた血の滲んだ包帯を替え終える。
「古傷故、ご容赦を」
唯一発した言葉は何者ぞと古傷の説明のみ。再び無言になった素性の分らない傷だらけの黒に溜息を洩らした。
ご容赦をじゃないからね?もう先ず脱いでくれ。面倒臭え
次は忍視点。重複する内容なので不要な方は6.へ