36.保冷力が高いと重い
二人並んで歩く道。息苦しさは続いていたが黒い靄は消え、替わりにしゃぼんのあわが広がってる胸の内。
「買い物行ったんだ」
「あ、うん。ちょっと遠いけど大きい100均入ってる所に行って来たんだ。さっきの皿とか箸とか買いに」
「そっか。色々なかったから助かるよ。ありがと」
連泊予定なのに全部レンタルって割高じゃないかと余計なお節介と思いつつ、数百円で揃う店ならと連れて行った事を話すと、佐助は素直に礼を述べた。
「バンガローってさ、タオルとか食器も付いてんだね。知らなくてさ。才蔵さんが何も持ってないみたいだったからビックリした」
「んと、何が必要かとか、良く分かんなくて全部借りたんだよね」
他愛ない会話をしていると、言葉と一緒に息苦しさは消える。
「そうなんだ。あんまり買い物しない人なのかな?何か全部にすっごい悩んでて、1個ずつ手に取って調べてたよ」
「あー、色とか柄はどうでも良いんだと思うんだけど、素材が気になったんじゃない?」
多分、いや確実に戸惑いを必死に隠しながら、品物を手に取っていただろう才蔵が容易に思い浮かぶ。ちょっと見てみたかったかもと小さく笑った。
「時間かかったろ?付き合わせちゃって、ごめんね?」
気に掛かる事はとことん調べつくすのが忍。というか、才蔵。一緒に行って手持ち無沙汰だっただろうと問えば、姫様は楽しそうな笑みを浮かべて首を振った。
「楽しかったよ。てか、タオルの柔らか具合っていうのかな?なんかすっごい触りまくってたのに、最終的に手拭い買ってたしさ」
言葉通り、才蔵はタオル一枚選ぶのにも時間を掛けていた。
「そうなんだ」
きっと才蔵の事を思い出しているんだろう笑顔に、また息苦しくなる。調子が悪いのに、原因が分からない。
「あ、最終的にシャンプーとかは私が選んじゃったから、気に入らなくても我慢してね」
あんなにタオルに時間を掛けたのに、全く拘らず隣同士に置かれた品を数秒で決めた事を思い出す。
「選んで貰っといて文句なんて言わないよ」
バラの香りと、柑橘系を無造作にカゴに入れたので流石に止め、自分が選んだと言うと赤は柔らかく笑った。
「そ?一応それぞれに似合いそうな匂いにしたから楽しみに使って」
自分の為に選んだと言われれば、ふわりと白い物が浮かぶ。胸の内はあの柔かいあわで覆われているのに今は息苦しさは感じない。
「選んでくれたんだ。あんがとね」
ふわふわ漂う心地よさに佐助は小さく笑んだ。
「あ、飲み物も拘らないって言ってたから適当に買っちゃったんだ!」
流石チャラ男だけあって誑し感が凄い!不意の笑顔に赤らむ顔を逸らし、手元のバッグを漁りながら早口で言い切ると鍵を手にテント入口に屈んだ。
「あ、それご飯。蒸らし中でまだ熱いから気を付けてね。後…野菜とか焼かせて貰っても良いかな?食べるよね?」
入り口に靴を脱ぎ這うように中に入って行った燐は中から佐助に声を掛ける。
「アンタの飯の分が無くなっちまうんじゃないの?」
佐助は入り口外に屈むと、熱いと言いながら近くに置かれた布袋を邪魔にならない所に移動しながら答えた。
「んー、でも残り微妙なんだよね。すぐそこで新鮮野菜売ってたし。あ、野菜とか嫌いだった?」
保管用のクーラーボックスを開けた燐は、重いけど2人でなら運べそうだし一旦全部持って行って、ついでに整理しようと思うと佐助に声を掛けた。
「嫌いとかは無いけど、俺等に寄越したらり、アンタの分が無くなっちまうよ?って事」
燐の言葉にどこまでお人好しなんだと呆れつつ佐助は答える。
「でっも、はぁー。美味しく食べれるうちに食べた方がさ」
思ったより重い。最初どうやって設置したんだっけと燐は佐助に答えながら初日を思い出す。数日氷が解けないと定評の重たいクーラーボックス。
「ん゛ーっ…はっ、んーっ、ダメか」
重さに負け空で持って来て、それから氷とか入れたんだったと思い出した。全く持ち上がらない。
「あ、のさ…大丈夫?」
なんか変な声出してるんだけど、これって勝手に中見ちゃって良いもんかね?
「はー...ン゛っーくっやっぱ無理か。持ってけないか」
聞きようによっちゃ色っぽく聞こえないでもない吐息。ま、言ってる内容は全く艶っぽくないんだけどさ。
「どれ持ってくの?入っても良ければ俺持つよ?」
「え?入るのは良いけど、これ。物凄く重いから無理しないで大丈夫だよ」
押しても引いても無理だったクーラーボックスを指すと、赤は側へ屈んでひょいと持ち上げた。
「嘘?!持てんの?!」
佐助が容易く持ち上げる様子に燐は思わず声を荒げた。佐助はそのまま外へ持ち出すと、此れ位で驚かれるとはと眉を下げた。




