35.BBQ準備
食堂の料金を纏める才蔵。何処に居てもやる事は変わらない生真面目な才蔵の様子に手持無沙汰に周りを見回した。
「なんか物増えてねぇ?」
佐助は訝し気に問い掛けた。留守の間に何があったのだろうか。
「湯の道具等、買い揃えた」
この糞真面目な男が自分の様に物を手に入れる事が想像できない。
「揃えたって金子は?」
気になり首を傾げれば才蔵は嫌そうに息を吐く。
「結果として、拝借申した…今より支払う」
「ちょいまち、支払うって」
腰を浮かす才蔵を制した佐助は近付く気配に気付き、無言で立ち上がる才蔵に顔を顰めた。
「炭火の様子を見る」
言うも言わぬも、どうせすぐ分かると才蔵はテントを出た。
「あ、そろそろかなって。調味料とか、さっき買った紙皿とか持って来ました」
外から聞こえた声に佐助は面白くないと顔を顰めた。
「炭の量が分からず。不足でしたら足します」
「炭足りなそうなら後で足しましょう。お肉持って来ますね。あ、これ置いてって良いですか?」
持って来た物を置く場所が欲しいのだろうと思うと、佐助は畳んであった台を両脇に抱えた。
「まず、先程のお借りした分です」
「あ、けどそれはお肉の分でチャラじゃないですか?」
「いえ、肉は元々金を払った物では無いので」
テントから少し離れた布が張られた日陰では、昨日薪を燃やしていた銀の脚付きの箱で炭火を焚いてる才蔵に話し掛けてる姫様。
「えーじゃあ飲み物と紙皿とかの分は私も使うので、それ以外はいただきます。…お釣りあるかな?才蔵さん、細かいのありますか?」
「細かい釣りは不要です。燐殿には連れて行って頂きましたので」
知らない間に名まで呼び合っちゃって、随分と仲良くなってる二人。
「えーじゃ私が今返せる分、返しますから。えっと、16円足りないけどごめん」
姫様は親し気に手を伸ばし、才蔵も距離を取らずに受け取ってる。
「あ、それ使って良いの?今から才蔵さんが当ててくれた豪華なお肉で焼肉なんだけど、って大丈夫?具合悪いの?」
畳んだテーブルを両脇に置いて俯いている赤に声を掛けた。
「分かんない」
軽い返事ではなかった事に、具合悪いのかな?と何となく雰囲気が違う赤に近付いた。
「分かんないって、ほんと大丈夫?」
心配そうな姫様の声音と気配に息苦しさが増し、思わず胸元を強く掴んだ。そんな事したって如何にもならないってのに。
「あーごめん。大丈夫。これ、そっちに置きゃいーの?」
「うん、1つ持つよ」
炭火を調節している才蔵の方を向き言えば、頷いた姫様は荷物を持っていない方の手を伸ばして近寄って来る。
「このまま持ってくよ。そんな重いもんでもないし」
何となく顔を見たくなくて、早口に言いえば心配そうに着いて来る姫様。忍の手伝いなんて酔狂な御仁だよね。
「ありがと。あ、このタレとか適当に使って良いから。紙皿とか割り箸とか、ここに纏めとくね」
台を広げて二つ置くと姫様は礼を述べて、持って来た物を次々台の上に並べてく。
「んじゃ俺は戻るわ」
楽しそうな姫様の様子に黒い靄が掛かる様に息苦しさが増す。
「え、何で?具合悪いんなら後で持って行ったげるけど、絶対焼きたての方が美味しいよ?ちょっと食べたら?」
「戻るわ」と踵を返すが、それ程顔色も悪そうに見えない赤を、折角高級肉なんだからと呼び止めた。振り向いた赤は何となく気まずそうな顔をしている。
「約束、してたんだろ?…俺も、一緒で良いの?」
一緒で良いも何も、混ぜて貰っているのは自分の方だろうと首を傾げると、赤は視線を逸らす。
「二人で約束してたんだろ?なら俺は居ない方が良くない?」
買い出しも行ってないのに食べるのは気が引ける感じだった的な?と首を傾げる。
「え?2人でって買い出しの時居なかったじゃん。変な気使わなくて良いから自分の椅子とか持って来なよ。才蔵さーん私、肉持って来ますねー」
変な所で気遣いを見せる赤に言い終わると、黒に声を掛け、クーラーボックスを取りに戻った。
「手伝うよ」
後から声が掛かり振り返ると追い付いた赤が隣に並ぶ。人手があれば往復しないで色々持って行けると赤を見上げた。
「あ、いーの?実は飲み物とか氷とか重いから助かる。ありがとね」
並んで歩くのは楽しい。話す姫様を見てると息苦しさが無くなる。
「どうやって持って来る積もりだったのさ」
「え?何回かに別けて持っていこうと思ってた」
俺が行かなかったら如何するのかと問えば、当たり前のように答える姫様。女達が一人で立つ様な強い世なのかね?




